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悪魔の落とし子  作者: ふたりぼっち
山籠りの老師に拾われた子、人里に現る
25/116

2-6

 





「おはようございます!師匠!」


 朝から豪勢な食事を頂いていると、朝から元気な奴が入ってきた。


 ここはゲスト用のダイニングらしく、あり得ないほど広くもないが、十人が一斉に食べても余裕がありそうなくらいには広い。そんな部屋だ。


「おはよう。スバル、日課は終わったようだな?」

「はい!言いつけ通り、走ってきました!」

「よし。飯は食べたか?まだなら一緒にどうだ?」


 日課とは、俺が昨晩出したランニングの課題だ。

 夏でも、冬でも、雨でも、大風でも休むなと厳命した。

 どんなことをするにも、先ずは体力が必要。

 そして体力は裏切らない。

 俺の指導はすでに始まっているのだ。


「…食べないとダメでしょうか?」


 どうやら、俺の提案に不服があるみたいだな。


「ここで食うことを無理強いはしないが、食べるのは絶対だ」


 食べないと動けなくなるからな。

 食べたすぐ後は動きづらいが、そんなものだ。

 それに、ジジイも言っていた。

『よく食べ、よく動くのじゃ。さすれば、それだけで強く、また大きくなれる』

 とな。


 実際、俺はよく食べてよく動いてよく寝て育った。

 それのお陰か、今では八大列強に数えられる程強くなれたし、街を見渡しても俺よりでかい奴は少ない。


 つまり、この方法は結果が出ているのだ。

 だから迷いなく言える。


「食え」


 と。















「し、師匠!こんな事で、本当に強くなれるのですか!?」


 また不服か?


「安心しろ。それで俺は強くなれた」

「っ!?わ、わかりました!」


 わかったのなら、もっと集中しろ。

 見てみろ。

 集中を乱すから水が溢れてしまったぞ?


「溢したな?」

「は、はい…」

「次は倍の量だ」


 現在、スバルは掌を上に向けて両手を広げた状態で立っている。

 掌の上には水が満タンに入ったコップが二つ。

 それを溢したので、コップの数は四つに増えた。

 乗せるのは師匠である俺の役目。

 先ずは簡単な手首付近に乗せてやろう。


 これを溢せばまた二つコップが追加される。


 そんなトレーニングは遂に頭まで使い、スバルがびしょ濡れとなるまで続いたのだった。
















「何やら面白い鍛錬をしていると聞いたぞ?」


 夕飯時。

 昨日は結局会えずじまいだった国王も今日は同席している。

 この場合同席しているのは俺の方だが、俺は俺が中心だから間違っていない。多分。


「どうだろう?俺からすれば当たり前の鍛錬だからな。他人(ひと)が見た時にどう思うのかはわからんよ」


 ここは王族用のダイニング。

 十五人掛けの長方形の長テーブルがあり、一番奥の短辺になっている場所に国王が座り、そのすぐ前の長辺の左右に知らない女と男が座り、その男のすぐ隣にスバルが座っている。

 俺は国王とはかなり離れた対面に座っている。


 男女が分かれて横並びになっているが、名前は知らない。


 どうもこの国の王は子沢山なようで、王族の長ったらしい名前など一々覚えていられないのだ。

 興味がないともいう。


「そんな鍛錬で、スバルフスキーは本当に強くなるのか?」

「長男、それは本人次第としか言えんな」

「ちょ、長男…私にはユーフォルニアという『そうか』……」


 おしゃべりの途中で申し訳ないが、覚える気がないのだ。

 用があればその内覚えるさ。


 スバルが強くなるには本人の努力と強くなりたいという気持ちが大事になってくる。

 そこに対して才能だなんだという奴は、努力や気持ちの足りない奴でしかない。


 もちろん、ある一定までの話ではあるが。


「カイコ様。カイコ様はどれほどお強いのでしょう?(わたくし)、武勇伝をお聞きしたく」

「王妃。俺に武勇伝なんてものはない。山から降りてきたら、いつの間にか八大列強になっていただけだ」

「聞きましたか?スバルフスキー。本当に強き者とは、他人に衒わないということです。

 ユーフォルニアも。カイコ様への無礼な物言いは許しませんことよ」


 衒わないわけではなく、本当にそんな話がないだけなのだが……まあ、良しとしよう。


 どうも体良く長男の教材にされた感じだな。


「カイコ様。(わたくし)からもお一つよろしくて?」

「長女か。答えられることであれば」


 王妃の隣は確か長女だったはず。

 王族は行儀良く年齢順に座っているみたいだから、まず間違いないだろう。


 それにこの女は割と印象に残っているからな。


 俺がこの部屋へ入った時には国王以外の全員が揃っていた。

 そして何故か理由はわからないが、この女は恨みでもあるかの如く俺を睨んできたからな。


 勿論、身に覚えなどない。


 確かスバルと同い年で腹違いの妹だと紹介されたな。

 長男は俺より二個上だ。


 髪型は銀の長い髪を複雑な形で編み込んでいる。

 一度解いたら俺では元通りにすることが出来ないくらいには複雑だ。


 そんな酷くどうでもいいことを考えていると、長女が口を開いた。


「長女ではなく、ハーベストセンティア。またはセンティアとお呼びください」

「気が向いたら、な。それで?なんだ?」


 一々覚えられるかよ。

 弟子の名前すら忘れそうなのに。


 美味い食事の邪魔をされいい加減イライラが溜まってきて、素っ気ない返答になった。


「もし、スバルフスキーお兄様が強くなれなければ、私と婚姻してくださいませ」


 コイツは何を言っているのだ?

