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悪魔の落とし子  作者: ふたりぼっち
山籠りの老師に拾われた子、人里に現る
73/115

5-9

 






「グリフォンですっ!数は二体!」


 夕餉は終わり、与えられた部屋で二人と一匹で寝て過ごしていると、扉が激しく叩かれた後、現状の報告を受けた。


「すぐに出る。攻撃せず防衛に注力するように伝えてくれ」

「はっ!」


 扉の向こうからの返事に俺は支度を進める。

 支度の最終段階である外套を纏うとカレンの視線に気付いた。


「安心しろ。ガルは置いていく。頭を低くしてガルの側にいろ」

「私のことよりっ……いえ、お気をつけて」

「?わかった」


 不安そうにしていたから安心させようと口を開いたが、必要なかったようだ。

 俺は剣を掴むと、廊下ではなく窓へ向かって駆け出した。


 窓を開けて上を見るが、ここからでは何も見ることが出来なかった。

 ここは来賓室。比較的安全を考慮した場所に作られているからなのかもしれない。


 窓枠に足をかけ、上階の窓枠へ向かって飛び出す。

 それを何度か繰り返すと、やがて屋上へと辿り着いた。


「うわっ!?って…英雄殿!?」


 時刻は星明かりだけが頼りの深夜。

 暗闇且つ人が現れないだろう場所から急に飛び出したものだから兵士を驚かせてしまう。

 しかし、この移動方法が一番早いので後悔はない。


「驚かせて悪いな。敵は何処にいる?」

「いえ。あちらです。二体が固まっています」


 兵の指さす方を見ると、二体の黒い影が空中から地上へ向けて交互に攻撃している光景が目に入る。


「魔法だと巻き込んでしまうな。よし」


 一撃で倒すレベルの魔法だと、下にいる人間と建物を巻き込んでしまう。

 俺に魔法のレパートリーがあれば話は別なのだろうが、そんな器用な真似は出来ない。


「『火の玉(ファイアボール)』」


 基礎の基礎。通常物に火をつける為に使われている魔法を、グリフォンと思われる黒い影に向けて放った。

 魔導書には直径二センチから五センチとあるが、俺のそれは直径50cmを優に超える。

 それでもアレを倒すことは出来ない。何せこの魔法は実体の薄いただの火の塊。

 アンジェリカが使っていた炎獄岩(インフェルノキャノン)はこの魔法に見た目は似ているが、実体を伴う溶岩であり大きさもさらに上だ。


 そんなことよりも。


「早く逃げたほうがいいぞ?ここは戦場になる」

「え?」

「だから。グリフォンが来るぞ」


 俺の言葉を理解したのか、同じ建物の屋上にいた兵達は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。


 兵達が逃げ切るのとほぼ同時。

 グリフォン二体の姿はこちらへと急速に接近してきた。


 それもそうだろう。

 何故魔物達が要塞都市(ここ)を執拗に攻撃してくるのかは依然謎のままだが、自分達にとって脅威がある方を優先するのは人も獣も同じ。

 防御一辺倒の先程の場所よりも、攻撃してきたここを先に狙うのは生き物としての必然。


「本で見た通りの外見だな」


 星明かりは頼りない。先程までは松明の光量に負けて影でしか確認出来なかったその姿。しかし今ではしっかりと視認することが出来た。


 鷲の翼と上半身、そして下半身は獅子のものだ。

 といってもサイズは鷲の何倍も大きいが。


 ギュエェェェッ


 一体の奇声と共に、その前方に出現した魔法がこちらへ向けて飛んできた。


「『魔法対消滅(マジックディケイ)』」


 その魔法は建物と俺にぶつかる直前に消え去る。

 うん。何日か振りのこの魔法だったが、一度身体が覚えたものは早々に忘れないな。


「確認も済んだ事だし、お前達には消えてもらおう」


 魔法を使ってもいいが、魔法は何が起こるかわからない。

 何処かに弾かれてしまうとその被害は甚大。

 ここは態々持ってきた剣を使うとしよう。


 腰溜めに剣を抜かずに構えると、その姿勢のまま身体強化を過剰に掛けた脚力のみで跳躍する。


 次いで現れた景色は二体のグリフォンの頭上。

