5-10
俺がクソエロフから学んだものは魔法だけではない。
悪魔についてもそうだが、世界の仕組みについても学んでいた。
この世界には魔力という目には映らない力が存在している。
それは自然や空気と同じくある程度の偏りはあるが、世界全域に広がっている。
そしてその偏り。
偏りが大きい部分のことを昔の賢人達は龍脈と呼び、エルフの住む森もその一つである。
精霊は魔力が濃い場所を好み、精霊から力を得る術を持つリーリャはその場ではアークベルトすら凌ぐ力を有するとも。
しかし、魔力を好む生態系を持つのは精霊だけではない。
魔物の生態系について一つ確かなこと。
それは精霊と同じく魔力を好むこと。
ここで龍脈の名の由来だが、読んで字の如く。
そこは龍の棲家であることが多いためだ。
この前提があるので、俺の捜索すべき所はある程度絞られる。
魔力探査により見つけた魔力の濃い場所を探せばいいのだ。
そして街から20キロ程離れた場所に、明らかに自然に造られたものではない不自然に魔力の濃い場所を発見した。
「…わかりやすっ。まあ…助かるからいいが」
反応はここから一キロ程東の森から。
すでにここも深い森の中なので、人が入ってくることはまずないだろう。
要塞都市からも随分と離れているのでこれまでの捜索で見つけられなかったのも頷ける。
「ガル。ここからは別行動であの場所へ近づこう。どちらかが窮地に追い込まれたら、敵の隙を突きお互いをカバーする。どうだ?」
グルルルルッ
何とか伝わったようだ。
明らかに作為的な気配を感じる。つまり、あの場所で何かが行われており、そこにはそれをしているナニカがいるということ。
俺達は二手に別れ、反応が示す場所へと其々向かうのであった。
「何の反応も…ない、な」
正確には禍々しい魔力反応が目の前から発せられている。
しかし、想像していた敵の姿は何処にも見当たらず、またその反応も襲撃もなかった。
グルルッ
「臭いもないのか。いよいよ、ここは無人というわけだな」
ガルからも人の気配はないと告げられた。
「それにしても…なんだ?この巨大な鉄の塊は」
目の前に鎮座するのは地中から生えているように見える巨大な鉄で造られた円形の輪。
その空洞の部分には反対側が見通しづらい程の黒い何かが漂っている。
まあ、それは凄まじく濃い魔力なのだが。
「空間に干渉するほどの魔力……これはこの鉄の塊が創り出していると考えていい…のか?」
考えてもわかるはずもないが、結果は目の前にある。
リーリャに相談してもいいが…どうせ答えは決まっている。
「ん?なんだあれは…」
鉄の輪の真横に、明らかに森のものではないナニカを見つけた。
近づいてよく見ると…
「服の残骸?いや、持ち主もセットか」
下半身の服の残骸かと思えば、中には大腿部のものと思われる骨が見えた。
肉は獣に食べられたか、自然に還ったかだろう。
「これはもしかしなくとも、持ち主亡き後も動き続けている魔導具か何かなのでは?」
この恐らく遺体であろう者が遺した鉄の輪。
今も元気に動いているが、製作者は死んでいると。
つまり、ここに敵はいないし、恐らく今後も現れない。
「時間的余裕があるのであれば…調べないわけにもいかないか」
リーリャへと相談したところで壊してその残骸を持って来いと言われるだけ。
面倒事が増えるくらいならば、この変わった魔導具の性能を自分で調べた方が楽だと結論付けた。
「というわけで、今日はここで泊まることになるかもしれない。
一旦報告に戻ろう。いいか?」
ガルルッ
良い返事が聞けたので、ガルには悪いが最速で往復してもらうこととなった。
「確かに見たことがないです」
それはそうだろう。半生を街の中で過ごし、その後は出会うまで奴隷だったのだから。
俺よりも知見が狭くて当然であり、当然の感想だ。
「…街の方が安全だぞ?」
「ご主人様のお傍が一番安全です。…ご迷惑でしたか?」
「いや、許可したのだから気にするな」
本来であれば、俺を再びここへ送った後、ガルにはカレンがいる街へと戻ってもらう予定だった。
恐らくここから魔物が街へと向かうだろうとは予想しているが、あくまでも予想に過ぎない。
もし、ここが全くの見当違いで原因が別の所にあれば、街はまた魔物の襲撃に遭ってしまう。
