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悪魔の落とし子  作者: ふたりぼっち
山籠りの老師に拾われた子、人里に現る
43/116

3-7

 





(待って…よく考えたら、二人きりじゃないっ!?)


 蚕とパーティを組んだはいいが、アンジェリカはその先に起こる出来事を予想していなかった。


(昨夜は馬車の人達と一緒だったから気にも留めなかったわ……

 お祖父様…お父様、お母様、ごめんなさい。

 私、大人の階段を登るかもしれない…)


 アンジェリカの両親は普通の人だ。

 魔法使いではあるものの髪も普通の色をしており、魔力もそこそこ程度だった。


 そんなごく一般家庭に生まれ落ちたアンジェリカは、先祖の血を色濃く受け継いでしまう。


 幼少期前半を親元で健やかに育てられたアンジェリカは、物心つくとほぼ同時期に祖父へと預けられた。


『アンジー。君は美しいから、世の男共が放っておかないだろう。だけどね、決して自分を安売りしてはいけないよ。

 お祖父様との約束だ。いいね?』


(お祖父様…でも、蚕にもし迫られたら…)


 その悩みは杞憂に終わった。
















 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


「おい、本当に大丈夫なのか?」


 翌朝、朝食を適当に摂ってから出発の時を迎えている。


「…大丈夫よ」


 そう言うアンジェリカの顔は疲れ切っている。

 目の下に大きな隈も出来ている。


「本当か?体調が優れないのなら、もう一泊しても良いんだぞ?」


 昨日走らせすぎたか?

 そう脳裏を過ぎるも、どうやら違うみたいだ。


「良いわね!ぐっすりと朝まで寝られた人はっ!」

「何だ?夜中に何かあったのか?」


 それなら起こしてくれても良かったのだが……


「違うわよっ!!さ。行くわよ!」


 人には何をしても何を言っても怒る時期があると聞く。


 これがイヤイヤ期なのか?


「ま。元気ならそれでいい」


 俺は能天気にも、そう思うことに決めた。

 体調管理くらい自分で出来るだろう。

 それにいつまでも子供扱いしていてはダメだ。俺とアンジェリカは対等なパーティメンバーなのだから。












「本当に体調は悪くなかったようだな」


 朝は気になったものの、終わってみれば昨日と変わらなかった。

 いや、昨日の筋肉痛があることを差し引くと今日の方が調子良いくらいだ。


「ふぅ…意外に美味しいわね。だから言ったでしょう?問題ないって」

「美味いか?その辺に生えてる山菜と干し肉のスープだぞ?」

「美味しいわよ。私が作るよりも遥かに」


 何だ、その絶大な自信は。


 現在俺達は野営地で夕食を食べている最中。

 今日の料理当番は俺だ。当番など決めていなかったが、何故かそんな雰囲気だった。


「まさか…料理出来ない…わけないよな」


 どんな所で育ったのか知らないが、『普通』子供だってこれくらいの料理は作れる。

 その『普通』は比較的新しい書物で学んだことだから間違っていないはず。


「そのまさかよ。悪い?女の子が料理出来なくて」

「男だとか女だからだとか言うつもりはないが…よく生きてこれたな」

「それもお祖父様譲りよ。いつも使用人やお祖父様のお弟子さんが作っていたもの」


 なんという恵まれた環境。

 そこで出来上がったのがアンジェリカだということに目を瞑れば、俺もその家に生まれたかったぞ。


 年寄りの味気ない飯を毎日食わされてみろ。俺のように食に関して並々ならぬ想いを抱くことになる。


「…貴方、昨日はすぐに寝たわね」

「何だ?やっぱり何かあったのか?」


 朝は違うと言っていたが、この口振りだとどうもそんな感じではない。


「…おん…な…」

「ん?なんて言った?」


 あまりにも小声で聞き取れなかった。


「女慣れしてるの?って聞いたのよっ!」

「怒鳴るなよ…女慣れ?なんだそれは?」

「だ・か・ら!同年代の女の子が横にいても簡単に寝れたからよ!」


 まだイヤイヤ期なのか?


