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悪魔の落とし子  作者: ふたりぼっち
山籠りの老師に拾われた子、人里に現る
32/117

2-11

 






 〜少し前〜


「して。話とはなんだ?」


 謁見の間にて、ミシェットガルト王へと言葉を伝える。


「帝国に釘をさそうと考えている。その為にミシェットガルト王にはその場を用意して欲しいという話だ」

「それは…我が国に肩入れしてくれるということか?」

「少し違う。確かに肩入れではあるが、今後もずっとこの国にいるつもりはないし、その保証もない。

 だから、今一度のこと。

 何。弟子であるスバルフスキー王子が困っているからな。ここで師匠である俺が一肌脱いでも何らおかしくはあるまい?」


 無論、スバルだけの為ではないが、ここで必要なのは建前とこの国にも釘を刺すこと。

 建前とは勿論スバル(弟子)のことで、もう一つはいつでも俺が助けてくれるなんて勘違いをさせない為のもの。


「…暫し猶予を。今晩にでも返答する故、それで良いか?」

「ああ。任せる」


 話は終わり、俺は謁見の間を後にした。

 入ってきた時と同じ扉が閉まると同時、室内にいる貴族達の騒がしい声が扉から漏れ出てきた。


 これから忙しくなるのだろう。

 国政という大きな予定を狂わせてしまったのだから。

 ま。その狂い方が悪い方ではないのでこっちは気にしていないがな。


 頑張れとだけ、心の中から応援しておこう。














 〜時は少し戻り帝国副都〜


「立場上、こういうことは困るのだが…」


 如何にも高そうな服に身を包んだ青年が、同じテーブルを囲む少年へと苦言を呈した。


「お忙しい中、お時間を頂きありがとうございます。フレームベルク第六皇子。此度の密会は、帝国と王国、両国にとって大切な会談となることをお約束します」


 テーブルを囲む少年は、ミシェットガルト王国第二王子であるスバルフスキーだ。


「失礼ながら、帝国で良識のある方は貴方だけです。我々のお話を聞いて下されば、両国の未来は明るいものになるとお約束します」

「約束約束というが…まずは話を聞いてからだ」

「はい。明日の会談ですが、そこで・・・」


 王子から聞かされた話は帝国にとって寝耳に水であり、皇子は酷く驚いたものの、その後の話は頷けるものだったようで、二人の思惑は重なっていく。


「この大陸では、人は脆弱である。その人が大陸を統一し、覇者として君臨するなど、夢のまた夢。

 その無謀を止められるのであれば、是非協力させて欲しい」

「はい。次期皇帝選定の時には、必ず助力いたします。ですので・・・」

「分かっている。今回の件が上手く運べば、任せてもらおう」


 第六皇子であるフレームベルクは悩んでいた。

 帝国は侵略戦争により肥大化してきたが、それには限界がある。

 このまま国が勢いのままに勢力を拡大したところで、内部分裂か内部崩壊を起こすと考えていた。


 そもそも。

 この大陸には強大な魔物が数多く存在し、土地もなだらかなものだけではなく山脈や湿地帯も存在している。

 そんな大陸を統一することに意味を見出せない上に、そもそもそれは不可能に近いとさえ考えている。


 そんなフレームベルク皇子は、このまま侵略戦争を続けることを良しとは考えない珍しい皇族。


 ミシェットガルト王家が帝国内へ放っていた間諜により、フレームベルク皇子のそんな考えを知ったスバルフスキー王子が今回の会合をセッティングして今に至ったのだ。


「では、明日」

「うむ」


 この会合は秘密のもの。

 頭の良い者達の会話は短く、この二人も例に漏れなかった。

 短い話し合いは終わり、二人は別々の出口からひっそりと出て行くのであった。


















 〜時は戻り〜


「所々改修しているな」


 時は満ち、遂に目的の場所へとやって来た。

 副都にある城はミシェットガルト王国のモノとは違い質実剛健な見た目をしていた。

 侵略戦争時に壊した城を直しているのか、はたまた足りない防御力を補おうとしているのか。

 そこは定かではないが、兎に角工事をしていた。


「先の大戦の被害では、街の再建を優先したのでしょう。恐らく国民感情のコントロールを目的としているのでしょうが、そのような薄っぺらい化けの皮はすぐさま国民に剥がされることでしょう」

