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悪魔の落とし子  作者: ふたりぼっち
山籠りの老師に拾われた子、人里に現る
56/117

4-5

 






「いや、これ以上は…」


 報告ついでに王都へ戻ると、その日から三日もの間ずっと歓待を受けてしまっていた。

 このパン一つで救われた命があったかと思うと、普段の半分ほどしか食欲は湧かなかったのだが、何故か大盤振る舞いされたまま。


「そう言わず!これはニッケル子爵領からです!」

「そ、そうか?あまり遠慮するのも悪いか…頂こう」


 国の害虫であるエイギルを倒したことにより、俺はこの国の英雄に祭り上げられていた。


 元凶はいなくなったが、失った命が戻ることはない。

 それに、まだまだ食料が足りないはず・・・

 だったのだが。


「あの者は何を考えていたのやら。集めた金は集めるだけ。それで欲したものも金目のものばかり。

 いや、換金が単純だから助かったのだがな」


 そう独り言のように俺へ言葉を投げたのはヒュンゲル王。


「しかし、金の殆どを取り戻しても食料はすぐに用意出来ないだろう?」


 食料は降って湧いてこない。

 買うにしても距離のある他国であれば輸送が終わるまでこの国の食糧難は続くはず。


「今後の食糧を買い付けるだけの金が戻ったのだ。非常用の穀物を国中にばら撒いたまでよ」

「そんなものがまだあったのか…」


 それを出していれば、飢えて死ぬ者が少なくなっていたのでは?


 ま、素人考えだ。

 政とはそこまで単純で簡単なものでもないのだろう。

 俺に出来ることはしたんだし、国もやれることをした。それで良いじゃないか。


「ところで…カイコは独身と聞いたが…」

「断る」

「そ、そうか…」


 また女か。

 王侯貴族はワンパターンだな。


 それに。


「美味い飯で十分だ」


 食うに困る者がいないのであれば、それ即ち遠慮も要らない。

 テーブルに並べられた料理の数々。

 先程までは食べ切れるか心配だったのだが、今となっては少ないように感じた。

















「安請け合いだったか?」


 報告ついでにまた歓待を受けてしまったので、貸し借りなしを信条とする俺は、解決出来そうな困り事はないかと聞いてしまった。

 そう。

 聞いてしまったのだ。


『実は・・・』


 それに答えたのは貴族の一人。

 何でも、最近行方不明者が出ている村があるとか。


 このご時世だ。

 食糧難や経済難から夜逃げでもしたのだろうと、始めは気にも留めていなかったらしい。いや、そこは気にしろよ……


 それはさておき。


 それでもやはり異変は異変。

 現在は復興中の為、手が足りないので後回しにしようと考えていたが、そこに猫の手が助けてくれると。


 猫の手とは勿論俺のこと。

 役に立つかどうかわからないが、現状の確認くらいは出来ると安請け合いしたのだ。


 本当に報告くらいしか出来そうにない。

 出立してからそう気付くも後の祭り。


「確かこの辺りのはずだが…」


 ガルの背に跨り辺りを見渡すと、少し先の上空に炊事の煙が上がっているのが目に入る。


「周囲が穀倉地帯だからかなり遠くまで見渡せるな。ま。多少離れていてもガルの足ならそう変わらないか」


 ガルルッ


 俺の言葉に『任せろ』と応えたガルは、煙に向かって走り出した。












「では、失踪した者達にその兆候は無かった、と?」


 ここは人口三百人のそこそこ大きな村『カティーシャ』。

 この村でもエイギルの被害を受けていたが、そこそこ大きな村ということで備蓄もそれなりに有り、小さな村落とは違って最悪の事態は免れていた。


 そんな村から出た失踪者の数は十五人。

 普段であれば考えられないくらいには失踪者の数が多いが、このご時世では国の判断も見誤る。


 そう。本当に失踪する理由などなかったのだ。


 ちなみにこの村には俺一人だけで入ってきた。

 ガルは周囲を探ると俺に伝えるとそのまま何処かへと消えてしまったのだ。

 ま、大丈夫だろう。村人が目撃したら騒ぎになるかもしれんが。その時はその時だ。


「はい…お役人様へ伝えても『このご時世では仕方ない…』と返ってくるばかりで……ですが、居なくなった者達はその様な輩では断じてありません!