それを予防する為にもガルに連絡係兼カレンの護衛をお願いするつもりだったのだ。
しかし再びここへ戻ると伝えるや否や、心配性のカレンが…
『死ぬならばご主人様の傍で』
なんて言うものだから…
こちらとしては死ぬつもりも死なせるつもりも毛頭ないのだが。
「とりあえず、少し離れた場所から変化があるまで観察する。カレンは飯の支度を頼む」
「はい。久しぶりですが、お口に合うように頑張ります。行きましょう、ガルちゃん」
グルル…
ガルはちゃん付けがお気に召さない様子。
着いてくるにあたり、カレンにここへ来る為の条件を出していた。
それはガルの傍を離れないこと。何か起きればその背に直ぐ様飛び乗るように、と。
一匹と一人は場所を移動すると、夕食の支度に取り掛かるのだった。
グエェェェ…
カレンの飯は普通に美味かった。幼少期から料理していただけのことはある。
そんな満足いく夕食を終えても変化はなく、そろそろ不安になって来たところでその時は訪れた。
「来たぞ。カレンはガルの背に」
「はい」
俺はこれまで勘違いをしていた。
てっきり、あの魔導具から街を襲撃してきた魔物が産まれてきたのだと。
「グリフォン…それも数が多い」
こちらへと飛来してきたのは、昨夜倒したグリフォン。
しかしその数は二体ではなく、倍以上の五体へとその数を増していた。
時刻は夜の帳が下りた頃。
もしかしたら、グリフォンは夜行性なのか?
それとも他に理由があるのだろうか?
「いやいや…その考察は必要ないな。今肝心なことは、このグリフォン達がどうなって、その後どうするのか。この一点のみ」
魔導具の上空で旋回を続けるグリフォンの群れ。
ここからまた待つのかと思っていると、一体のグリフォンが魔導具へ向かい滑降してきた。
巨大生物が作り出す風は突風となり、20mほど離れた位置に隠れている俺にもその影響が襲う。
木の葉が舞い上がり、それが痛いほど打ちつけて来た。
それでも目を離すことなくその行方を見守る。
「通過…した?」
鉄の輪は直径10m程のもの。翼を畳めばグリフォンですら優に潜ることが出来る。
その輪の中を一体のグリフォンが潜ると、他のグリフォンも続いていった。
「その後は…成程…そういうことだったのか」
全てを見届けると、俺はガルの元へ向かう。
「戻るぞ。ガル。最速で頼む。カレンは俺が抱えておくから問題ない。カレン、時間がない。食材や寝具は置いていく。掴まれ」
「は、はい」
ガルルルッ
カレンを抱えるとガルの背に飛び乗り、同時に出発となった。
一瞬にして変わる景色にカレンが心配になるが、俺の胸に顔を押し付けているので問題なさそうだ。
後は飛ばされないようにしっかりと俺が抱えておけばいい。
「カイコ殿が戻られました!」
案の定、街は多数のグリフォンから攻撃を受けていた。
街へ着くとガルにカレンを任せ、俺は兵士の案内で戦場となっている屋上へと向かった。
「カイコ殿!どうでしたか?!」
俺の顔を確認するや否や、ルパートが何とも言えない表情で答えを求めた。
「原因はわかった。とりあえず、先ずはコイツらをどうにかする。魔法部隊には防御に専念してもらい、その護衛に兵を残して後は避難してくれ」
「わかりました!皆の者、我らに光明が差した!ここが踏ん張りどころだ!誰一人死んではならぬ!」
「「「「おおおうっ!」」」」
指揮官からの激励に怒号で応える。
ここの兵隊は皆気持ちの良い者達ばかりだ。
軍の役割は侵略と防衛。
侵略時にはその命を賭して作戦を遂行するが、防衛時は違う。
命懸けであることは変わりないが、民を守る為に軍人が命を捨ててはならない。
その命一つで救える命は一つではないからだ。
先ずは己を守ること。それが出来て初めて他人を守ることが出来る。
そこがブレていないのであれば、この国は強い国であり続けられるだろう。
……歴史書の読み過ぎか。
いらん考察ばかりが増えているな。
「さて。先ずは注意を引く為にもド派手にいこうか」
前回は二体が相手だった。しかし今回は倍以上いる。
プラスに考えられるところは的が多いこと。
よって、街に被害の出ない上空へ向けて、久方ぶりの全力魔法を開戦の狼煙としてぶち上げることに決めた。
その日、要塞都市では夜中に太陽が昇ったと伝説になった。