「ん?逆にどうして眠れないんだ?」

「ど、どうしてって…あれ?何でだろう?」

「でも、確かに慣れかもしれんな」


 思い当たる節はある。


「やっぱりっ!このスケこましっ!」

「スケこましが何なのかは知らんが、どうせ碌な意味じゃないだろうから聞かない。

 慣れているのはあれだ。

 話しただろう?龍族と戦って死にかけたって。

 その時に看病してくれた女冒険者達のことだ。

 付きっきりで看護してくれたらしいからな」

「らしいって…覚えていないの?」

「当たり前だろう?生死を彷徨っていたのだからな」


 覚えていたらニーナ達に失礼だ。向こうは必死に看護してくれたのに、俺は狸寝入りしていたなんて。


「…そういう意味じゃないわ。貴方、お付き合いしていた女の人が過去にいるの?」

「お付き合い?よく分からんが、俺にいる女の知り合いは先程伝えた恩人の三人と、えっと…アイラにレイラにセンティア王女くらいだな。同年代だと」


 そもそも、何の話だ?


「そう…女慣れしていないのに、なんで…私だけ…」


 ボソボソと聞き取りにくい。ん…?


「あ!」

「どうしたのっ!?やっぱりいるのっ!?好きな人が!?」


 だから何の話だ。


「ジジイから言われていたんだ。

 婚姻の約束をしていない異性との同衾は禁ずるって」

「どどど、同衾!?ちょっ、ちょっま、ちょっと待って!私はまだ…でも……」

「?その点、アンジェリカは特別だ」


 声が大きくても聞き取りづらい。

 コイツはその道の達人かなにかか?

 どんな道かしらんが。


「と、特別……」


 今度はこちらを潤んだ瞳で見つめてきた。

 さっきまでの怒った顔よりもこっちの方が寒気が走るのは何故なのだろうか?


「そうだ。ジジイ曰く『こと、パーティメンバーであれば別じゃ』とな。

 つまり、パーティメンバーに性別は関係ないってことだ。

 だから、アンジェリカは別なんだよ」

「そ、そ…」

「そ?」


 何だ?今度は俯いてぷるぷると震え出したぞ?

 何故だか既視感がある……


「そっちかよっ!」

「いてっ!?何故殴る!?」

「当たり前よ!この…馬鹿!」


 相変わらず悪口は苦手だが、相変わらずの良いパンチだった。















 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


(はあ…なんなのよ。私だけ舞い上がって…馬鹿みたい…)


 寝不足だったが例により寝付けなかったので、今夜も蚕が先に寝ることになり、アンジェリカが一人見張りをしている。

 そんな二人以外誰もいない野営地での夜。


「うう、ん…」

「見た目は大きくて男らしい癖に、寝顔は年相応なんだから…馬鹿…」


 アンジェリカの周りの男性達はスラっとしている体格の人が多かった。

 それもその筈、周りもアンジェリカと同じく魔法使いなのだから。

 故に、男らしく逞しい蚕を見て、仲間とは違う視線を向けてしまうのである。


「お祖父様も大きかったなぁ…」


 思い出すのは生前の姿。それも自分を指導してくれていた少し前のもの。


 叡智の魔導師は八大列強には珍しい冒険者からの叩き上げである。

 八大列強とは武や魔を極めし者達の集まり。

 冒険者は仕事として選ぶものであり、なってから強くなる者は稀だ。

 勿論人は成長する生き物なのだが、殆どの八大列強のとは違って一つのことに打ち込める時間は少ないように感じる。

 故に、八大列強となる者達の多くは、幼少期から魔法だけを学んでいたり、剣術だけを学んできた者が多くいるのだ。


 そして、冒険者ということは叡智の魔導師もまた旅をしたり依頼を受けたりしていたのだ。


 動いてたくさん食べる。


 その連鎖は身体を大きくし、叡智の魔導師も他の冒険者のように逞しい肉体を持っていたのだ。


 蚕の広く逞しい背中を見て、今は亡き愛する家族を思い出す。

 口は汚く、髪の色は真反対。

 年上のような風貌だが、その実中身は同い年。


 そんな蚕へと寄せる想いは、恋ではなく幻想を追っているのではないか。


「最初、貴方を見てお祖父様を思い出したわ」


 大きな男性。

 それだけでなく、憧れ尊敬する祖父と同じく八大列強でもある。


「だから、この胸の高鳴りは気のせいだと思うの」


 恋心ではない。


「でも…何故か、惹かれる…」


 やはり、恋心かもしれない。


 乙女の悩みは尽きないのであった。

アンジェリカの想いは勘違いです。

どんな恋であれ、始まりは勘違いからスタートするもの。

現実を知り、理想とのギャップに思い悩むもの。

その勘違い(恋心)が解けたとき、そこで二人の仲は良くも悪くも進んでいきます。


まあ。蚕の勘違いは恋心とは縁遠いですが……

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