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悪魔の落とし子  作者: ふたりぼっち
山籠りの老師に拾われた子、人里に現る
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2-7

 





「…また来たのか」


 城に泊まり始めて四日目。

 給金は毎日支払われているし、飯は美味くて食べ放題。弟子は真面目で素直だし、言うことはない。


 と、言いたいが。


 2点ほど、窮屈な思いをしている。

 その一つが目の前にいる。


「軽食とお茶を用意させましたわ。さっ。お茶と私達の仲が冷める前に、いただきませんこと?」

「…よくわからんが、悪かったと謝っただろう?」

「さて。何の話でしょう?」


 スバルは王子というだけあって、子供ながらに多忙だ。

 俺の指導時間は細かく決められており、それ以外の時間は自由時間として己の鍛錬や学習に充てている。


 今は学習の時間。


 読んでいた本を閉じて、目の前のカップを口に運んだ。


「お兄様は如何でしょうか?何分運動は昔から苦手でして、カイコ様もヤキモキとしているのではありませんこと?」

「スバルを貶しても依頼以外のことはやらないぞ?強くなりたいのなら自分で考えて動くんだな」

「少なくともっ!私の方がお兄様より才はありますっ!」


 この王女は……

 最初求婚してきた時には頭を疑ったが、今はその疑いはなく、それは確信へと変わっている。


「力を手にして、何にする?」

「それは……言えませんわ」

「話にならんな」


 この二、三日ずっと同じ。

 俺が食に対して並々ならぬ情熱を抱いていることに気付いてから、時を見てはこうし王女専属の侍女に軽食を持って来させていた。


 そして会話も似たり寄ったり。

 何がしたいのだか。


「うん。美味い」

「そうでしょう!?(わたくし)の淹れたお紅茶は社交界でも好評ですのよ!」

「淹れた者とは違い、繊細な味わいだ」


 用意したのは侍女だが、淹れたのはこの王女。

 食べ物と飲み物に罪はないからな。しっかりと味わっていただくとしよう。


「あらあら。カイコ様も満更ではないご様子」

「ふん。確かに。我々正統な王族とは違い、実によく似合っている二人だ」

「ユーフォルニア。やめなさいと何度も言ったはず。失礼を働くのであれば出て行きなさい」


 うん。三人とも出ていって欲しい。


 優雅なティータイムにやって来たのは王妃と第一王子。

 この機会にと城の書物を読み漁っていたのだが、邪魔ばかり入る。

 城にお邪魔しているのは俺の方だから強く言えないところが玉に瑕か。


「八大列強などと持て囃されているが、俺は一庶民だ。王女を貰うには荷が重い」

「またその様な心にも無いことを…」

「センティア。頑張りなさい。では、カイコ様。お邪魔致しました」


 俺と王女の仲を確認…というよりも、あれは冷やかしか?

 どちらかというと、第一王子の教育に見えたな。


「カイコ様。ご自身のことを庶民と言われましたが、市井の方々はどのような逢瀬(おうせ)をなさるのです?」

「逢瀬…?ああ。でぇとという奴か」

「でーと?」


 何だこの女。俺より発音がいいな…実は知っていて聞いているのではなかろうか?


