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アマンダの怒りは物凄いものがあった。
物理的に不可能な魔力差を跳ね返し、俺の髪を少し焦がしたのだ。魔力と闘気という質の違いはあるものの、その結果には少し驚いたものだ。
そこを褒めるが、何故か機嫌は直らなかった。
ま。接し方は元通りになったので、今はそれで良しとしよう。
「ここがこの国で一番栄えている王都『センティア』か」
「はい。と言っても、他の街と変わらず森を切り拓いて造られた街ですが」
ニーナからその補足が入るも、俺には確かにここが王都であると感じるものがあった。
「あの建物は他の街にはないだろう?」
「そうね。確かにその違いはあるわ」
俺の言葉に先程まで口も聞いてくれなかったアマンダが答えてくれる。
「千人くらい住めそうだな」
「はははっ。そんなに住んでないと思うなぁ。王族だけだと十人くらいだって聞いたことがあるもん」
その言葉には、同じく怒っていたユミフィが答えてくれた。
ユミフィの怒りの原因はわからないままだ。
一つ思い当たるのは、ユミフィの胸部が他の二人と比べ動きやすいサイズだと言えることくらいのもの。
まあ。今は機嫌もいいし、過ぎたことは忘れよう。
しかし今回の出来事で一つだけ忘れてはならないことがある。
それは、女には胸部の話がタブーということだ。
「さて。じゃあ行こうか」
「行くって、どこに?他に見て回るような場所はないよ?」
何を言っているんだ?
「目の前にあるだろう?」
「お城ですか?それは…難しいと思います」
「お城に普通の人は入れないわよ?八大列強の強権を使えば、確かに入れると思うわ。でも、カイコはそういうタイプでもないわよね?」
そうなのか……あれだけ大きいのに、一般には開放していないのだな。
城は書物で学んだように白亜の巨城だった。
何に使うのか見当もつかない円錐の塔もここからいくつか確認することもできた。
「そうだな…無理を押し通す気はない」
俺はずっと、ジジイに無理難題を押し付けられてきた。
今思うとそれは全て俺の成長の為だとわかるが、させられた当時は気分の良いものではなかったからな。
「じゃあ良い時間だし、帰ろっ?」
「そうね」「はい。カイコさん、良いでしょうか?」
そんなもの、答えは決まっている。
「ダメだ」
俺は頑なに拒んだ。
「何を言うかと思えば……」
アマンダが呆れている。
「男の人って、そういうの好きだよね」
ユミフィはわかってくれたのか?
「私の料理は口に合わなかったのでしょうか?」
初めてニーナの落ち込む姿を見た。
「それは違う。みんなに俺の旅の目的を話そう」
王都で一番の料理屋。そこでは三人の息を飲む音が聞こえた。
「満足したかしら?」
アマンダは未だ呆れている。
「八大列強って、胃袋も強いんだね…」
ユミフィも呆れていた。
「怪我の治りが早いのは、食事量も影響しているのでしょうか?」
ニーナは考察していた。
「美味い飯、そしてその場所でしか味わえない食。それを食べることが俺の目的なんだ。
ニーナ。それは違うと思うぞ?食べ過ぎは身体に良くないと、古い書物にも書かれていたからな」
食べ過ぎなのは重々承知している。
しかし、抗えないのだ。
こればかりは。
最強になる目標はどこにいったのかって?
