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悪魔の落とし子  作者: ふたりぼっち
山籠りの老師に拾われた子、人里に現る
55/149

4-4

 






「何故生きているっ!?」


 瓦礫を押し除けて辿り着くとエイギルが憤怒の表情で聞いてきた。

 あの程度で一々死んでいたら、何百何千回も山とジジイに殺されていなければならない。


 俺はずっと自分よりも強い人といたから耐性があるけれど、エイギルにはいなかったようだな。

 自分の魔法で殺せない相手が。


「俺は八大列強だぞ?他の八大列強もあの程度では死ぬどころかかすり傷すら付くことはないだろう」

「ば、バケモノ…」

「お前も十分化け物だ。市井の人々からみればな」


 俺からみれば…悪いが雑魚だ。

 確かに魔力も高く、技術もあるのだろう。

 しかし、コイツには一番大切なモノが欠けている。


『覚悟』だ。


 どれだけ強力な攻撃手段があれど、それを使用する者に覚悟がなければそれは本来の力を発揮し得ない。


 コイツには何の覚悟もない。


 自分がしでかしたことに対する覚悟も、自分よりも強い者と戦う覚悟も。


 コイツにあるのは保身だけ。

 幸か不幸か、そのお陰で俺の奇襲は防げたけれども。


 ニーナ達三人とコイツとでは、コイツが圧倒出来るだろう。それほどに持っているモノが違うからな。

 しかし、アンジェリカが相手だとどうだろうか?

 十回戦えば八回はコイツが勝つかもしれないが、時と場合が変われば勝敗も変わると俺は思う。


 覚悟がない所為でコイツは勝てる戦いを落とす。

 そして、強くなる覚悟も持てないから、いずれアンジェリカにも勝てなくなるだろう。


 俺が負ける道理なし。


 やはり唯一の懸念は、この様な阿呆な攻撃手段をエイギルが取るところにある。


 キィィィンッ


「まだ、生きたいか?」


 話すことなど何一つとしてないので、奴の首を落とす気で剣を振るったが、またも不可視の膜により阻まれた。


「ひぃっ!?あっ、当たり前だろうがっ!?馬鹿か?!」

「死ななくてもいい者達を殺したくせに?」

「あ、あれはっ!アイツらが勝手に…」


 そう。勝手に飢えて死んだ。


「元凶はお前だぞ?」


 理解出来ない相手と話すことはないが、エイギルから何か不穏な魔力を感じる。

 今魔法で殺せば何か拙い事態に陥るかもしれない。それに、アイツも何か・・・


「私は八大列強だっ!世界の英雄だぞっ!?今まで我慢したんだ!自由に振る舞って何が悪いっ!?」

「どうやら、俺とお前では自由の意味が違うらしい。それに」


 本当に話すことなどないのだが、何やら『もう少し』と意思を感じるからな。


「英雄?まだ何もしていないお前が?ついでに本音が漏れているぞ?『今まで』というところにな」

「殺すっ!殺してやるっ!」

「初めて覚悟出来たな」


 最後のは俺の本音だ。

 遂になりふり構わぬ状態になってしまったが、どうやら間に合ったようだ。


「これを見ろっ!」

「ん?なんだ?その汚い紙は」


 剣を突き付ける俺とエイギルの距離は目と鼻の先。

 そんな俺の眼前へと黒い紙に赤い文字で何かが書かれた物を突き付けてきた。


「無知なガキに教えてやろう!これは魔力爆弾だ!それも、八大列強である私の魔力で作られたな!」

「魔力爆弾?」

「そうだ!戦争から炭鉱掘まで多岐に渡って使用されるポピュラーな魔導具だが、これはそれらの威力とは一線を画す代物!

