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悪魔の落とし子  作者: ふたりぼっち
山籠りの老師に拾われた子、人里に現る
72/115

5-8

 






「おーい。中に入りたいのだが、どうすればいい?」


 門前へ到着するとそこはもぬけの殻。

 実際には視線を感じるから建物内のどこかしらから隠れてこちらを見張っているのだろう。


「冒険者か!?名乗れ!」


 聞こえてきたのは鉄で造られた門の上部にある隙間から。


「Bランクの蚕 早乙女と従魔と奴隷だ」

(Bランク…どう思う?)


 名乗りをあげるが、中からは何の応答もない。

 聞こえるのは相談の声のみ。


 致し方ない…か。


「ついでに言うと、八大列強でもある」


 これを使うとまともに観こ…ゲフンッゲフンッ。

 まともに現地調査が出来ないのだがな。

 ま、別にいいか。多分前の街と同じ国だろうから、市井の生活様式なんかも大差ないだろう。


 ガチャ…ゴゥンゴゥンゴゥン…


 鉄がぶつかる音の後、何かしらの重低音を轟かせながら重く大きな門がゆっくりと動き始めた。


 ガコンッ


 門が完全に開くと、そこには強張った表情(かお)をした兵達の出迎えがあった。


 ザッザッザッ…


 そんな兵士達を掻き分け、軍靴を鳴らし奥からフルプレートアーマーを着込んだ一人の騎士が姿を現す。


 カチャ


 兜の留め金を外すと顔を晒し、敬礼の後言葉を紡ぐ。

 歳は50位だろうか。俺よりは低くとも身長は180程もあり、体格もがっしりとしている。


「英雄殿。此度はよくぞカルディナ要塞都市へお越しくださいました。

 簡易的なものとはなりますが、夕餉の用意がございます。どうぞ、こちらへ」


 見た目と違い腰の低いこの男の言葉を聞き、ガルとカレンの視線がこちらを向く。

 いや、カルディナ?要塞都市?しらんな……


「そうか。態々用意してくれているのであれば断る理由もないな。頂くとしようか」

「はっ。こちらです」


 俺達がここへ来たのは偶々。

 態々用意しているはずもなく、それは誰かの食事を奪うということを意味する。

 まあ、俺に態々出す食事だ。変なものではないだろうし、それを元々食べる地位にいるのであれば他にいくらでも食事くらいは用意出来るのだろう。

 ここは甘えて頂くとしよう。


 寝起きだが、今日はまだ朝飯しか食べていないからな。












「ほう。この要塞は元々中核都市だったと」


 聞く話によると、ここは元々この国ティアメーテル王国の副都だった。

 だったと言えば語弊がある。現在も副都は副都らしい。見た目は完全に要塞だがな。


「はい。今から約十五年前辺りから魔物の襲撃が活発になり、襲撃の初めの内は弱い魔物だったのですが、それが数を増し、やがて強い魔物が襲うようになりました。

 それに伴い、この街もふんだんに防衛費を使い、徐々に街の防衛力を高めてまいりました」

「その結果が今の要塞都市だと?」


 食事は貴族が食べるコース料理だった。その料理が出てくる合間に、先の騎士からこの街の情報を聞いているのだが、俺の予想とは大きく違っていた。


 隣接する国への牽制か、軍事的なこの国の中核を守る為の要塞だと予想していたのだが、どうやらその予想は間違いだったようだ。


「ええ。この街を治める王弟殿下も三年前にその危険から王都への撤退を余儀なくされました。

 現在は空からの襲撃もあるので、この街に真に安全となる場所は存在しません」

「空から?」

「はい…現在はAランク指定の魔物であるグリフォンの襲撃を受けているのです」


 グリフォンか…確かドラゴンと並ぶ空の支配者だったか?

