閑話 神の使い
この世界が創られてまだ間もなき頃、その不安定な世界では混沌が支配していた。
その混沌の中、世界ではある二つの種族が台頭していた。
一方は
『強者が全てを決め、弱者を支配すれば良いのだ』
もう一方は
『人は一人では生きていけない。協力し合える環境を作り、皆で支え合おう』
意見は真っ向から対立し、神話の時代を生きる伝説達の争いは激しさを増していく。
その争いは人智の及ぶものではなく、地は裂け大地が隆起して山が作られ、またその山も争いにより消し飛んでいった。
そして遂には次元に裂け目まで作られてしまい、古の神々は漸く重い腰を持ち上げたのであった。
『では、別れて暮らすが良い』
天から齎された啓示は、瞬く間に世界中へと広まっていった。
神代を代表する二種属を分けたことにより、世界は秩序を取り戻した。
一先ずこれで問題はない。
神々はそう安堵するものの、内心では理解していた。
『この者達はやがて再び争うことになる』
『生きる次元を分けたが、そこを行き来する未来は必ずやって来るだろう』
『その時の為に、そうならない様に、何か手を打たねば』
神は現世へ介入したがらない。
自分達が介入すれば、なんの為の現世なのかわからなくなってしまうからだ。
だから、極力介入を避ける。
『あちらの世界にはコレを。こちらの世界には神獣を遣わせよう』
『しかし、どちらも酷く弱い?』
『時が経てば、二種属の力も弱まるだろう』
『であれば、問題はない』
もう一つの世界にはナニカを。
遠い未来に蚕が生きる世界には神獣を、それぞれ遣わせることに決まった。
彼らの役目はお互いの世界への干渉を未然に防ぐこと。
そして、世界の秩序を保つ為の行動は始まる。
『拙いな。まだ遣いは使い物にならぬ』
神々の予想を超え、別世界の種属は次元侵略の為に行動を始めた。
予想外の早さに、神獣達の成長は間に合っていない。
『しかし、我々が介入する時ではない』
『物理的に、はね』
『つまり?』
『啓示を齎すのよ』
一柱の神が提案する。
物理的に干渉出来ないのであれば、間接的にすればいいと。
『しかし、どうやって?』
『強い人類を探し出し、その者たちにだけ真実を伝える』
『見つけるのは簡単だが、何をもって周りの協力を得る?』
『世界中に教えるの。この世界での最強が誰なのかを』
これにより神板が創られ、やがてそれは噂となり世界中に広まる。
『ここに書いてある人物が、この世界での最強』だと。
そして周りに認知されるとその人物を担ぎ上げるのも、この世界の住人の特徴。
つまり神代の時代と変わらないのであれば、『協力し合える』はずなのだ。
こうして、八大列強は創られたのであった。
神々にも誤算があった。
人は季節と同じ様に移ろいゆく者。
そこが抜け落ちていた。
「八大列強の『本当の』義務と権利を忘れた奴等の為に働いていると思うと、虫唾が走る」
「そう言わないの。仕方ないのよ。殆どの人種が私達とは違い短命なのだから」
「過去の八大列強は力を合わせ、次元の向こうからやってくる悪魔達と渡り合っていた」
「でも、今は私達だけ」
真実を知らないのだ。自分達が何に選ばれたのかすら知らない。
ただ知るのは、世界で八番以内に強いということだけ。
「俺達は神代からその力を維持してきたが、他の種族は衰える一方だ」
「それだけ平和ってことよ。神々が望んだ世界に近いのじゃないかしら?」
「ふんっ。何を馬鹿馬鹿しい。仮初の平和に浸って滅ぶのか?」
序列一位であるアークベルト・ラグ・ドラゴニアは怒りを露わにする。
「さあ?どちらにしても、私達がいる間にそんなことはさせないわ。
それに、神々が八大列強に啓示を齎したのはたった一度。もしかしたら何かしらの制約があって、今は伝えられないのかも」
「だから、俺達が他のひよっこに教えろと?」
「そうよ。貴方は意固地なんだから。仲間を増やすべきよ」
ただ怒りを露わにするアークベルトへ、序列二位であるリーリャ・シルフィーネ・フランソワーズは伝える。
「お前の耳は無駄に長いのだから聞こえるだろう?奴等の性根の腐った声が」
「出来損ないの蛇のくせに、エルフ馬鹿にしてんの?殺すわよ?」
「やれるものならやってみろ。若作りババアが」
ゴゴゴゴゴゴッ……
二人が戦闘態勢に入っただけで、丈夫そうに見えるログハウス全体が軋む音を上げながら揺れる。
「………」
「………」
二人が魔力と闘気を収めると揺れも収まっていく。
「…このやりとり何回目よ?」
「千とんで三十二回目だ」
「はあ…アホらし…」
溜息と共に怒りで立ち上がった腰を椅子へと再び下ろす。
「悪魔の襲撃頻度が上がってきて、私達のストレスも限界ね」
「……どうにかならんのか?エルフに伝わる秘伝で、奴らを抑え込むとか」
「無理よ。そんな力があるのならとっくにやっているし、それは神々に近い所業よ?」
「やはり…仲間を増やすしかない…か」
「わかるわ。私も気は進まないもの」
人々が忘れてしまった本来の義務。
忘れたのにも理由がある。
一つは先程リーリャが言っていたように『短命だから、途絶えてしまった』というもの。
もう一つは『説明しても、その者達が現役の時には悪魔がやって来なくて嘘つき呼ばわりされてきた』からだ。
だから、二人は辟易としている。
また人に説明して、また嘘つき呼ばわりされる時代が来ると。
「………」
「………」
沈黙が二人に重くのしかかる。
「…もう少し」
「…ええ。もう少しだけ、様子見をしましょうか」
「それがいい」
人類が忘れてしまった八大列強の存在理由。
この二人が重い腰を持ち上げないことには、それが白日の元に晒されることはない。
長命種故の先延ばし。
それは遥か先の出来事になるのか、はたまた・・・