 この街を一瞬の内に塵に変えられる魔力爆弾だ!」


 それが本当だと、流石に拙いな。

 この屋敷が吹き飛ぶ程度の威力なら耐えられそうだが、この街か・・・


「それを今更取り出した理由は?死ぬのが怖かったんだろう?」

「ふんっ!コイツは一度魔力を込め始めると止められん。貴様を確実に殺せるまで溜めるのに時間がかかったのだ。だが、もう貴様はおしまいだ」


 なるほどな。

 魔力を込めるのを止めるとそこで魔導具が完成してしまうのか。

 だから小威力の時には使えず、今更それを出したと。


 確かにそんな便利な魔導具があれば八大列強などに縋ることなく、量産して魔力を込めて作り置きしておけば大抵の危機には備えられるからな。

 便利だが、威力は使用者に依存して、さらには作り置きも不可と。


 つまり、もう止められない。


「終わりなのはお前もだろう?」

「ばかめっ!私が自爆するはずがないだろう!死ぬのは貴様だけだ!」


 成程。コイツが覚悟をしたのは自分の死ではなく、これまで作り上げたこの街を消すことに対してのものか。


「そうか」


 やはり、コイツと話しても何も得られなかったな。

 俺は最後に一言だけ、感情なくそう呟いた。


「死ねぇっ!」


 手に持つ黒い紙を足元に落として、エイギルが叫ぶ。

 すると、紙は内包しているであろう魔力をさらに圧縮し始め、紙自体が小さく縮んでいった。


 そして、縮小の限界を迎えた紙は光を放ち・・・


 パクッ


「いや、食べたらダメだろ?」


 それをガルグムントが一口で飲み込んだ。


 いや…時間を稼げと言われた気がしたからそうしたのだが……

 これは、まさかまさかだな。


「な…っ!?何故だっ!?何故、爆発しない!?」

「いや、俺に言われてもな…」


 何となくガルの考えが聞こえる気はするものの、それは気がする程度でしかなく。

 細かいことなんてわかるはずもない。


「さて。これで本当にお終いだな?お前に別れの言葉など必要ないだろう?」

「ちょ、待て!待ってっ!」

「『石の槍』」


 二番煎じだが、普通に通用した。

 エイギルが張っていた防御魔法は砕け散り、再構築の間を与えることなくその首を一閃の元に落とした。


 ゴロゴロゴロ……


 ここは三階だが床のほとんどは崩落しているので、エイギルの首は勢いよく下の階層へと転がり落ちていった。

 拾いたくもないし、必要でもないだろうから放っておくことに。


 それよりも。


「ガル。あんな物食べて、大丈夫なのか?」


 アイツの言っていた通りならば、食べても爆発するようだしな。


「問題ない?送った?…よく分からんが、ガルに問題がないのならそれで良い…か?」


 神獣のすることを一々気にしても無駄か。

 戦いには不参加だったが、奴が逃げないようにしてくれたし、女達を助けてくれたみたいだしな。


 崩れた洋館に佇む俺の視線の先には、ベッドごと放った女達の姿があった。


 その様子から、誰も怪我をしていないように見える。

 いくら柔らかいベッドと一緒だとはいえ、この高さから落ちれば誰かしら小さくない怪我はしただろう。


 つまり、あの一瞬の内にガルが助けたのだろう。


「さて。後は俺の気にする所じゃないからな。さっさと王都へ帰って美味い飯を食おう」


 …フンッ


 ガルが溜息を吐いたように聞こえるも、俺の思考は既に飯に支配されているのであった。



















 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


「あら。珍しいわね」


 その女性が動くたび、緑色の美しい髪が陽の光を反射させる。

 序列二位のリーリャは久しく来なかった来客に視線を向けてそう伝えた。


「女王陛下。ご無沙汰しております」


 跪き頭を下げたままリーリャを陛下と呼んだ男の耳もまたリーリャと同様に尖っている。


「貴方は…ああ。報告係の子ね?」

「はっ」

「つまり、何かしらの変化があったのね」


 女王であるリーリャに国民の名を覚える必要はない。

 ということもないだろうが、これはリーリャの持って生まれた面倒くさがりな一面なのだろう。


「ご推察の通り。八大列強に変化がありました。少し前に序列七位となったエイギルなる者が消え、新たな者が八位となりました」

「そ。別に名前なんてどうでもいいから言わなくていいわ」

「御意」


 八位が名も無き九位と入れ替わることは度々起こり得る。

 しかし、それ以外の名前が神板より消えることは稀だ。

 突然二名に序列を抜かされることは考えづらく、その殆どがその者の死を意味する。


 だからこの男は、八位以外の名前が消えた時は報告するように命じられてここまでやって来たのだ。


 報告が済んだ男はいつの間にかいなくなっている。

 そんなたった一人きりの室内で窓の外を眺めながらリーリャは呟く。


「悪魔の気配は感じなかったわ。それとも、私が見落とした?…ううん。今回のことは偶然。偶々が重なって、役に立たない英雄が一人消えただけよね?」


 その言葉に応える声はなかった。

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