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悪魔の落とし子  作者: ふたりぼっち
山籠りの老師に拾われた子、人里に現る
41/115

3-5

 





「悪いな?私用で部屋を借りてしまって」


 俺にも分別や礼儀はちゃんとある。一定の、と付いてしまうが。


 ここはこの街の冒険者ギルドギルドマスター室。

 冒険者ギルドでパーティ結成の申請をしたところ、ここに八大列強(おれ)がいると騒ぎになるからと、快くこの部屋を貸してくれた。

 まあ、二人きりではなくここのギルドマスターもいるが。


「いや、八大列強と友好が結べるのだ。安いもの。其方のお嬢さんも叡智の魔導師のお孫さんだとか?

 現在、このギルドマスター室が世界一安全だと言っても過言ではないだろう。

 この奇跡の出会いにこちらこそ感謝する」


 長ったらしい台詞だが、言わんとしていることは伝わった。

 確か名前はマークセントだったか。

 白髪が混ざり始めた髪がよく似合う中年の男だ。


「この国では普通の…俺たちの様な人族は少ないのか?」


 アンジェリカは魔族の末裔らしいが、髪の色くらいしか違いはないので俺と同じ括りでいいだろう。

 それを聞いたのも、このギルドマスターの頭には鹿の角と耳が付いているため。


「そうだな。純粋な人族は2割程に留まる。ギルドマスターも国民に親しみを持ってもらう為に、各ギルドで獣耳族が多く採用されているという噂もその通り。

 勿論、その辺りの贔屓は些細なものでしかないがな」

「それはそうだろう。能力の足りていない奴にギルドのトップなど任せるわけがない」

「そう言ってもらえると助かる」


 俺達が会話をしている横で、アンジェリカだけは一人静かにしている。


「書けたか?」

「待ちなさいよ。もう少し、もう少しでいい名前が…」

「何でもいいだろう?そこまで拘ることか?」


 アンジェリカは静かに書類と睨めっこをしている。

 既にその書類には俺のサインとアンジェリカのサイン、さらに必須事項欄もその殆どが埋まっている。

 残されたのはパーティ名のみ。


 そんなことどうでもいいと俺は思うのだがアンジェリカは違うようで、俺は全てを任せることにしたのだ。


「決まったわ」

「何だ?」

「『龍を討てし者』どう?」


 長かった。あまりにも時間を掛けているから寝ているのかと疑ったぞ。


「言っただろ?龍を倒したのはジジイで、俺は倒してないって」


 世の中ではそれを詐称と呼ぶのでは?


「そこは関係ないわ。あくまでもそれだけの気概があるって意味よ。事実、倒してもいないのに『ドラゴンスレイヤー』なんてパーティ名は世に溢れているわよ。

 やっぱり、私の最終目標はそこなの。

 …ダメ…かな…?」


 俺の目標である世界の美食を制覇するという奴は?


 まあそれは冗談だ。目標は本気だが。


 それに、俺も丸切り関わっていないこともない。

 龍を討てはしなかったが、ジジイが禁術を使う隙は稼げた。

 それに、その内龍と戦うことになりそうな予感がしているし、だったら縁起の良い名前は好都合か。


 何よりも、本当の子供みたいに不安そうな視線を向けてこられると、断る術もないし。


「良いぞ。面白い名だ」

「別に面白さは狙っていないわよ?」

「決まった様だな」


 遂に書類は全て埋まり、マークセントへ申請書を渡して俺達は晴れてパーティを結成した。


 名前程の活躍が出来るかは未定だが、ジジイと同じ環境というのは、これから最強を目指していくにあたり悪くはないだろう。


 さて、帰ろうかと腰を上げたところで待ったが掛かる。


「待ちなさいよ。まだ私の冒険者登録が済んでいないわ」

「え?必要あるのか?」


 意味がない様に感じ、少し戸惑った。


「必要はないわ。ただ、お祖父様方と…」

「はあ…真似がしたかったんだな…まあ、いい。腹も空いたことだし、さっさと済ませよう」

「さっき食べたばかりじゃない…」


 街に一泊し、今は午前中の半ば。

 確かに朝食が腹に残っている感覚はあるが、食える時に食うのが俺の信条なのだ。

 昨日まで四日もまともな飯を食えていなかったしな。


 これにて、ギルドでの用は今度こそ終わった。

















「おお…そうか、そうか。未来の八大列強のスタート地点にこの『フラクタル』の街を選んでくれたか」


 夜。昨日と同じく貴族邸にて夕食を頂いていると、フラクタル子爵が嬉しそうに伝えてきた。


 この国の名前はアビス首長国連邦。

 何人もの首長が共同で運営している国だ。

 共同といってもトップは一人で、それは何年かに一度首長から選ばれるといった制度。


 つまりここは、アビス首長国連邦フラクタル子爵領領都というわけだな。


「はい。子爵様からそう言っていただけると、早くなれそうです」

「いや、そこは言われなくても早くなれよ」

「うるさいわね!こっちは大人の会話をしているのよ!子供は黙って食べてなさい!」


 どっちが子供か。

 まあ確かに俺は会話よりも食気だが。


「はっはっはっ。仲が良いことは連携にも繋がると聞く。これは本当に良いパーティとなるだろうな」


 子爵の耳は腐っているのか?

