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悪魔の落とし子  作者: ふたりぼっち
山籠りの老師に拾われた子、人里に現る
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3-6

 





「ありがとうございました」


 アンジェリカの活躍により野盗達は滅び、馬車の人達は助かった。

 いや、誰も死んでいないけど。


「気にしないで。困った時はお互い様よ」

「そうだ。それに美味い飯のお礼も頂いているしな」


 襲われていた馬車は行商人のものだった。

 野盗達は踝丈辺りまで地面と氷漬けになり、後は放っておくことに決まった。

 捕縛して連れて行くにも街は遠く、俺達には脅威でも何でもないから殺すのも憚られた。

 故に放置。

 魔物に殺されなければ生き残れるだろう。


 というのは建前で。

 飯を食ったら運動がてらトドメを刺しに戻るつもりだ。


 アンジェリカは怒っても手加減したことから、殺しには向いていない。

 だから黙って行ってくる。


 奴らは殺して奪おうとした。

 生き残れば次の被害者が出るかもしれない。

 その時に俺達はいないわけで、もしそんな未来があるとしたら寝つきが悪くなってしまう。


 故に、これは治安のためでも何でもなく。ただの自己満足。

 本当にそれだけ。


「よし。飯も食ったし、見張りの前に小用を足してくるか」

「アンタねぇ!?こっちは食事中なのっ!デリカシーないんだからっ!」

「済まんすまん。ということで、アンジェリカ。俺がいない間の見張りは任せた」


 この行商に護衛はいない。

 この辺りにも魔物は出るのだが、それらは比較的弱い部類のものらしく、行商人の男にも戦いの心得がありそのくらいの魔物なら何度も倒しているという実績もあった。

 故に護衛を付けなかったことが裏目となった。


 行商は男と妻、さらには幼い娘も同行していた。

 魔物なら何とでもなっただろうが、野盗は別。

 向こうの強さもわからないし、何よりも人数が多いので戦いに出ると妻と子を危険に晒してしまう。

 故に打って出ることはせず、馬車内から物を投げたりして対抗していたと。


 そんなわけで、行商人家族は馬車の中で野営してもらい、俺達は毛布を借りる代わりに外で見張りながら過ごすことに決まったのだ。



 俺が一人野宿する時は木の上で寝ていたが、アンジェリカにその心得がないので丁度良かったのかもしれない。


「これに巻き込まれていなければ、ベッドで寝れていたかもしれんがな。

 おっ。見えたな。

 さて。寝床はないが、アイツらには永遠の眠りについてもらおうか」


 アビュソリュートゼロといったか。

 この魔法の持続性はすごい。

 未だ近くは気温が低く、氷も解けていないように見える。

 難しい魔法だろうに、アンジェリカは詠唱省略して使えていた。それだけでも凄いのに、この威力と正確性。お荷物どころか、仲間になって良かったと既に感じている。


 それらを確認した後、腰の剣へと手を伸ばすのであった。

















「起きろ。日の出だ」


 交互で行った見張りは、俺が先に寝る番だった。

 現在は夜明け過ぎ。

 地面が硬いからと、俺の膝に頭を乗せて寝ているアンジェリカを起こした。


「んっ…え?」

「なんだ?」


 何を驚いている?寝起きで家と勘違いしたか?


「な、な、なんで!?何でアンタの膝っ!?」

「お前が勝手に使っていたんだ。文句を言いたいのは俺の方だぞ?」


 寝呆けていたのは寝る前の記憶だったか。


「私が寝ている隙に変なことしなかったでしょうねっ!?」

「俺はしていないが、アンジェリカが自分で自分の鼻を穿っていたぞ?」

「えっ!?う、嘘よっ!?」


 嘘だとも。


「ねえっ!?嘘よね?ねっ!?」

「しつこいな」

「お、おはようございます」


 アンジェリカが煩いせいで行商人家族を起こしてしまったようだ。

 まだ夜明けで日も昇っていないというのに。


「今、朝食の準備をしますね」

「悪いな。助かるよ」

「ねえ…嘘だと言って…」


 普段と違いあまり寝ていないせいもあってか、既に小腹が空いていた。

 煩いだけかと思いきや、料理当番を起こすなんてアンジェリカの騒音も存外役に立つじゃないか。


「嘘よぉぉっ!?」


 今にも泣き出しそうなので、本当のことを伝えたら殴られた。

 そこまでのことか?


