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悪魔の落とし子  作者: ふたりぼっち
山籠りの老師に拾われた子、人里に現る
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幕間 黄昏の国と強者

 





 大陸東部の山脈に程近い場所で、別名『黄昏の国』と呼ばれている国がある。

 夕陽に照らされた豊かな穀倉地帯が織りなす金の絨毯がその名の由来。

 そんな豊かな国であるはずのその場所で、近年民達が苦しんでいた。


「また税があがるらしいぞ」

「今でも死人が出ているのに…どうなっちまったんだ、この国は…」


 黄昏の国の国土、その殆どが平地であり穀倉地帯となっている。

 その国では現在度重なる重税により、遂には餓死者まで出て来てしまっていた。













「報告します!ハジ村にて叛乱が起こりました!鎮圧されましたが、村民に負傷者多数!現在村は機能不全とのこと!」


 黄昏の国ことヒュンゲル王国の謁見の間にて、飛び込んできた官吏の報告を受ける八代目ヒュンゲル王。


「相わかった、下がるが良い」

「はっ!」


 国王の言葉を受け、官吏は謁見の間を退室した。


「…またか」

「陛下…このままでは…」

「わかっておる…わかっておるが…最早、どうにもならんのだ」


 叛乱はこれだけではない。

 今年に入り、既に10以上の村落が国に対して叛乱を起こしていた。

 人口が多いのは村よりも街である。

 その人口比は十倍どころではない。

 それなのに、たった十程度の村が機能不全に陥っただけでこの有様。


 その原因はこの国の特性にあった。


 殆どの国でも同様だが、国の食糧を支えているのは地方の村々である。

 特に黄昏の国は、一つの村で他国の何倍もの収穫高を記録していた。


 そんな黄昏の国の貿易品はその穀物である。

 栄養にとんだ大地と温暖で安定的な気候、それらに育まれて育った穀物は各国に大変人気で、その輸出だけで国は巨万の富を手にしていた。


 国が儲かれば国民へ還元する。


 それにより国政は安定し、国民は更なる豊かな暮らしの為にせっせと働き、更なる好循環を生み出していた。


 故に、他の産業へ手を出すことなく、輸出で集めた外貨を使い、足りないものは他国から輸入して賄っていた。

 そんな持ちつ持たれつな外交政策により、肥沃で広大な作付面積を持つ国であっても他国から攻め込まれる予兆はなかった。


 現に今もない。

 あるのは内部崩壊の兆し。


「陛下。国庫は持って後二月。ご決断を」

「…売れるものは売ったのか?」

「…王妃殿下は指輪まで差し出されました」


 国を国として維持する為の金銭が底を尽き掛けている。

 売っていたはずの食料を割増で買い戻すことまでしていた。


 それほど、この国は国として末期を迎えていた。


「義母の形見まで……済まない…余が、余が無力なばなりに……」

「陛下、国に残された時間はありません。他国の属国になるか、玉砕覚悟で挑むか…決断の時は迫っております」

「わかっておる。しかしもう暫く、今暫く耐えるのだ。もう直ぐ……」


 もう直ぐ、何かがわかる。


 滅亡へ向かい事態は急速に進んでいるが、国王が愚王というわけではなかった。

 父王の跡を継ぎ、民のためになるような国政を心掛けてきた。

 今回の事態は人災ではあるものの、天災と呼んで何らおかしくはない出来事。人の身である限り防ぎようがないことは国王も重々承知している。

 それでも賢王とまではいかない自分の不甲斐なさを呪いさえしていた。


「ご報告です!」


 飛び込んできたのは先程の官吏ではなく、薄汚れた騎士だ。


「わかったか!?」

「はい!別に新しく誕生した八大列強ですが…」


 国王は息を呑む。


「こちらへと向かって来ています!」

「…よく、よくやった。其方には休息と褒美を与える」

「はっ!有難き幸せ!では、失礼します!」


 入ってきた騎士はボロボロの身体を引き摺るように退室した。


「後は…その者がまともであることを願おう」

「陛下?何か秘策が?」

「何。秘策ではない。これは他力本願故、皆には黙っておったまで。

 これより話そう。我が国の未来を託す相手を」


 天災には天災を。


「我が国を蝕む八大列強に、別の八大列強を当てる」


 本人達の知らぬ場で、戦いの火蓋は切って落とされるのであった。

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