 まあ、()()大人だから余計なことは言わんが。


「子爵様。話は変わりますが、エイミルさんはもう?」

「うむ。師団長殿は軍を解散させた後、直ぐに出立された。

 その師団長殿から伝言があるのだが、良いかな?」

「私…いえ、蚕にですね?」


 そういえば見なくなったな。

 もう旅立ったのか。軍人はお偉方になっても大変なんだな。


「いや、両方だ。話そう。

 カイコ殿、並びにアンジェリカ殿。此度の助力感謝申し上げる。急な事件により軍内は大忙しとなってしまい、お二人に別れを伝えず出立する運びとなったことを先ず謝罪したい。

 そんな英雄である御二方に、図々しくもお願いが一つ。

 良ければ…いや、是非とも首都に顔を出して欲しい。その時は街の兵士に私の名を。

 そこで、正式な礼を。

 だ、そうな」

「私は…何も…」


 アンジェリカ、それは違う。

 アンジェリカが魔法で弱らせてくれていたから、俺が容易く倒せたのだ。

 それに、そのお陰で軍の士気も保てて結果として死傷者が減った。

 その結果が一番大切で、エイミルもそう言っていた。


 ま。調子に乗られたら面倒だから一々フォローなんかしないがな。


「子爵。俺達は行くかどうかわからんぞ?」

「そうか…それは残念だ。首都には様々な部族の様々な料理があるのだがな。いや、仕方ないこと。我々凡人には八大列強の行き先を決めることなどかなわんのだ」

「アンジェリカ。いつ首都へ向かう?明日か?明後日か?今か?」


 そういうことは最初に言え。


「…今のわけないでしょ?はあ…いいわ。私は何もしてないけど、功労者の貴方は労われて当然よ。

 まあ…明日は無理としても、明後日かしら?」

「よし。そうと決まれば食うか」

「…貴方。食べてばかりね…」


 強い肉体の基本だからな。

 さて。次なる目的地も決まったことだし、後は食べ残さないように気をつけるだけだ。


















「襲われているな」

「ええ。その様ね」


 出発の日はすぐにやって来た。

 出立の日が昨日ではなく今日である理由。それは単純なものだった。

 アンジェリカの魔力回復。

 それを優先した結果が今日の出立となり、現在のトラブルは無関係だと思う。


「助けたら、今日は野宿だな」

「何馬鹿なことを言っているの。人命に勝るものはないわ。行くわよ」

「はあ…本当かね?俺には他人の命より、美味い飯の方が……後衛が先に行くなよ…」


 話は最後まで聞け。

 ま、そんな事を言っている俺も同じ意見だ。

 ただ今のうちから釘を刺しておかないと、何でもかんでも人助けされたら困るからな。


 俺達の目標は人助けではなく強くなることだからな。忘れるなよ?



 襲われているのは一台の馬車。

 ここは首都へ向かう大きめの街道だが、丁度死角の多い森の中なので襲うには最適でもある。

 襲っているのは、人だ。

 恐らく野盗の類。

 全員服装が違うし、武器も違う。


「『やめなさいっ!』」


 アンジェリカと馬車までの距離は凡そ50m。

 拡声の魔法を使った声は十分に届いた。


 馬車に群がっていた野盗達の動きが止まり、アンジェリカにその視線は集まる。


「誰だ女!?邪魔するとただじゃおかねーぞ!?」

「若い女だっ!頭っ!俺、アイツ欲しい!」

「抜け駆けすんな!頭!俺も!俺も!」


 おっ。アンジェリカ。お前人気者だな。


「うっせーぞお前ら!大体フード被ってちゃあ顔なんてわかんねーだろうが!あんなフードで顔を隠しているような奴は大抵が不細工って決まってんだよ!勝手に取り合ってろ!先ずは馬車が優先だ!」


 その言葉の後、俺でもゾッとするような気配を醸し出し、アンジェリカの魔力が高まっていく。


「『この薄汚い下郎が!(アビュソリュートゼロ)』」


 いや、気持ち入りすぎだろ。


 俺の知らない魔法は、下郎もとい野盗供を凍らせた。


 やはりアンジェリカは優秀だ。

 そして、怒らせてはならない。必ず……

マークセント(172/60ギルドマスター、白髪混じり、鹿のような角が特徴の鹿耳族、51歳)

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