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悪魔の落とし子  作者: ふたりぼっち
山籠りの老師に拾われた子、人里に現る
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1-2

本日五話投稿2/5

 





 俺の眼前には土下座をかますいい大人が三人。

 内一人は涙まで流している。

 内二人はギルドの職員ではなく、どうやら依頼主のようだ。


 ただ冒険者になる為だけに来たのに何故こうなったのか。


 それは体力測定の所為であった。多分…












「…お前、本当に人間か?」


 失礼極まりない言葉をぶつけてきたのはギルド職員のターナー。

 普段通りであれば、蹴りの一つでも入れてやるところだが、初めての街ということもあり、俺は緊張していたので何も返せなかった。


 体力測定では、ただ普通に走ったり、跳んだり、持ち上げたりしただけなのだが、先の台詞が飛んできたのだ。


「人間だ」

「そ、そうだよな?いや、とんでもない新人が入ってきちまったな…」


 どうしたことか。もしかしたら、俺は蟻程にも弱いということだろうか?

 だから、人間か?と。


 だが、ターナーは俺が冒険者ギルドに入ると言っている。


「ちょっと来てくれ。お前に…いや、カイコに頼みたいことがあるんだ」

「?」


 よくわからないが、俺に断る術はない。

 断って冒険者になれないなんてことになったら大変だ。

 いきなり蜻蛉返(とんぼがえ)りすることになってしまう。




 そして訪れたのは、ギルド内にある応接室。

 そこで待てと言われ、出された茶を飲みながら時間を潰していた。

 小一時間ほど待つと、ターナーと更に年配の男が室内へと入ってきた。


「要件を伝えよう」


 挨拶もなしに会話を進めるのは、70歳くらいの白髪の老人。

 ジジイも白髪だったが、こちらは短い髪をオールバックにしている。


 ちなみにターナーは50くらいで顔に傷がある筋肉質な男だ。


「カイコ。君にはこれから指名依頼が入る」

「はい?」


 待て待て。俺はまだ何も知らないぞ?


「疑問もあるだろうが、先ずは話を聞いてほしい」

「…わかった」


 冒険者になれるかどうかが掛かっている。俺には元々断る術がないのだ。


「依頼者はこの街を治める領主、ギャリック伯爵。依頼内容はAランクのとある魔物素材。

 先程の受付嬢の説明通り、指名依頼を受けるかどうかは冒険者に決める権利がある。

 断る権利はあるが、ここはどうかその依頼を受けて欲しい。

 頼む」

「………」


 どういうことだ?

 そもそも。

 俺は冒険者になれたのか?


 俺が黙っていることで何を勘ぐったのか、その男がさらに言葉を続ける。


「わかっているとも。伯爵からの依頼料から更にこちらが二割り増し払おう。

 どうだ?」


 報酬が増えた、のか?

 そもそも依頼料がいくらなのかしらんが。


「待ってくれ。俺は冒険者になれたのか?」


 あれ?

 冒険者ギルドが閑散としていたのは、単に冒険者不足だからか?

 だから新人にも貴族相手の仕事が割り振られると?


 何だか危険な香りがするな。

 もしや、俺はとんでもないところで冒険者になってしまったのではないのか?


「勿論だとも!カイコでダメなら誰も冒険者にはなれんよ」

「そ、そうか」


 拙い…褒められなれていないから、疑いしか湧いてこない。

 やはりコイツらは俺に無理難題を押し付ける気では?


 いや、そうだろう。

 冒険者が少ないんだ。使い潰すようにこき使う算段なのだ。きっと。


 だが……俺に選択肢は…ない……


「とりあえず、詳しい話を聞こう」

「おお…頼む!この依頼を受けられる冒険者がいなかったのだ!