 ま。今となっては理解は出来ないが納得は出来る。


 八大列強の看板。

 それをこの国()欲しているという話だろう。


 最初の街ギャリックのギルドマスターから色々と手ほどきを受けておいて正解だったな。


『これからは、様々な国から便宜を図られることになるだろう。思惑としては、その国への肩入れ。

 婚姻などがその最たる手段だ』


 しかし、中々に面白い女だ。

 齢14にして、国の為にその身が差し出されることを既に覚悟しているとはな。それも考える時間もなく即決。


 そして何よりも、この女は確かに綺麗だった。

 王侯貴族の生活水準は高く、身なりが綺麗なだけではなく肌や髪質さえも美しく見える。

 俺の美的センスが正しいかはわからんが、俺には長女も美しく見えた。


 だが、それだけだ。


 美しさで美味い飯は食えんし、作ることもまた出来ない。


 よって、答えは……


「ざん『師匠!待ってください!』…なんだ?」


 断りの前に、弟子に止められる。

 コイツには俺を敬う気持ちがないのだろうか?

 いや、ないのだろうな。


 わかっている。

 スバルが憧れているのは八大列強であって、俺本人じゃないことくらいは。


「センティア!私が強くなるまで待ちなさい!きっと強くなり、センティアを彼の国へ嫁がせなければならない未来など壊してみせるから!」


 ん?話はよくわからんが、このおかずは美味いな。

 山菜のフライをよくわからない皮で包み、これまたよくわからない甘辛いソースがかけられているが非常に合っている。


 おかわりはあるだろうか?


「お兄様。我々は王族。婚姻相手が選べないことは生まれたその時からわかっていますわ。

 例え、相手が仮想敵国であったとしても」

「センティア…」

「お二人ともやめなさい。お客様の前ですよ」


 スバルはまだ手をつけていない。

 どうにかしてもらえないだろうか?

 ここは師匠として弟子に命じてみるか?


「母上…申し訳ありません」


 耳に入ってきたのは話半分だが、スバルは妹想いなのだろうな。

 それよりも……


「スバル。俺にくれ」

「え!?」「うそ…」「なんだと!?」「カイコ様、よくお考えになられてください」「…カイコよ。良いのか?」


 ん?

 おかずの横取りは、もしかしてタブーだったのか?



















 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


「信じられませんわ…私ではなく、お料理をご所望だったなんて……」


 顔合わせも兼ねた晩餐会は終わり、ハーベストセンティア第一王女は後宮にある自室へと戻っていた。


 城には主城と呼ばれる王族以外も入ることの出来る場所と、後宮と呼ばれる現国王の妻子のみが入ることを許された場所がある。

 晩餐会は主城で執り行われた。


「姫。端ないですよ」

「アンナ。良いでしょう?ここは自分の部屋なのだから、好きなことを喋っても」

「姫は自室関係なく端ないですよ」


 アンナと呼ばれた侍女は第一王女専属であり、王女が幼き頃より教育係も勤めてきた忠臣である。

 歳は王女よりも一回り程上である。


 そんな姉のような侍女は、年頃の姫の口から聞きたくはない台詞を聞かされ、細い眉を吊り上げた。


「そんな小言より、聞いてくださいまし!八大…カイコ様は、こともあろうかこの国一番の美少女である私の求婚をお断りになったのよっ!」

「姫。物には順序というものが御座います。差し出がましいようですが、姫は少し豪快が過ぎます」

「『第二王子殿下を見習え』でしょ?もう何度も聞いたわ。

 私はスバルフスキーお兄様のように、軟弱には振る舞えませんことよ」


 第一王女とは腹違いの兄。

 生まれはほんの数日だけ第二王子が先だった。


 そんな二人は陰でよく比較されていることを知っていた。


『王子には、もう少し頼り甲斐を身につけて欲しいものですな』

『王女殿下のお転婆には肝を冷やします』


 この二人は生まれてくる性別を間違えたのかもしれない。

登場人物紹介


ユーフォルニア・ド・ミシェットガルト(175/63第一王子、金髪、17歳)

ハーベストセンティア(158/44第一王女、側室の娘、銀髪、14歳)

アンナ(162/50第一王女専属侍女、伯爵家次女、茶髪、26歳)

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