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悪魔の落とし子  作者: ふたりぼっち
始まりの時
3/130

Prologue Ⅲ

本日五話投稿3/5

 





 ドォォンッ


 200m程先にある岩山が、轟音と共に崩れ落ちる。

 音に遅れること暫し、周囲を砂煙が包み込んだ。


「『風よ』」


 たった一言。

 それだけで辺りに強風が吹き荒れ、砂塵を吹き飛ばし視界が明瞭になる。

『魔法』とはやはり便利なものだな。


「ジジイの言う通り、俺には魔法の適性がないのだろう」


 明瞭となった視界の先には、元のサイズから半分の大きさになった岩山の姿があった。

 岩山の元の高さは20m程だったが、その全てを吹き飛ばすことは出来なかった。


 全力の魔法で、だ。


 先程使った風の魔法とは違い、苦手な詠唱を省略することなく紡いだ。

 集められるだけの魔力を、全身と周囲から余すことなく掻き集めた。

 結果。

 それでも、この程度だった。


「ジジイは門外漢だからと魔法は教えてくれなかったが、その目で見てきた魔法の効果は教えてくれた」


 過去にジジイが龍退治の為に組んだ臨時パーティメンバーの魔法使い。

 その時に魔法使いが使った魔法の名前までは覚えていなかったが、威力はしっかりと記憶していたらしい。


 なんでもそれは火の魔法で

 鉄よりも硬いと言われている龍の鱗を溶かし、そこをジジイ含めた他のパーティメンバーが攻撃したことにより討伐出来たのだとか。

 それまでは鱗に阻まれて、ジジイの全力の攻撃すらノーダメージだったと。


 ジジイのことはいいな。話を戻そう。


 その魔法の威力は凄まじく、直撃した龍の鱗だけでなく、周囲の岩や地面すら魔法の余波で溶かしてしまったとか。


 ちなみに(りゅう)(ドラゴン)とは違うらしい。


 それはそうだろう。

 ドラゴンと戦うには、軍隊規模の戦力が必要らしいからな。


 その辺にいるジジイ(当時は若かったらしいが)とその仲間だけで相手が出来るはずもない。


「直撃した岩は吹き飛んだが、溶けた形跡はない…か」


 そもそも使っている魔法が違うのだから、同じ結果になるとも思えないが。


「ジジイは『魔法など不要』なんて言っていたが、いずれ街に出た時に恥ずかしくない程度には鍛えておかないとな」


 ジジイにはジジイのやり方がある。

 俺には俺のやり方が……


「言い訳だな…」


 何せ、このままではジジイ(年寄り)にすら勝てるビジョンが浮かばない。

 同じ様に格闘だけでは勝てない。

 ならば、俺の進む道は格闘と魔法。それから剣技だ。


 一つで勝てないなら、より多くの手数で勝負するしかない。


「目標は定まっているが…いかんせん、練習相手がな」


 この辺りの魔物では、俺の拙い魔法や剣技ですら練習相手にもならない。

 そう。ジジイ以外弱いのだ。


「無いものねだり…か」


 俺は無駄となる思考をやめて、今日の夕食を探す為に歩き出す。


「街に出て、女子供に負けたらどうしようか…」


 このところ、この様な不安が常に付き纏っていた。
















「…まだ早い」



 またか。





「まだその時ではないのう」



 またか。





「今日は日が悪いのう」



 またか。





「今日は『いい加減にしろっ!』む…」


 何度も聞いた同じ断り文句。剛を煮やした俺は、ジジイの言葉を待つことなく怒鳴った。


「ジジイっ!街に出ろって言ったのはジジイ自身だろ!?一体いつになったら俺は街に行けるんだよ!?」


 そう。俺は街に…人の住まう世界へと向かう。

 それはもう何年も前から決まっていたことで、それを決めたのは何を隠そうこのジジイなのだ。


「…わかっておるわい。しかし、今一度待て」

「…またはぐらかしてんじゃねーだろうな?」


 このジジイは歳のせいか、言っていることが二転三転することがある。

『今日は魚の気分じゃ』そこで魚を持って帰ると、『やっぱり山菜かのう』とか。


 まあ、そのくらいは許す。俺の心は海よりも広く、深いのだから。海を見たことはないが。


「準備が色々とあるでのう。あと二月(ふたつき)程で済む」

「…二月だな?わかった」


 何年も待ったのだ。高々二ヶ月程度、何のことはない。

