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悪魔の落とし子  作者: ふたりぼっち
山籠りの老師に拾われた子、人里に現る
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3-9

 





「じゃあ…私のこと、捨てない?」


 酷く俺が悪者に聞こえる台詞だが、事実無根だ。


「俺達は仲間だろう?それに、俺が多少魔法を使えたとしてもアンジェリカの魔法が凄いことには変わりない」


 俺が魔法を使えることを頑なに信じないアンジェリカへ、簡単な魔法を見せて証明してみた。

 すると青褪めた顔をくしゃくしゃにして、遂には泣き出してしまった。


 理由は単純…というか、俺に配慮が足りなかった。


 アンジェリカが凄腕の魔法使いであることは自他共に認めるところ。

 しかし、八大列強と比べるとそれは霞んでしまうのも事実。


 闘気使いである俺には魔法使いであるアンジェリカなら役に立てると、自信を持って仲間へと立候補したのだ。

 それなのに件の八大列強は魔法も使えるときた。

 それもその辺の魔法使いでは足元にも及ばない威力で使うのだ。


 それを知り、アンジェリカのプライドと心はポッキリと折れてしまい、今に至るのだ。


「本当に捨てない?」

「本当だ」

「本当に?」


 その様子はまるで駄々っ子。


 俺はジジイのお陰(せい)で挫折しか知らないから、少しのことではヘタレない精神を持っている。

 その点、アンジェリカは挫折を知らずに育ってきた。


 持って生まれた魔法の才能、それを周りと勝手に比べられ常に優劣を付けられてきた。

 さらには努力の子でもある。

 周りの評価は高く、それにより本人のプライドも自然と高まってしまった。


 だから初めての挫折にどうすれば良いのかわからなくなってしまったのだろう。


「本当だ」


 そう告げて、俺はそっとアンジェリカを抱きしめる。


女子(おなご)は殴るな、抱きしめろ』

 ジジイ(本)もそう言っていたので間違いないだろう。

 これが男なら、有無を言わさず殴って終わりだが。


 目を腫らし泣き顔のアンジェリカを、まるで幼子の如くあやす俺の姿がそこにはあった。


「絶対…絶対すてないで」

「わかってる、わかったからもう寝ろ」


 そのままベッドへ連れて行き寝かせる。


 アンジェリカの綺麗な白髪を撫でながら紡ぐのは『大丈夫』という魔法。

 いつしかその魔法の言葉によりアンジェリカは寝息を立て始め、俺も微睡の住人となるのであった。








 そして目覚めると、そこには誰の姿も見当たらなかった。















『拝啓、もう一つの目標であり大切な貴方へ。昨夜は取り乱してしまってごめんなさい。私の存在意義が失くなってしまったように錯角してしまったの。

 貴方がそんな人じゃないことくらい、付き合いは短くてもわかっていたのに。

 私は一人で行きます。

 そもそも図々しかったの。まだまだ貴方の役に立てないのに、着いていこうなんて。

 でも、次は……次に会う時には、きっと貴方に見合う素敵な人になってみせるわ。

 強く、そして美しくね。


 未来の叡智の魔導師より』


 朝起きた時、室内にアンジェリカの姿は見当たらなかった。

 代わりに枕元にはこの手紙が添えられていた。


「これは………まさかっ!?」


 あることに気付き、俺は急いでジジイ(本)を手に取った。


「何々…『女子から別れを切り出されたなら、それを執拗に追いかけてはならない。真の(おとこ)であるのならば、潔くその想いを断ち切るのじゃ』……なるほど?」


 何となくこのシチュエーションはと思い本を取り出してみたが、やはりよくわからなかった。


 手紙(これ)を自分なりに読み解いてみるが、何故か俺が振られたということであっているのだろうか?