 鳥目だからなのか、俺があまりにも早く動いたからなのか、どちらかはわからないが二体が俺に気付くことはなかった。


















「おはようございます」


 その声に目を開けると、知らない部屋のはずなのにいつもの光景が広がる。

 そう。カレンの顔だ。


「…おはよう。あれから眠れなかったのか?」


 事態は直ぐに収まった。

 それでも身の危険を感じた者はその興奮により中々寝付けないと聞く。

 俺はいついかなる時でも寝られるからその気持ちは理解できないが。


「いえ?寝て起きたのが半刻ほど前です」

「そうか。顔を洗いたい」

「はい。只今」


 会話の最中もカレンの顔が目と鼻の先。

 やはりいつまで経っても慣れないが、いい言い訳も思い浮かばないのでやめろとも言いづらい。


 それよりも、あれ程不安そうな表情をしていたのに怖くなかったのだろうか?

 まあ、事実俺には脅威でもなんでもなかったが。










「流石英雄殿。八大列強とは、皆あれ程の力を?」


 朝食の席は夕餉と変わらぬ場所だった。

 そこでルパートが昨夜の労いを伝える為に待っていたのだが、本心は八大列強の謎か。


 八大列強は一般的に謎に包まれている。

 一般人にはただ強いとだけ知られているといった感じだ。


 ジジイ然り、変な奴も多かっただろうし、人の世に関わらない者もいただろう。

 故にその強さも底が知れない。


 一武人として興味を持って仕方ない存在と言える。


「俺は現在列強五位だから確かなことは言えないが、俺より上は俺より強いということだ。勿論、下位であっても同じことが出来ないとは思わないがな」

「…やはり、人間離れしていますね。我々の力の及ばない存在だと」

「強さだけでは何も生み出せない。そういう意味では八大列強もそれ以外も同じだな」


 世界最強という目標を掲げてはいるが、それを手にして何になるとは思っていない。

 ただの自己満足の世界だ。

 その力の使い道さえわからない。


「失礼ですが、カイコ殿は大変話し易いお方です。他の八大列強の方は…」

「触らぬ神に祟りなし。見かけてもやめておけ」

「はい。八大列強には、命令なき場合は関わらないようにと、軍に入った時に言われております」


 腫れ物扱いかな?

 まあ、それで良いし、有難いくらいだ。

 機嫌を損ねて敵対されてもかなわないと、上は考えたのだろう。


「よし。飯も食ったし、仕事に行ってくる」

「宜しくお願いします」

「…お気をつけて」


 ん?

 カレンの表情が昨夜と同じ……


「カレン。もしかしなくとも、俺を心配しているのか?」

「……畏れ多くも」


 そんなバカな……


 これまで無理難題を押し付けてきても、俺を心配する奴なんて一人もいなかったぞ!?

 ジジイなんて俺が怪我をしても

『男が泣くでないっ!唾つけておけばいずれ治るわ!』

 なんて幼児に言っていたくらいなのに……


「そ、そうか。だが安心しろ。俺は強いらしいからな。ここも安全ではない。カレンは自分の身の安全のことだけを考えてくれ」

「はぃ…無事をお祈りしています」

「・・・・・」


 わかってくれなかったようだ。


 それにしても、心配されるとはな。

 それがここまで心苦しいものだとは知らなかった。


 ジジイも俺が街へ出ることになった時は心配したと思うが、それは俺の身の安全に対してのものではなく、周りへ向けたものだ。

 恐らく、迷惑を掛けないだろうかとか、暴れないだろうかとか。


 八大列強である我が身を心配されるとは、カレン…実はお前大物だろう?












 食事(前払い)はしっかりと頂いたのでちゃんと仕事をしよう。

 そう考えると、必然的に早さが求められる。

 時間を掛けてしまうと街が壊滅してしまうかもしれないからだ。


 早さを求めるならば速さが必要。

 ということで、要塞都市の人が訪れない場所をガルの背に乗って探し回ることに決めた。





「原因は間違いなくあそこだろう…」


 俺の心配をよそに、元凶はすぐに突き止められた。

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