 困ったら助け合うのがこの村の信条。

 以前、彼らはその様に振る舞っていましたし、我らもそれを今でも疑っておりません!」

「わかった。何か今回の事件とは別の理由があるんだな?」

「はい。そうとしか、考えられません…」


 件の八大列強が起こした件について、為政者以外の国民には詳細が伝えられていない。

 これは他の八大列強への風評被害を起こさせない為である。


 国民への報告は、穀物を害する新たな害虫が大量発生したことにしている。


 閑話休題。


 カティーシャの村の村長である初老のこの男が嘘を吐いている様には見えない。

 それに、嘘をつく理由も見当たらないし。


「長閑な所だな」

「はい。ここは主要街道から離れていますし、どん詰まりの僻地ではありますが、大それた事件とは程遠い場所でございますな」


 来た道から見ると、この村の先には何もない。

 あるのは平野の多いこの国からすれば態々開墾する必要を感じない山のみ。

 それも聞くところによると、どこに繋がっているかわからないほど険しいらしい。


 山には魔物が出るが、盆地や平地を多く含むこの国では滅多に出ないと言うのだから、危険を冒してまで開墾する必要性は尚のこと感じない。


「そんな長閑な村で、何故、お前の様な強い者がいるんだ?」

「はて…何の話でしょうかな?」


 この男からは碌に魔力を感じない。

 しかし、その立ち居振る舞いは武に通じるものが光る。それも強者特有の。


 そこが逆に不思議…いや、不自然なんだ。


「気付いていないのか?お前は常に俺の死角を取る位置に移動している。常に利き腕である右手の間合いに俺が入るようにもしているな。気付いていないのなら、それだけその行動が常習していることの証左でもある。どうだ?」

「…バレていましたか」


 バッ


 男が観念した瞬間、周囲に禍々しい魔力が満ちた。

 男の全容と周囲を視界に収める為、咄嗟に距離を取った。


「それが、お前の本来の姿か?」

「左様。そして、この姿を見た者で無事な者はいない」


 禍々しい魔力を身に纏った男の姿は、先程までの初老男性のものではなくなっていた。

 見た感じ三十代。

 身長すらも変異しており、180cmない程度か。

 髪は俺と同じく黒で肌の色は白っぽい。

 俺との違いは細身かどうかというくらいで、この姿でも村に溶け込むことは出来そうに思う。


 それでも、この姿では溢れ出る魔力が隠せないのか、その為の偽装が先程までの姿だったのか。


 色々と考察の余地はありそうだが、その時間は無さそうだ。


「八大列強と呼ばれているようだな…やはり、甘く見てはならぬな」

「何者だ?」


 答えてはくれないか。


「どうせ、この雰囲気だとどちらかは死ぬんだ。良いだろう?正体くらい教えてくれても」


 どうも俺の知る人間とは種類が違う様に思う。

 あの龍族もおかしかったがそれでも俺が知る人の枠に収まる。しかし、コイツは根本的に何かが違うように感じた。


「良かろう。我が名は悪魔男爵『ローカイド』なり。貴族位を持たぬ名もなき悪魔共にここ天使界侵略を命じたが、お前の様な者がいては荷が重かったのだろう」

「………」


 え?何の話だ?

 聞いといて悪いが…全く理解出来ん。


「兎に角、俺達は敵同士ってことか?」

「天使界に住まう者共はそんなことも忘れたのか?やはり、軟弱な種族よ」


 天使って、俺のこと?

 よくわからんが、敵なら倒さないとな。


「消えた村人は?」


 その前に、肝心なことを聞いておく。

 倒してもそれで終わりじゃないからな。失踪した村人を助けないと。


「触媒とした」

「しょくばい?つまり?」

「生きていない」


 前言撤回。

 倒すのではなく、殺さなくてはならない。

 触媒の意味はわからんが、人を殺したことに対してコイツから後悔の念は微塵も感じられない。


 生かしても碌なことにならないし、聞いたところで理由もよくわからんからな。


「よくわからんが、お前にも理由があってここにいるんだろう?誰もいないところに場所を移すぞ」

「是非もない」


 俺は村に被害が出ない様に。

 コイツは目的の邪魔にならない様に。

 利害の一致により、山へと移動することになった。

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