「そ、そうか」


 対帝国となると、スバルの口撃が止まない。

 まあそれだけ並々ならぬモノがあるのだから俺も協力しているのだが…若干引くほどではある。


 ま、俺みたいに正直な奴からしたら、自分達の住む家よりも街の再建を優先してくれたなら侵略者であっても内心は良くなるよな。

 前任の支配者達の行いにもよるが。


 帝国が元この国を落としたのが五年前。当時の傷は癒え、帝国が次に挙兵する準備は整ったといえる。

 戦争には兵以外にも整えなければならないものが山程あるが、ここの統治も上手くいっているようだし、本当にいつまた戦争を始めてもおかしくないと思う。


「行きましょう」


 馬車から降り、城の入場口からの景色に想いを馳せていた俺の思考をスバルが止める。

 ここには、観光に来たのではない。


「カイコ様、行きましょう?」


 この王女を守る手助けに来たのだ。

 見た目は可憐で、中身は残念な。


「そうだな。行こうか」


 この城の印象は、城というより堅牢な牢屋。

 その入り口には、入ったモノを決して外には出さない。そんな雰囲気が漂っていた。


















「カイコ様…(わたくし)、不安ですわ…」


 荘厳な扉の前。

 騎士の姿はあるが、他に人も見当たらない。

 そんな中で、王女が心にもなさそうなセリフを言ってきた。


「安心しろ。何かあれば飛び込むから」

「全然心配していなさそうなのですわっ!?」

「それだけ元気があれば大丈夫だ」


 扉の先は謁見の間になっているらしい。

 らしいというのも、謁見の間には呼ばれた者しか入れないからだ。

 つまり、俺とニーナ達はここで見守るしか出来ない。


「行ってまいります」

「ああ。頑張れ」


 俺達の雑音が耳に入らない程度には、スバルは集中している。

 俺にはそれが頼もしくもあり、少し肩の力を抜いて欲しいとも感じた。

 故に、簡単な言葉で見送りとした。


 二人が入室すると、重そうな扉は再び閉ざされた。

 長く広い廊下には、扉が閉まる音が長く響いていた。










 〜謁見の間にて〜


「ミシェットガルト王国から、スバルフスキー第二王子、ハーベストセンティア第一王女のご入室です」


 貴族の説明の後、入り口の扉は開かれ、王子王女の両名は謁見の間を進んで歩いていく。

 定位置に止まると、王国礼儀に倣った礼を取り、王子から挨拶を始めた。


「うむ。良くぞ参られた。長旅の疲れは取れたであろうか?」


 挨拶に応えたのは玉座に座る皇帝その人。


「ありがとうございます。はい。帝国の計らいにより、皆身体を壊すことなく健康に今日を迎えられましたこと、厚くお礼申し上げます」

「うむ。若いのに良くできた王子である。王国の将来は安泰であるな。はっはっはっ」


 心にも無いことを。

 その言葉を拳を握ることで耐え、話は移る。


「王女よ。どうだ?帝国の空気は?」

「はい。大変規律の取れた素晴らしい国内ですわ」

「そうか、そうか」


 王女の答えは嫌味だった。しかし、それは通じない。元より皇帝に二人と会話する気などない為だ。


「話は積もるが、次があるのでな。済まないが昼食まで暫し待たれよ」

「はい。失礼します」


 話は何事もなく終わる。

 そもそも会談でも何でもない。あくまでも形式。

 これを行なっている者達に意味などないのである。

 あるのは建前。国としての形式のみである。


 そんな中、二人に熱い視線を送る者達がいた。


 一人は昨日の密会の相手、第六皇子であるフレームベルクがスバルフスキーの一挙手一投足を逃すまいと視線を集中させていた。

 もう一人は皇帝の一番側に立つ初老の男性。

 その男は自身の子よりも若いであろう王女に対して、舐めるような視線を送っていた。


 これは想定内の視線であったが、もう一つ想定外の視線もあったことは誰も気付いていない。


 そんな中、二人はゆっくりと退室していくのであった。













 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


「怖かったのですわぁ」


 俺はお前が怖い。


「そうか」

「カイコ…もう少し構ってあげたら?」

「そう思うならユミフィが構ってやれよ」


 ここは昼食会までの待ち時間に王国使者団へ与えられた控室。

 そこでは既にいつも通りとなる会話が繰り広げられていた。


 ガチャ


 そんな中、急に扉が開く。


「失礼する。おお…ここにいたか」


 入ってきたのは二十代後半と思われる男。武器も所持しておらず、見るからに弱そうだ。故に、俺だけは臨戦体制を取らなかった。


 男はスタスタと王女がいる場所へ迷いなく向かう。


「何者っ!?」「姫様から離れなさいっ!」


 ユミフィが王女の前に立ち塞がり、アマンダは離れた位置から魔法の用意をする。

 ニーナは王女に寄り添う形。


 うん。しっかり動けているな。これなら大抵の想定外は問題なさそうだ。


 俺は一人納得していた。


「チェンバリン皇太子?何用でしょう?しかし、無礼ではないですか?」


 スバルはこの男が何者か知っているようだ。


「誰だ?ああ…王国の王子か。構わん。無礼は許してやるから下がれ」


 凄い…

 俺は感動していた。


「本で読んだ通りの横柄さだ」


 俺が学んだ書物には、王侯貴族は横柄な態度とあった。

 これまでにあった王侯貴族は残念ながら(?)普通の人と大差ないものだったから、遂に本の中の人に会えた感動があったのだ。

登場人物紹介


フレームベルク・フォン・ラテドニア(180/73第六皇子、金髪、22歳)

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