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悪魔の落とし子  作者: ふたりぼっち
山籠りの老師に拾われた子、人里に現る
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3-4






「流石拳王様…と思えばいいのかしら…」


家族を殺された恨み。それがどれ程の怒りなのか、俺には到底知り得ないものだ。

ジジイは確かに龍と相討った。

しかし、ジジイの直接の死因は禁術を行使したことにある。

それはある意味で自殺と何ら変わらないものでもあるが、武の道を進む俺からすれば『流石師匠』という気持ちもある。

家族としては『何故、一人で逝ったんだ』という思いも勿論あるがな。


しかし、どちらにせよ。

ジジイは龍に殺されたわけではなく、選んだ道が偶々それだったというもの。

それは結果として俺を守るものであり大変遺憾ではあるが、ジジイの死に際は満足していたようにも思うから複雑なのは間違いない。

ジジイは武人として逝けたんだ。

訳もわからずに街ごと消されたわけではない。


だから、その気持ちが理解できるなどとは言えん。


「聞いての通り、仇であるあの龍はもういない。

これからどうするかはお前の自由だが、仇のことは忘れて生きてくれ」


陳腐な台詞。

だが、他に伝えられることもない。


勿論俺が言わなければならない訳でもないが、良くも悪くも俺とアンジェリカの境遇は似ている。同じ八大列強の孫として生きて、同じ時期に祖父を亡くした。


共感できることも多々あるので無碍にはしづらいのだ。


「………」

「………」


お互い無言の時間(とき)を過ごす。

この部屋は来賓室ということもあり無駄に広く豪華である。

その広い室内には俺達二人しか居らず、豪華という部分が悪さしてか不気味な静かさが漂っていた。


「…決めたわ」

「そうか。わかってくれたか」


王女もそうだったが、アンジェリカも小さく、子供にしか見えないんだよな。

比較対象が長いことジジイしか居らず、そのジジイは今の俺と変わらない体格をしていた。

だから、これまでに会った殆どの女が子供に見えていたのだ。

例外としてはアマンダとニーナの二人だが、アマンダは身長が高かったわけではない。ある一部分が他の女よりも大きく、そこに男女の違いを感じ取っていたに過ぎない。


言い訳ではないが、別に女としてアマンダを見ていたわけではない。

アマンダは女よりも仲間。仲間よりも恩人の一人。

そんな感じだ。

他の二人と何ら変わらない。いや、もう一人の特例であるニーナは母という感じがしたから、それも子供ではなく大人として見ていた。まあそれも実際には母親がいないから本当のところなんて俺にもわからないがな。


だからか、アンジェリカも危なっかしく見えて、理解してくれたことを心から安堵した。


筈だった。


「貴方の仲間になってあげる」

「…話、聞いていたか?」

「お祖父様方と一緒よ。でも、一つ違うのは、私達は龍にもきっと負けないわ!」


全然話を聞いていない。


「お前は『アンジェリカ。アンジーでもいいわよ』…アンジェリカは龍を知らないからそんなことが言えるんだ。

それに、何の意味がある?

その龍は居ない。仮に居たとして、俺達が戦う……」

「気付いたようね?そうよ。今の私にその『義務』はないわ。でも、貴方には既に発生している。

『もし、現在(いま)龍が現れたら』貴方は間違いなく召集されるでしょうね。

その時に、私が居たら邪魔かしら?勿論、私は若いわ。その時には今よりも遥かに強くなっているでしょうね」

「………」


確かに一理ある。

アンジェリカが使っていた魔法を俺は知らないし、その時に今よりもあの魔法や俺が知らない別の魔法を使いこなせるとしたら。

確かに戦力になる。

だが、しかしなぁ……


「それまで子守りをしろと?」


しまった!つい心の声が……


「くっ…た、確かに!確かに今の私が貴方よりも弱いのは認める!でもっ!私は魔法使い。十年後には貴方を越えてみせる!」


あっ。そっちの意味か。

俺は見た目的に子守り感が拭えないから、それを心配していたのだが。


この女は勘違いをしている。

今でも俺の力になれるということを。


ま、一々言わんが。


「私は魔法使い。強い前衛が欲しいの。ね?お願い!」

「うーん」

「何でも言うことを聞くからっ!」


うーん。

そう言われてもなぁ……

ま、モノは試しか。


「何でも?」

「ごくっ……な、何でも…で、でも!えっ、えっちなことは…その……まだ早いというか……ゴニョゴニョ……」


やっぱりエッチな魔導師だったか。

まぁ、それはいい。本人の自由だからな。

だから、俺も自由にさせて貰おう。


「俺には目標が二つある」

「な、なによ?」

「一つは最強になること。もう一つは・・・・」


仕方ない。モノは試し。俺はアンジェリカと仲間になることを承諾した。
















「美味い!やはり飯は人里に限るなっ!アンジェリカもそう思うだろう?」


ここは街の料理屋。貴族邸の飯も美味かったが、街の飯も捨てたものではなかった。


「本当にこれが目標だったのね……」

「ん?当たり前だろう?アンジェリカも幼い頃の鍛錬の日々では辛い思いをしてきたんじゃないのか?」

「したけど…でも、貴方とは違うわ。方向性がね」


方向性?