 初めてのパーティ解散の危機は、こうして過ぎ去って行くのであった。















「ありがとうございました」


 三度礼を伝えられそれが行商人家族との別れとなった。

 そんな再び二人きりとなった俺達は先を急いでいる。

 理由は単純で、昨日の遅れを取り戻すため。

 そうしないと今日も野宿となってまうからだ。


「どうした?やけに静かじゃないか」

「話しかけないで。無駄に疲れてしまうわ」


 アンジェリカは静かだ。

 いや、正確には息が荒いが。


「疲れることが大切なんだ。寧ろ、疲れなきゃ意味がない。これはアンジェリカの修行でもあるんだぞ?」

「うっ…わかっているわよっ!」


 魔法使いは体力がない。

 これは闘気使いと比べての話だが、殆どに当て嵌まる事実。

 そんな魔法使い(アンジェリカ)の短所を打ち消す為に、今はこうして走っているのだ。


「ペースが乱れるのは良いが、体幹を真っ直ぐ保つように意識することは忘れるな」

「くっ…」


 二人の荷物は俺が持っている。

 故にアンジェリカは現在手ぶら。愛用の杖だけは持たせているがな。

 杖はものにより効果が様々らしく、気休め程度の物から、アンジェリカが使っているような高価なものは魔法そのものの効果を上げてくれると聞いた。


 俺も使ってみたいが、剣や槍のような武器とは違い、杖は本人に合ったものでなければ効果が期待出来ないそう。

 まあ熟練者になればなるほど剣や槍にも似たようなことは言えるが。


 暫くの間俺が思案していると、次なる目的地が見えてきた。


「あれがそうか?」

「ぜぇ…はぁ…、そ、そう、よ。わた、しがしらべ、たところによ、ると…あそこがしゅくばまち…はぁはぁ…」


 なんて言っているのかわからん。

 が、こうなる前にちゃんと聞いていた。


 首都までの旅程は全てアンジェリカ任せ。

 なのでアンジェリカは事前に下調べをしており、旅程を全て把握しているとのこと。

 初めて役に立ったな。と、伝えたところ、怒られると身構えるものの、終ぞ拳は飛んでこなかった。


 代わりに泣きそうな表情でこちらを見つめてきて、揶揄いが過ぎたと反省したものだ。


 おっと。そんなことよりも。


 ここから見える宿場町は、幅一メートル程の堀に囲まれており、木でできた如何にも頼りなさそうな柵で覆われている。


「あそこから入れそうだな」

「い、いきま、しょ…う」

「ああ。後少しだ。頑張れ」


 入り口には木の板が渡してあった。

 本当に簡素な造り。

 そして、門番も見当たらないので勝手に入ってみる。


「どうすれば良い?宿も決めているのか?」


 宿場町の中は見渡す限り平屋だらけ。

 外から見ても狭い町だが、内はさらに狭かった。

 道も馬車が通れば通行人は逃げなければならないくらいに狭い。


「あ、あそこ、に、ひと、がたっている、で、しょ?はぁはぁ…たてもの、のよこに、いるひとが、かんり、にんよ…ぜぇ…はぁ…」

「なるほどな」


 つまりまだ建物の横に管理人が立っている所は空いているといったわけか。

 空いているかどうかわかるのは便利だな。

 宿とは違い、一棟貸しだからだと思うが。


「じゃあ、適当に声をかけてみよう」

「ま、かせる」


 この調子だと、呼吸はもう暫く整わないだろうからな。

 こうして、一番近くにいた人に声をかけるのであった。







「ま。こんなものか」


 建物は普通の民家だった。

 普通といっても、俺が知る民家はアイラ宅のみ。

 玄関は土間になっており、水瓶と炊事場が併設されている。

 そして仕切りもなく居間があるだけ。

 アイラの家は2階にそれぞれの部屋があるらしいが、ここにそんなものはない。何故ならここは平屋で、目に映るものが全てなのだから。


「しかし、本当に何も無いな」


 間取りには納得したが、中の設備には色々と思うところがあった。

 何もないのだ。

 置いてあるのが当たり前なテーブルも、無いと寝づらいベッドも。

 本当に雨風が凌げるだけ。


「はぁ…疲れたわ…」

「頑張ったな。これからも続けていくぞ」

「げえっ!?」


 顔に似合わない声を出すな。一瞬出処が分からずおっさんを探したぞ。


 アンジェリカは床に腰を下ろし、水を飲むとすぐに回復した。


「でも、確かに体力は必要よね。お祖父様も毎朝身体を動かしていたわ。それは急な戦いでも万全に対応するためだったのね」

「それもあるが、恐らくそれはジジイと同じ理由なのだろうがな」

「え?他にあるの?」

「肉体の衰えを誤魔化す、なんて言っていたな。アンジェリカの爺さんも恐らくは。

 冒険者だったのだろう?多分またいつか旅に出る時に向けて備えていたのかもしれないな」

「そう…かも。お祖父様はいつも拳王様との若かりし冒険者時代の話を楽しそうに話されていたわ」


 思い出に浸れるのは年寄りの特権。さらに過去に何かを成せばその思い出に華を添える。


 ジジイもよく物思いに耽っていたな。


 そんな懐かしい気持ちになれた旅の一幕だった。

次回!

二人きりの初夜!

何もありません!(ネタバレ)

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