 所謂合成獣(キメラ)のような見た目をした空飛ぶ猛獣。


「これまでは国からの支援も受け、幾度もの危機を乗り越えてきましたが……流石に飛ぶ魔物が相手では…」

「魔法使いの援軍はないのか?」


 飛ぶ魔物に有効な攻撃手段は幾つかある。

 その中でも代表的なモノが二つあり、弓矢と魔法だ。


「国からの支援は金銭のみです。これまでもこれからも。ですのでそれを使い軍備を強化しつつ、冒険者や傭兵などを雇う為に残りを使ってきました。

 魔法使いはその中では希少な存在なのです。割合で言うと、それ以外と魔法使いでは4:1。いえ、もう少し少ないですね。軍部で魔法が使える者で言えば1/10以下です」

「つまり、火力不足…いや、手が足りないのか」

「はい」


 これまでの傾向から襲撃してくる魔物は数を増やし、それを防ぐとより強い魔物が攻めてきた。

 現在は数は少ないがグリフォンという強力な魔物が空から襲ってきているが、ここにいる魔法部隊でなんとか対処できている。

 つまり、そのグリフォンの数が増えると、ジリ貧となる…という話か。


「それで…英雄殿には厚かましくもお願いが…」

「その魔獣を討伐しろと?」


 一宿一飯の恩義であれば妥当なところか。


「いえ。それでは次こそ守りきれません」

「…俺にどうしろと?」


 嫌な予感しかしない。


「原因を突き止め、元凶を潰して欲しいのです!お願いします!」


 この男…この要塞の最高司令官であるルパート・ド・ハッシュベルは立ち上がると先程の敬礼とは違い頭を深く下げてお願いしてきた。


 食うもん食って、はいさよならなど許されんよな?


 はあ…

 内心でため息を吐き、仕方ないかと返答を整理する。


「わかった」

「おお…では!『ちょっと待て』…はい」

「その依頼を受けてもいいが条件がある」


 八大列強(おれ)は便利屋ではない。


「一先ずやってみるが、期間は設ける。いいな?」

「…はい。当然でしょう」

「最悪は襲撃してくる魔物が手に負えなくなることだろう?」

「はい。そうです。既にその状況は目前ですから」


 ルパートが言っていた原因。これは必ず存在するだろう。

 それが自然現象で起こったものなのか、人為的に起こされたものなのかはわからないが。

 まあ、ほぼ何かしらが関与しているんだろうがな。


「恐らくSランクの魔物までなら俺一人で対処出来る。だから、それ以上になるまでに原因を突き止められなければ…ここを放棄して避難してくれ。これがもう一つの条件だ」


 八大列強にも出来ないことはある。いや、強さ以外は普通の人と何ら変わらないのだ。周りが必要以上に持ち上げているだけで。


 俺に突き止められなければ、それはこの街の滅びを意味する。

 流石にここで死ぬほどの恩義は感じていないし、その覚悟もない。

 だが、一度手を出したのに…見殺しもな。

 だから条件をフラットにした。


 失敗しても俺に後腐れがないものに。


「それは……」


 流石に軍人は職場放棄出来ないか?出来なければそれまでだがな。

 尚も口籠るルパート。


「ハッシュベル最高司令官。受けましょう」

「そうです。我ら国軍が守るのは土地だけではありません!民も同様です!」

「土地はまた取り返せます!それに…英雄殿であれば…と、身勝手ながら期待せざるを得ません」


 口籠る最高司令官の背中を押す声が自然と上がる。

 彼ら一人一人がこの国を…民を自分達が守っているという自負をしっかりと持っている現れなのだろう。

 その顔に悲壮はなく、皆真っ直ぐな瞳でただ一人を見つめている。


「受け……その条件、受け入れます。宜しくお願いします」

「「「「お願いします!」」」」


 周囲の声も後から続いての満場一致。

 こちらとしても是非もない。


「わかった。とりあえず、明日から動こう。夜間に襲撃があれば起こしてくれて構わない」


 よし。難しい話は終わりだ。

 これで心置きなく飯が食えるというもの。


「カレン。お前も座って食べろ」


 来賓室と思われるここには巨大なテーブルとそれを囲む椅子が十脚ほど設置されている。

 その一つに俺が座り、テーブルを挟んだ対面にはルパートが座っているのみ。

 そんなテーブルの上には話が盛り上がった所為でコース料理が溜まっていた。


「良いのでしょうか?」


 俺の言葉に反応したのはカレンだけではない。

 座る俺達を囲むように十数人の兵が立っているが、その全てが驚きを隠せずにこちらを凝視していた。


「構わんさ。これからは生死を共にする関係だ。ここに身分の差はない。

 そうだろう?」


 俺とガルは調査に出るが、カレンは危険な要塞都市に残るのだ。

 軍が防衛に失敗すればカレンも共に死ぬ関係といえる。


 確認の為にルパート達へお伺いを立ててみる。


「そう…ですね」

「聞いた通りだ。お前達も立っていないで座ったらどうだ?」


 兵達は視線をあちらこちらへと向けた後、恐る恐る近くの椅子へと着席を始めた。


 八大列強(けんりょくしゃ)命令(ことば)を無視できなかったのか。

 結局は身分がものをいう世の中なのだろうな。

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