「周りの子供達が遊んでいる時に、私は魔法のお勉強。子供の時はそれが辛かったわ」

「ふーん」


すまん。全く共感出来んわ。


「貴方は特殊過ぎるのよ…確かにお祖父様が言っていたわ。拳王様は…変わり者だったと。

だから、その育ちは普通じゃないのよ?」

「そう言われてもな。俺にとってはそれが普通(あたりまえ)だったから」

「ま、良いわ。貴方の目標というか、目的の一つは理解出来たし何の問題もない。

これで晴れて私達はパーティメンバーね?」


ジジイはやはり変わり者だったのか…薄々そうじゃないかとは思っていたのだが…どうやらその考えは正しかったようだ。


「そこなんだが」

「なに?」

「パーティメンバーって、名乗ればそれで決まりなのか?」


ジジイが過去龍を倒す為にパーティを組んだことは知っている。

それは知っているが、パーティがどういうものなのかは知らない。

ただ共闘するだけならばそこまで大層な名前など要らないわけだが。


「そうね。説明するわ。先ずパーティとは、二つのやり方があるの。

初めにお祖父様達が龍を討伐した時の方を説明するわね。

その時に結成されたパーティは謂わば人類の希望。そこに制度も形式もないの。あるのは世間から認められているという認識だけ。所謂『そう名乗っただけ』よ」

「そうか。じゃあ、今の俺たちは世間に認められてはいないがそれと同じ、という認識でいいか?」


それなら話が早い。

面倒な手続きも要らないようだしな。


「現時点では、ね。でも、私はもう一つの方のパーティを組みたいの」

「もう一つ?」

「ええ。貴方に馴染みのある冒険者ギルドや商人ギルド。その他にも騎士や兵士、傭兵団なんかも利用している、制度がきちんと整備されているパーティよ」


冒険者にパーティが存在していることくらいは知っていたが、それにはちゃんと制度があったんだな。

パーティを組んだことがないから知らなかったぞ。


「その制度の中には取り決めもちゃんとあるの。例えば『私はこれこれを担当して、この配分で報酬を受け取る』というようなもの。

その取り決めを破れば、勿論それぞれにペナルティーが与えられるの。だから重いペナルティーの事項を簡単には破れないようになっていて、他のパーティメンバーを守っているとも言えるわね。

例えば、前衛である蚕が強敵の前から私を置いて逃げるとか。

そうなれば近接戦の不得手な魔法使いは簡単に死ぬわ。

そういったものを重いペナルティーで破りづらくしているの」

「なるほど」

「これだけだと強者が損をするように感じるわよね?でも、安心して。この制度は中立のものだから」


確かに。それではまるで子守りそのもの。

それも強制的な。


「パーティではリーダーを決めて、過半数未満の意見はリーダーに従うことになっているの。

つまり、私と蚕が組めば、貴方が全てを決められることになるわね。

後、報酬の配分もそう。

その人の能力や役割により配分が決まるわ。現時点では、八大列強であることを加味して『8:2』といったところかしら。ここでは消耗品の扱いも含まれるから、前衛である貴方がさらに多く貰えるという評価よ。勿論、私が八大列強になった時にはその配分も変わるわ。

どうかしら?こっちの方が貴方に利があるように思うのだけど?」


完全に俺の為の制度だな。

寧ろこの制度は、強者が弱者から搾取し易いように思う。

だから、ちゃんと信頼のおける者を見極めなければならない。


「俺は構わん。だが、何故だ?俺が良いようにアンジェリカを使うとは思わないのか?」

「こっちが頼んだことだもの。誠意は必要よ。

それに、私はお祖父様の軌跡を追いかけたいの。拳王様と叡智の魔導師。この二人は離れていてもパーティを解消することが終ぞなかったわ。

それには…蚕が……あ、貴方が必要なのっ!」

「そ、そうか…」


何で恥ずかしがっているんだ?

その謎は置いておくとして。


漸く理解出来た気がする。


この女、アンジェリカは、その魔導師に追いつくことが夢であり目標なのだ。


それならば理解も共感も出来る。


俺にも最強という頂きに辿り着きたいという目標があるからな。


「これから、宜しくな?」

「任せて。貴方の非常識は私が矯正するわ」


いや、そこは頼んでいない。


「それで?どうすればいい?」

「貴方、冒険者でしょう?私は違うけど、冒険者がリーダーなら冒険者ギルドで手続きを済ませられるはずよ」


と、いうわけで。

テーブルに残った飯を平らげた後、俺達は早速冒険者ギルドへ向かうことになった。

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