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悪魔の落とし子  作者: ふたりぼっち
始まりの時
5/128

Prologue end

本日五話投稿5/5

 






 老人は過去に龍と戦っている。

 龍がどの様に戦い、倒すためにはどうすれば良いのかも熟知している。


「既に始まっておったか…急がねば…」


 蚕の元を離れた老人は、急ぎ龍の元へと向かっていた。

 その龍だが、先程蚕の魔法により抉り取られた鱗が再生しつつあった。

 再生といっても同じ物ではなく、新たに生え替わるといった模様。


 龍の怪我した部分の鱗は白く、そして少しの弾力性があるように見えた。


「あれならば、何とか…」


 なるかもしれない。


 当時は再生の暇を与えることなく、仲間達と絶えず攻撃を仕掛けた。

 それでも討伐まではかなりの時間を労したが、それは黒龍だった為か。


 茶龍は黒龍と比べ、太さも二回りは細い。

 老人はとうに決めた覚悟を、今一度引き締め直した。


「我が生涯最高の一撃、全てをここに捧げる」


 普段は身体全体から溢れ出る闘気(バトルオーラ)だが、今は左拳のみ溢れ出ている。

 その量は尋常ではなく、周囲の環境にまで影響し始めた。


『ギュオ…ギュォオオオッ!!』

「怖いか?儂は楽しみじゃて」


 命を削り、漸く辿り着ける一撃。

 相手に不足無し。

 生涯現役を貫いた老人にとって、この状況は願ったり叶ったり。


 少し残念なのは、孫の成長を見届けられないこと。

 これ以上、何もしてやれないことくらい。


 老人もまた、一人の祖父ではなく、一人の武人だったということ。


 龍は未だ再生を優先させている為、動きが鈍い。


「受けてみよっ!これが人間(ハエ)の底力よっ!ーー我、光となりて死して終わらんーー早乙女流禁術『光変死終(こうへんししゅう)』」


 老人は闘気を纏い光となり、その光は龍を突き抜けた。




























 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


「死ぬなっ!死ぬな、ジジイっ!」


 目の前が黒く染まる。

 そして、先程まで暖かった存在(もの)からその温もりが消えてゆく。


 俺の視界を黒く染めるのは血液。

 辺り一面が龍の血で染まっているのだ。


「蚕…」


 僅かに唇が動き、消え入りそうな声で俺の名を呼ぶのは、唯一にして無二の家族。


「ジジイっ!起きろ!死んだら殺すぞ!」


 このジジイがこんなことで死ぬはずがない。

 こんな、ただ『腹に穴』が開いているだけで。


「蚕…生き、ろ…」

「ジジイっ!?」


 それきり、ジジイは動かなくなった。













 洞窟に戻った俺は、ジジイだったモノをベッドの上へ置いた。


「何故だ?何故死んだっ!?今日は俺の出立祝いだったはずだろっ!」


 ジジイだったモノは何も答えない。応えてはくれない。


「クソッ!何が人の世だ!何が、何が……」


 俺は全てを呪った。


 突如襲ってきた龍も。


 弱い自分も。


 勝手に死んだジジイも。


 未だ何も知らない、この世界そのものさえも。


「もう、しらねぇ…強さがなんなのかも、人の世も」


 本当の強さについて、ジジイはいつも講釈を垂れていた。

 ジジイが歳をとって気付いた、人の世の有り難さ、大切さ。


 その全てがどうでもよく思えた。


 俺は目的も、目標も、同時に失ってしまった。


















 あれから三日が経った。

 ジジイの亡骸は燃やして、残った骨は陽当たりのいい洞窟の入り口付近へ埋めた。

 作法は知らんが、動物の死骸と同じ様にただ埋めるだけなのは嫌だったからそうしたまでだ。


「そういや、準備があるとか言っていたな」


 ジジイは何でも貯める癖があった。

 だから必要のないものは処分しようと行動してみれば、棚に置いてある不自然な本に気付いたのだ。


「これが準備したもの?」


 洞窟での最後のやり取りを思い出す。ジジイがこれを渡しづらそうにしていた光景を。


 表紙には何もない。

 仕方なく中を確認すると……


「『蚕へ』…やめてくれよ…」


 忘れようと、モノを処分した矢先、これか……


 一瞬捨ててしまおうかと考えたが、これが最後と読むことに決めた。


「『お主とは、ここより西の方角にある大河で出会った』…それは聞いてるよ」


 俺は捨て子だった。

 いや、捨てられたのかどうかさえ分かってはいない。

 それはもっとどうでも良かった。


「『伝えていなかったが、儂は八大列強の一人じゃ』……は?」


 惚けたこと言ってんなよ!?