 それに、俺も街に出てまで恥をかきたくはない。準備は万全でお願いしたいところだ。


 こうしてあと二ヶ月を、いつも通り学習と修行の期間としたのだった。






 後になって思う。

 この時、感情のままにここから飛び出さなくて良かったと。

 最期に、たった二人きりの家族へ、出来ることが出来たと。













「なに?街に出てまですることが、騎士になることじゃと?」


 あれから二ヶ月近くの時が流れた。

 ジジイの準備とやらは何かわからないままだが、なんであれ二ヶ月経てば俺は街へ向かう。

 そういう約束だし、俺もこれ以上は待てない。

 その理由の一つが、騎士学校への入学にあった。


「そうだ。ジジイ曰く、俺には魔法の才がない。格闘も未だ年寄りにすら勝てない。じゃあ剣技を磨くしかないからな」


 一応剣の型はジジイから習っていた。

 流石年寄りというか、ジジイの戦闘知識の幅は広いと、身内ながらに思う。


「……」

「…なんだよ?」


 沈黙はやめろ。


「やめておけ。八大列強を目指すには無駄が多すぎるわい」

「………」


 今度はこちらが沈黙する番になってしまう。

 答えづらい……


「…あのさ?その八大列強なんだけど…」

「なんじゃ?」

「……ジジイにすら未だに勝てなくて、俺には無理かなって。あ。別に絶対諦めるとかじゃないぞ?

 ただ、現実を見た上で決めたいし、やっぱり人の中で生きるには職も必要だろう?」


 俺の知識はジジイ由来のものと、そのジジイが持っていた無駄に多い書物から成り立っている。

 そこには食のことから、夜の営みまで。知りたくなかった知識さえも得ることが出来た。


 なんだよNTR(ネトラレ)って……


 閑話休題


 それらの知識もあり、出した答えは自分でも少し日和っていると思う。

 ジジイから見たらどうだろう?怒られるかもしれないと考え、口調が少し幼かった頃へ戻ってしまった。


「…蚕よ」

「…ん」

「お主の限界はまだまだ先にあると、儂は思うておる」


 それはずっと聞かされてきた。

 でも……


「ずっとジジイに勝ててない」


 勝てないだけではない。

 ジジイとの差が詰まっているようにすら感じられないのだ。


「それは…」

「言ってたよな?『儂は日に日に衰えておる』って。それでも差が詰まってないんだぜ?

 一度でもあったか?ジジイが追い込まれたことが」

「それは…(毎回だとは言えん…)」


 ダンマリか。

 それが答えなんだろうな。

 わかってるさ。自分に才能がないことなんて。

 だから、ジジイと同じ冒険者や探索者、討伐者といった仕事を選ばなかったんだ。

 ジジイですら仲間が必要だったのに、俺がやっても足手纏いにしかならないからな。


 冒険者などの仕事は命懸け。

 勿論、騎士も命懸けではあるが、それは戦乱の世であればの話。

 俺が騎士になれたら、同期には迷惑を掛けてしまうだろうが、それでも命までは取られない。

 程度にもよるが、迷惑であれば後で取り返せるかもしれない。


 勿論、騎士と冒険者は一長一短の仕事だ。

 騎士は規律を重んじていて人間関係の理不尽に耐えなくてはならないらしいが、冒険者はその辺曖昧なようだ。

 逆に騎士は有事の際以外は国に守られる立場でもあるが、冒険者は常に命懸けで自己責任。


 強ければ冒険者の方が収入は多いが、弱くても騎士ならば最低限の収入は保障されている。


 冒険者は無作法で馬鹿でもなれるが、騎士になるには礼節と学が必要。


 そういった事情から、弱くともジジイの理不尽な指導に耐えてきた俺なら、騎士の方が向いていると考えたのだ。


 そんなことを考えていると、漸くジジイの重い口が開いた。


「蚕。これなんじゃが」


 何やらゴソゴソとしていたジジイが口を開いたかと思えば、その手には見たことのない本が一冊。

 どうやらそれを渡したいようだが、本を握る手には力が籠っていそうだ。


 渡したいのか。渡したくないのか。


 そんなことを考えていたその瞬間。


 ドォォォォォンッ


「なんだ!?」


 耳を劈く程の轟音と共に、激しい揺れに襲われたのであった。

漸く…旅立てる…

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