それは勿論持っている。
あの巫山戯た龍族をぶちのめさないと、死んでも死にきれないからな。
あいつをぶちのめせたら、俺が最強だ。一石二鳥。
しかし、それは他人に話すものでもないという持論も同時に持っているんだ。
達成できなかった時に恥ずかしいからとかでは、決してない。
そう。
決して無いのだ。
初めての王都での外食。
それに大変満足した俺は、三人に帰路へつくことを促したのであった。
「えっ?泊まっていかれないのですか?」
ニーナ達の家へ戻ると、俺はここを出て行く旨を伝えた。
理由は単純で、これもジジイ(本)に言われているからだ。
『婚姻を結んでいる、又はその約束をしている相手以外の異性とは、一つ屋根の下で理由もなく過ごすことを禁ずる』
パーティメンバーであればそれに該当しないとも書かれてあった。
これまでは『こういうものだ』とあったのが、今回は『禁止事項』としてある。
ならば従う方がいいだろう。
流石のジジイも私生活に於いては理不尽な指示を出さないからな。
「ああ。自分のことは自分でやらなくてはな」
「立派な方に育てられたのですね」
ジジイが立派…?そこに同意はしかねるが、自立することは悪ではないからな。
「勿論、礼は忘れていない。俺に出来ることで三人がして欲しいことが見つかればいつでも言ってきてくれ」
感謝の想いというものは決して薄れたりしない。
「私は自分のやりたいようにしたまでです」
「八大列強に稽古をつけてもらったし…それ以上って…」
「休業補償も頂いたわ。あまり私達を甘やかさないで」
俺以上に三人はしっかりしていた。
俺ならば貰えるものは貰っている。
最初の街、ギャリックでもそうだった。
「わかった。今は思い浮かばないのだな?これに期限はない。困ったことがあればいつでも頼ってくれ。行き倒れは頼りにならないと思うがな」
『貸しはいくらでも作れ。借りは出来るだけ作るな』
これは生前、耳にタコが出来るほど聞かされていた言葉。
「八大列強が頼りないって、世界の終わりくらいのスケールよ?」
「わかったよ。考えとくね!」
「カイコさん。いつでも食事に来て下さいね?沢山用意しますので」
三者三様の言葉が返ってきた。
「ありがとう。暫くはこの街にいるから、またギルドで会おう」
「はい」「頑張って…頑張るのは私達の方か…」「女性には紳士的に振る舞いなさい?」
こちらも三者三様。
全く似ていない三人なのであった。
日は既に大分傾いている。宿を取るべく、足早にその場を立ち去るのであった。
翌る日。無事に宿が取れた俺はリハビリも兼ねて冒険者ギルドへとやって来ていた。
「アイツが?」「確かに強そうだが、若いな」「フンッ。ただの木偶の坊じゃねーか」「結構可愛い顔してるわね」「弟子にとってくれねーかな?」
そんな俺はギルドの隅に置いてある椅子へ腰掛けているのだが、視線はそこへ集まっていた。
ことの発端は話しかけた受付の女にあった。
『こんにちは。ご用件とギルドカードをお願いします』
そう告げられ、俺は素直に従った。
『Cランクの…カイコ・サオトメ…?』
ギルドカードを見た女の様子が変わる。
『ま、まさか…八大列強ぉっ!?』
朝の混雑する時間帯は避けたが、王都ということもあってか人の数は多かった。
その分建物もデカいが、受付の女が出した叫びにも似た声は、その大きな建物全体へ響き渡らすには十分な声量だったのだ。
「済まない。以後気をつけるように十分言い聞かせておくよ」
そんな注目を集めながら待っていたのは、ここ王都ギルドのギルドマスター。
漸く時間がとれたようで、案内されてきたのは何処かで見たようなギルドマスター室であった。
「構わない。いずれ素性はバレるんだ。遅いか早いかの違いしかない」
「ありがとう。その言葉を聞けて、彼女をクビにせずに済む。ああ見えて彼女は優秀なんだ」
「そうか」
危ない…
確かにあの女に非はありそうだが、俺に全くないというわけでもなかった。
そんなことで人一人の人生が大きく変わってしまうとは……
八大列強の看板も良いことばかりではなさそうだな。
ん?良いこと…あったのだろうか?
「一先ず、もう一つの礼を言わせてほしい」
「ん?他にも何かあったか?」
「八大列強が王都にいてくれることだ。滞在中の王都の危機が回避されるのは勿論のこと、普段調子に乗っている冒険者の身も引き締まるというもの」
成程。
確かにそれがあったか。
「それについては不可抗力みたいなものだ。礼には及ばん」
「そうか。一応義務ということにはなっているが、強者を縛り付ける手段はないからね。新たなる八大列強が理解ある者で助かるよ」
王都のギルドマスターであるシュナイザーは、三十代半ばの貴公子然としている男だった。
どうもギルドというものは、職員に対して年功序列ではなく能力をしっかりと査定しているようだ。
冒険者自体がそうだからか、その辺の仕組みがしっかりとしているのだろう。
「そんなカイコに一つ指名依頼があるんだ。話だけでも聞いてはくれないだろうか?」
実はその話を期待していた。
普通に依頼を受けてもいいのだが、指名依頼の方が金を稼げるからな。
療養生活と王都の高級飲食店四人前。
元々残金が心許なかったところにその出費だった。
有難い話だと簡単に受けてしまったが…
すぐに後悔することになるとは……
登場人物紹介
シュナイザー(178/65ギルドマスター、貴公子然とした姿、37歳)