 ボケが始まっていたのか…気付かなかったな。

 まあ実際いい歳だったみたいだし、仕方ないか。


「『儂は最高位が三位じゃったが、お主であれば一位を目指せる。いや、人間の枠を飛び越えて、世界最強さえも手に出来るだろう。このまま慢心せずに鍛錬に励めばのう』」


 …ボケ…だよな?えらく具体的だな。


「『故に、騎士はやめておけ。練習相手に困る上に、鍛錬の時間が少ないからのう。その点、冒険者は時間の融通も、強き敵にもそれなりに逢える』」


 騎士になり功績を積めば、貴族にもなれるんだぞ?

 まあ、そこは望んでいないが。


 騎士自体準貴族扱いだが、辞めればただの人だから、それ自体は形式的なものでしかない。

 その点冒険者は自由だ。どこにでも行ける。騎士では不可能な国外までも。


「『これはただの老耄の願いじゃ。蚕よ。世界最強になってくれ』」


 ジジイ……幼い時のあんな戯言を、まだ…


「『あ。そうじゃ。せめて八大列強になるまでは帰ってこんでええからのう』」


 やっぱり、燃やすか。


「『手紙はこれくらいでええかの。これよりは、人の街で暮らす為の手引きを記す。参考にするといい』」


 ……わかったよ。

 こんなの遺されたら、行くしかねーだろ…

 死んでからもケツを叩きやがって……



 本を閉じると、片付けを再開した。

 今度はただの片付けではない。

 出立の準備だ。














 さらに三日後。

 必要な物は背嚢の中に。大切な物は洞窟内へ埋めた。


「じゃあな」


 別れの言葉の後、洞窟へ火を放つ。

 生活臭は獣を誘き寄せるからだ。

 それに、何か残っていると後ろ髪をひかれるから。


 一頻り燃えた後、鎮火を見届けることなく歩き始めた。

 目指すは人の街。

 ジジイの記憶通りならば、一番近くの街はここから東へ三百km程の旅路。

 全力で走れば一日も掛からないが、それでは風情もないし、街へ着く前にジジイの遺した本も読み終えたい。


「ジジイはボケてるからいいが、俺はボケていないからな。本当に冒険者としてやっていけるのか不安だ…」


 龍を倒す一助にはなれたが、そもそも龍の強さがわからん。

 ジジイの遺した蔵書には、どこにも龍については書かれていなかったからな。


「龍であの強さなら、ドラゴンってどれだけなんだよ……他の魔物もこの辺の奴らより強いんだろうなぁ……」


 戦いに身を置く者の心構えは、幼少期より叩き込まれている。

 だから、死ぬことは怖くない。嫌なだけで。

 でも、いきなりはなぁ……


 漸く街に住み始めたかと思えば、その辺の魔物に殺されたって……

 恥ずかしいを通り越して、ただの馬鹿だろ。




 道中襲いくる魔物を片手間で薙ぎ倒し、折角なので魔石だけは採取しながら街へと向かう。


「これが売れるって聞いたけど…」


 無価値だったら恥ずかしいぞ?


 様々な疑問と様々な恐怖を抱え、念願だった街へと漸く辿り着いたのだった。

登場人物紹介


蚕 早乙女(182/91黒髪で長髪を後ろで縛る、口が悪い)

拳信 早乙女(185/85白髪ロングで蚕と同じ髪型、〜じゃのぅ口調、『拳王』、序列最高位三位、最期は七位)


〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


長さや重さなどの単位は、地球のものへと変換して翻訳しているということでお願いします。


あ!


「もうちっとだけ、続くんじゃ」


嘘です。言ってみたかっただけで、次からが本編です。



次話は来週末に複数話投稿予定です。

ブックマークをしてお待ちいただければ幸いです。


皆様の週末の時間潰しになれれば嬉しく思います。多謝。

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