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本日五話投稿1/5
タイトルをつけるのが面倒なもので…(番号の方が分かり易いのでタイトルは無しにしました!)
逆ぅぅっ!
「身分証を出せ」
道無き道を行き、山をいくつか越えた先。そこには念願の街があった。
立派だが頼りなさそうに見える街を囲む城壁の一つに門が見えたので、そこへ向かい列に並ぶと、先の言葉を投げかけられたのである。
「身分証はない。冒険者になる為にここへやって、来た」
「では、仮の身分証を発行する。銀貨一枚だ」
「これでいいか?」
ジジイから貰った金子袋。
その中から銀色の硬貨を一枚だけ取り出し、門番へと差し出した。
このやりとりも、ジジイが遺してくれた本に書いてある通りのものだ。
なんだかんだ頼っていることが情けなくもあるが、致し方ない。
俺もまだ成人したて。親がいないし祖父に頼ってもまだ許されるだろう。
「暫し待て」
その言葉に従い待つことに。
ここに来て初めて暇を持て余すことになり、余裕が出来たことで周囲に意識を向ける。
「チラホラと似た様な格好の人がいるな」
良かった。格好まで田舎者だと少し恥ずかしいからな。
俺と似た様な格好をしているのは冒険者なのだろう。
ジジイと背丈が似ている俺はジジイのお下がりの防具を身に纏っている。
外から、黒の外套、革鎧、革靴、革手袋で、内はジジイ作のシャツとパンツだ。
外套と革製品は黒龍の遺した物らしく年季が入っているはずだが、何故か新品同様の見た目をしており気に入っている。
シャツとパンツはその辺にいる入街待ちの人々と大差なく見える。
季節は春を越えた辺りだが、まだまだ寒いので外套も不自然ではない。
「ほら。仮の身分証だ」
そっけない態度の門番に渡されたのは、鉄の板。
どうやらこれで街へ入るのは問題ないようで、ついに門を通ることに。
「ここが、街…か」
感想としては、人が多い。
そして、狭い。
道や諸々が。
何せ、生まれてこの方何かに囲まれて過ごした記憶がないからな。
洞窟も広かったし。
「邪魔だよ。兄さん」
「おっと。わり…済まない」
門を越えた先で立ち止まっていると、すぐに中年男性からその行為を咎める声がかけられた。
田舎者丸出しは恥ずかしいので口調を改める様に意識したはずなのに、ふいに出てきた言葉は汚いモノ。
すぐに言い直し、事なきを得た。
時刻は昼過ぎ。
ジジイから(本で)教わった通り、最初に宿を取った。
そこへ荷物を預け、早速冒険者へなるために冒険者ギルドなる建物を目指している。
「残金も心許ない。弱者は働かないとな」
俺に休んでいる余裕はない。
人の街では金がないと何もできないと学んで(知って)いるからだ。
寝る場所も、食べ物も、何もかも金との交換。
金がないのは宿代を纏めて払ったのもあるが、自戒としてジジイの遺した金の殆どを洞窟に埋めてきた為でもある
「冒険者の仕事が出来ず、金が無くなれば洞窟へ戻る」
それが出立時に自分で決めたこと。
いくら金を持っていようがそれは先延ばしにしかならず、そんな事のためにジジイの遺産を使いたくなかった。
それも埋めた理由の一つ。
「ところで…冒険者ギルドってどこにあるんだ?」
宿の者にも聞いたが、ちんぷんかんぷんだった。
それでも田舎者だと思われないように、わかったフリをしたのが拙かった。
「どうされましたか?」
俺がキョロキョロしていると、初めて見る生き物が話しかけてきた。
「ちょっと…よしなよ。危ない人かもしれないじゃん…」
「大丈夫だって。困っているみたいだし。ね?」
「もう…」
それは女だった。
書物でしか知らない存在。もちろんこれまでも街で女は見かけていた。
だが、若い女は初めて。それも向こうから話しかけてきた。
しかし、俺に不安はない。
何故なら、ジジイ(書物)がついているからだ!
「俺は、人呼んで龍殺しの秘蔵っ子。またの名を拳王の継承者。何を隠そう……あれ?」
女、何処へ行く?