 伯爵も心待ちにしている!」

「…受けるかどうかはまだ……ところで、アンタは?」


 危ない。危うく受ける流れに持っていかれそうだった。


「そうだった。私はこのギャリック冒険者ギルドのギルドマスター、ハミルトンという」


 確か…ギルドマスターはその冒険者ギルドで一番偉い人だったはず。

 その人が冒険者になれたというのなら、間違いないだろう。


 ジジイ…俺、冒険者になれたよ。


「知っての通り、蚕 早乙女だ」

「うむ。…つかぬことを聞くが…」

「ギルドマスター。そろそろ」


 ハミルトンが何か聞きたそうにしていたが、そこに待ったが掛かる。


「…時間か。カイコ、指名依頼では依頼者と冒険者が職員の立ち合いの元、まず初めに話し合いが行われる。

 よって私は退席せねばならない。

 立会の職員はここにいるターナーだ。

 よろしく頼んだぞ」

「あ、ああ」


 矢継ぎ早にそう告げると、ハミルトンは退室していった。

 部屋に残された俺とターナーだが、会話をする暇もなくすぐに扉がノックされた。


 返事を待たず入ってきたのは金髪の男女が二人。

 二人とも40歳くらいの年齢に見える。


「君か!?依頼を受けてくれるという冒険者はっ!?」

「えっ!?」


 入ってくるや否や、男の方が掴みかかってきた。

 俺は咄嗟の判断で投げ飛ばしそうになる自身の身体を硬直させてそれを回避した。


 危うく貴族に危害を加えるところであった。

 過去に勉強した内容通りであれば、貴族に手を出すことは大罪とあった。

 戦いの中で死ぬのならばその覚悟はある。

 しかし、処刑は避けたい。是が非でも。


「伯爵。彼が受けるかどうかは…」

「そうですわ、あなた。先ずはご説明を」

「そ、そうだったね」


 大分急いだのだろう。伯爵と恐らく伯爵夫人も大粒の汗を額に浮かべている。


「コホンッ。先ずは挨拶を。私はここギャリックの街の領主、ギャリック伯爵という。彼女は妻のキャサリン」

「…蚕 早乙女と言う」


 合っているのか?いや、貴族の作法など知らん。

 それに昔読んだ本には、冒険者の自由は応対にも適用されるとあった。

 勿論、それで仕事が貰えなくなっても、決闘を申し込まれても自己責任だが。

 無礼で処刑されることはないはず。

 これが大衆の前であれば別だろうがな。


「カイコ君。君に指名依頼を出したい」

「…話を聞いてからだ」

「そうだね。依頼内容だけど、君にはある魔物の討伐をお願いしたいんだ」


 伯爵の話を噛み砕くと……

 この街から50キロ程離れた僻地を縄張りとしている魔物がいる。

 その魔物を倒して、魔物の肝を出来る限り傷付けずに持ち帰って欲しい、と。

 魔物の強さはAランクらしいが、俺には全く予想出来ない。


「頼む…娘を…カミラを助けてくれ…」


 どうやら難病の娘がいるらしく、その魔物の肝がないと薬が作れないそうだ。

 肝も鮮度が大切らしく、自力で調達する他の手段がないと。


 しかし…強さが……


 俺が悩んでいると、今回もまた、動きがあった。







 そして、冒頭へと戻る。


 頭を床につけ、夫人は涙まで流している。


「頼む!依頼料はいくらでも出す!」

「私の持つ宝石は全て差し出します!どうか娘を…っ!」

「私からも頼む。伯爵の依頼を受けてはくれないか?」


 大の大人が床に頭をつけて懇願している。

 内一人は涙を流してさえいる。

 これはどうみても俺が悪者だ。


 何もしていないが。

 何もしていないから、事態は悪化しているのだが……


 黙っていても仕方ない。


「…ターナー」


 先ずは話しやすい相手へと声を掛けた。


「受けてくれるか!?」

「違う…教えてほしい」

「俺に答えられることならなんでも聞いてくれ!」


 大きく出たな。


「Aランクとは、どの程度の強さなんだ?」

「……そうだった……」


 漸く思い出してくれたか。

 俺が新人だということを。



 冒険者にはなれたようだが、前途は多難そうだ。

登場人物紹介


ターナー(180/95ギルド職員、短髪で顔に傷がある、歴戦の元冒険者、50歳)

ハミルトン(170/60ギルドマスター、白髪オールバック、70歳)


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蚕は褒められたことがありません。自信もありません。

だって、(二人きりの山では)一番弱かったのだから。

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