 ただ慰める(?)為にした行動なのだが、どうやらアンジェリカからみれば間違った行動だったのだろう。


 俺がアンジェリカに想いを寄せていると勘違いされた上、丁重にお断りされた。

 多分、こんな所。


 朝起きてみたらベットが別のはずの俺が同衾していたのだ。

 それもアンジェリカは昨日取り乱していた。どうしてそうなったのか記憶に残っていなくても何らおかしくはない。

 そこにきて朝は冷静だったのだろう。

 俺の隠された想い(?)に気付いたアンジェリカは、相手が八大列強ということで身の危険を感じて去る決断に至った、と。


 そしてその後、追いかけられないようにこうして丁寧な手紙まで添えて。


「怖い思いをさせたのは申し訳ないが……状況が状況なだけに、酷くないか?」


 これでまた一人(ソロ)だ。

 旅の支度から目的地までの計画など、その全てを一人で行わなければならない。


「はぁ…まあ、仕方ないか」


 ジジイは抱きしめろと言った。しかし今回は俺もそれが正解だと考えての行動だった。

 故に、これを招いたのは自分自身。


「エイミルにも会わなくてはな」


 恋的な意味ではないが、仲間を失った傷心は確かに感じている。


 面倒臭いところはあったが、それも今思うと楽しいやり取りだったように思い出す。


「いや、そんなこともない…か?」


 面倒なものは面倒だ。

 それよりも面倒なこと(旅の支度など)があるから傷心しているのだろう。


 気を取り直し、エイミルの元へと向かう支度をした。














「あの女も凄い奴だったんだな」


 八大列強の看板。その力は身を持って知っている。

 だが、エイミルの名もまた、凄い力を発揮していた。


 俺が尋ねたのはその辺にいる衛兵だった。

『エイミル師団長から来て欲しいと頼まれたのだが、何処に行けば良い?』

 と。


 たったそれだけだったが、あれよあれよという間にここまで連れてこられた。

 道中に身分の確認はされ、俺が八大列強だということは白日の元に晒されたが、それが分かる前から扱いは凄く良いものだったのだから、エイミルの名前にも相当な力があることが窺えたのだ。


「軍施設と聞いていたが、立派なものだな」


 建物は質実剛健、そして広かった。

 ここは連邦軍本部らしく、その規模も国内では最大。

 この国にも貴族はいるものの、他の国とは違い騎士はいない。

 その騎士の代わりとなるのが連邦軍なのだ。

 連邦制度が取り入れられる前までは各国に騎士はいたようだが。


「粗茶ですが、どうぞ」

「ありがとう、頂くよ」


 通されたのは複数人で使う会議室のような部屋。

 大きなテーブルには椅子が何脚か並べられており、その一つに腰を下ろした俺の前へ、茶が出された。


 センティア王女が淹れてくれた茶の方が好みだったが、これもこれで渋みが程よく悪くはない。


 そんな風に茶を嗜んでいると扉がノックされた。


「カイコ殿っ!来て頂き、ありがとうございます!」

「エイミルか。師団長とは凄い肩書きだったのだな。驚いたぞ」


 ノックの後入ってきたのは待ち人であるエイミルだった。

 その表情が何故かホッとしているように見えたが、それよりも先ずは感想を伝えた。


「いえ…私など、所詮雇われの身ですので…」

「どうした?覇気がないぞ?」

「いえいえ。こちらの事情です。お気を使わせてしまい、申し訳ない」


 そう言って頭を下げるエイミルは疲れて見えた。


「それより。先ずはドラゴン討伐のお礼をさせて下さい。大袈裟なものは嫌われると思い、大々的なものではないのでそこはご安心を」

「ああ、それは助かる。無駄に畏まられたり大袈裟なものは苦手でな。

 あの時は本当に偶々居合わせただけだし」

「そう仰られると思いました。ご同行願えますか?」


 着いてこい、か。

 勿論ここまで来て『はい、さよなら』とは出来ない。

 恐らく大急ぎで何か準備してくれたのだろうからな。


「行こうか」

「こちらです」


 そこには、良く知るキリッとした表情のエイミルの姿があった。











 軍の階級に疎い俺は、道中その辺りについて質問した。

 先ずは平軍人。次が伍長。そして副小隊長に小隊長。さらに中隊長、大隊長と続き、その次が師団長だった。

 師団長の上には元帥という位しかない。

 つまり、実質No.2ということ。

 実際には同一の師団長がいるからそれはないと言っていたが。


 それにこれはあくまでも現場でのみ通用する階級のようだ。

 階級というよりは役職に近いとも言っていたが、難しくなってきたのでそれ以上の追求はやめにした。


「こちらです」


 ガチャ


 話をしていたらいつの間にか目的の部屋へ着いたようだ。

 扉を開けて入室を促されたので先に入ることに。


「ようこそ、八大列強にして我が国の救世主よ」


 そこに居たのは着ぐるみが一人。


「……どうやら入る部屋を間違えたようだ。失礼する」


 八大列強が他にいるとも思えんが、一縷の望みを託し踵を返したのであった。

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