「ねっ!言ったでしょ?」
「う、うん」
「アンタは誰でも信じるんだから!これを機に軽はずみな人助けはやめてよね」
……おかしい。ジジイ(本)曰く、年頃の女と話すにはこの台詞が必要不可欠だと書いてあったのに……
女達は街の雑踏の中へと消えていってしまった。
「…済まない。冒険者ギルドはどこにあるのだろうか?」
チャンスを失ってしまった俺は、道行く街人へと道を尋ねるのであった。
ジジイ…許すまじ……
「ここが冒険者ギルド、か」
あれから一時間あまり。漸く目的地へと辿り着けた。
悲しいのは、ここから宿が見えることくらい。
ギルドの建物は宿と変わりなく、木造建築で白い壁が綺麗だなというところ。
待っていても事態は動くはずもなく、俺は深呼吸の後、ギルドの扉を開いた。
「………」
意外にも静かだ。
ジジイ(本)曰く、ギルドは喧騒に包まれているらしかったが。
「あそこに行けばいいんだな?」
誰に言うでもなく、確認のために独り言をこぼす。
木でできたカウンターの先には女がいる。あそこが受付と呼ばれるところなのだろうか。
「こんにちは。ご用件を伺います」
近くに行くと話しかけてきた。
俺の脳裏に先ほどの失敗が過り、身震いする。
…ここは自己流でいこう。
「ああ。俺は『蚕 早乙女』という。冒険者として働きたいのだが、どうすればいい?」
頼む。これで合っていてくれ……
「カイコさんですね。冒険者は特例を除き、15歳から30歳までの健康的な人であれば誰でもなれますので、説明の後登録を続けます。よろしいですか?」
「…う、うむ。よろしく頼む」
ほっ。どうやら間違いではなかったようだ。
「では、続けます。まず冒険者になるには・・・」
この女の話を纏めるとこんな感じだ。
・登録費用に銀貨一枚が必要。
・健康的かどうか調べる為に最低限の体力測定があること。
・ギルド内外でも冒険者のルールは守ること。
・冒険者に年功序列はなく、功績によるランクが唯一の区別だが上下関係はなく、また作ってもならない。
・特定の依頼を受ける為には必要なランクに達していないといけないこと。
・指名依頼には拒否権があること。
などなど。
一度ではとても覚えられないが、俺にはジジイ(本)がついているから問題はない。
「問題ありませんか?」
「ああ」
「では、登録料をお支払いの後、体力測定を受けてください。準備が出来次第お呼びしますので、こちらの番号札をお持ちになってお待ち下さい」
金子袋からなけなしの銀貨を取り出してカウンターの上へと置く。
代わりに札を受け取り、ガラガラのテーブル席へと腰を下ろした。
「ふう。体力測定は少し不安だが、ジジイ(本)曰く問題ないのだろう。ここまでギルドが閑散としているのは、時間帯の所為なのだろうか?」
不安を紛らわす為に独り言が増える。
そして相変わらずキョロキョロと辺りを見渡してしまう。
そんな俺の目に、気になる情報が飛び込んできた。
「アレは……八大列強……表?」
壁にある木製の板に、名前が書かれた札がぶら下がっていた。
板には八大列強表の文字が書かれており、右から順に一位から八位までの順位が振ってあった。
「何々〜…ふむふむ」
当たり前だが、知らない名前が並んでいる。
半分以上が新しい札に変わっていることから、どうやら一斉に世代交代したようだ。
「第七位、拳信 早乙女…か。……え?ええっ!?」
どういうことだ!?何故、ジジイの名前がある!?
そもそも死んだぞ!?え?生きてんのっ!?
俺が一人パニックを起こしていると、いきなり声をかけられた。
「今回の新入りは賑やかなやつだな」
声にさらに驚き振り向くと、そこには俺とそう体格の変わらない中年の男がいた。
「ギルド職員のターナーだ。カイコだな?こっちに来てもらおうか」
「あ、ああ」
色々と気になるものの今すべきことを思い出し、俺はターナーの後をついて行った。
「ここで体力測定を行う」
連れられてきたのはギルドの裏。
表と違い人通りは少ないが、普通の道だった。
「先ずはギルドを一周してもらう。その後のことはそれからだ」
「わ、わかった」
ふう。遂に始まってしまった。
ギルドを一周ということは…ギルドを一周ということだ。
…大丈夫か?俺。
小◯構文……
早速ネットネタを使ってしまいました……