「ああ。庶民の間では、年頃の異性が二人きりの時間を過ごすことをそう呼ぶらしい。

 らしいというのは、俺にその経験がないからだ」

「まあっ!」 


 アイラとは二人で出掛けたりもしたが、アレにその様な意図はなかった。

 故に、デートではない。

 約一名、レイラだけはデートと言い張っていたがな。


 俺の日常はこうして、ゆっくりと過ぎていった。


















「妹を守る為です」


 俺がスバルの指導を始めてから暫くの時が経った。

 少しずつ結果もついて来て、スバルも本心から俺個人のことを尊敬し始めたのだろう。

 だから、こうして胸の内を開けたのだ。


「そうか」

「えっ!?それだけですかっ!?」

「それだけと言われてもな…スバルの事情だし」


 強くなりたい理由。それは、望まない婚姻を結ばされそうになっている腹違いの妹の為だった。

 俺もこれまでに城の書物で勉強してきて、何となく背後関係もわかってきた。


 ここミシェットガルト王国は海に面していない。

 人が生きていく上で必要な塩分。

 それを得る手段は少なく、他国から高値で買っているのが現状だ。


 その他国のうちの一つラテドニア帝国は、大陸統一を虎視眈々と狙っているらしく、沿岸部の国々を精強な自国の海軍を筆頭として戦で落として回っている。


 最近勢力を伸ばしつつあるそんなラテドニア帝国は、ミシェットガルト王国と国境を面するほどに拡大していた。

 ミシェットガルト王国はラテドニア帝国が落とす前の旧王国から塩を輸入していたが、それはパタリと止まり、王女を差し出すことを貿易再開の条件として出されているのだ。


「このままでは、ミシェットガルト王国は衰退の一途を辿ります。センティアを差し出さねば。

 しかし、それが意味をなさないと私は考えています。

 センティアを差し出したところで、貿易の主権は向こうにあります。つまり、いつでも簡単にひっくり返されるのです。

 大陸を統一しようと躍起になっている帝国のすること。それは火を見るよりも明らか」

「だから、スバルが戦うと?」

「…はい。彼の国に特使として訪ね、謁見の間にて皇帝とその一族を討ち果たすこと。それが私の本懐となります」


 なるほどな。

 この国に武力行使しか残されていないことを王もわかっているから、スバルを止めないのだな。


「そうか」


 聞かされたところで、俺に言えることなど一つもない。


「…止めないのですね。少しは勝算があると」

「いや、全くわからん」

「え…」


 そんな鳩が豆鉄砲を食ったような顔をされても……


「そもそも、前提からわからん。その場に武器を持ち込めるのか、護衛は何人いるのか、その強さは、暗殺対象の数、その者たち個人の力。

 まだまだあるが、わからないことの方が多いのは間違いない」

「それは…そうですが……」

「個人の意見としては、やめておけ。ま。それで止まるのなら、この様なことはしていないのだろうがな」


 スバルに戦いの才能は無い。人の何倍も努力して、初めて人並みになれる程度。

 俺に人並みの才能はわからんから、ここの騎士たちと比べてという話にはなるが。


 故の反対。


 他国といえど相手は同格。

 つまり、それなりの護衛が常にいるはずだ。

 この国よりも軍事に力を入れている国の護衛が、この国の護衛より弱いとは考えづらい。


 現在のスバルは確かに強くなったが、この後どれほど努力を重ねたところで、この城にいる騎士の倍も強くはなれないだろう。

 少なくとも、俺の指導ではな。


「確かに…では。護衛が居ない状況で、対象の目の前に素手でいるとすれば?」

「…具体的だな。そうだな……その状況だけを数ヶ月も訓練すれば、相手の力量がここの騎士程度であっても可能性は出てくる」

「…そう、ですか」


 気の無い返事だ。

 当然だろう。

 仮に皇帝とその状況になれたとして、そしてそれを実行出来たとして。


 次がいる。次代の皇帝がいるので意味を為さない。

 それどころか、火に油を注ぐだけの結果となる。


 戦争に負けた時、王族や皇族の未来は決まっている。

 後顧の憂いを断つ為にも、戦勝国は敗戦国の王族の血を絶やさなくてはならない。


 それにより、未来に流れるはずの多くの血が流れなくなるのだから。


 つまり、どう足掻いても敗戦国の王族は処刑される。


 であるならば、生き残れる選択は取らなければ損となる。

 それが失敗に終わった時、帝国からの印象は悪くなるが、スバルの独断で押し通すだろう。

 仮に通らなくとも、戦争は避けて通れない道。


「やはり、属国は選べないのだな」


 唯一の抜け道。

 戦争になる前に、この国から向こうに対して頭を垂れる。

 属国、或いはそれに近い吸収。


「選べません。近年、帝国の属国となった国が帝国の手により滅ぼされました。

 理由はありましたし、納得の出来るものでしたが、そんなもの……勝者ならばどうにでも出来るっ……」

「なるほどな…」


 城で読んだ歴史書には載っていない出来事。

 近年の出来事を態々本にはしないだろうな。記録には残しているだろうが。


 理由はわかった。


「つまり戦争を吹っかける為に、王女の輿入れを望んだのか」


 王族と多分皇族の婚姻。

 普通にそれは成されるだろうが、問題はその後。


『お前の国の元姫が、皇族を害そうとした』

 もしくは『害した』。


 これが開戦理由。


 向こうで何が起こったかなんて、こちらからは知りようもない。


 実際その時点で王女は軟禁か、或いは暗殺されているかだろう。

 罪をでっち上げられれば、こちらからはどうしようも出来ないからな。


 態々こんな回りくどい事をしなくとも、勝てるのだから戦争を仕掛ければいい。

 俺にもそう考えていた時期はあったが、城の本を読んでしっかりと学んでいた。


 開戦理由がしっかりしていないと、日和見だった周りの国が敵国になってしまうかもしれないからだ。


「違います」

「そ、そうなの、か?」


 おかしいな…本には似た様な歴史を辿った国も書かれていたのに。

蚕は努力家で頭も悪くはないのですが、人の心を未だよく理解できていません。

私も未だによくわかりましぇん・'(*゜▽゜*)'・『ばななぁ』

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