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「あっ!目を覚ましたようですよ」
痛い…痛い…痛い…
「血塗れだったけど、傷は見当たらなかったから目を覚ますとは思っていたけど…長かったね」
「はい…すみません。私の勝手で皆さんの時間を奪ってしまって」
「馬鹿ね。何度も言っているでしょう?私達は仲間なのだから、一心同体よ。貴女の判断に私達が反対しなかったのだからそれ以上は気にしたらダメよ」
腹減った…痛い…苦しい…痛い…
「お水です。飲めますか?」
ゴクゴクゴク……
足り、ない……肉…が欲しい……
「まだ動けないの?」
「はい…すみません…」
「貴女は悪くないわ」
腹減った…肉。肉が食いたい。
「起きましたか。さ。温かいミルクですよ」
目が覚めると、知らない女に抱き抱えられていた。
「…大丈夫だ。自分で…うっ」
「意識が戻られましたか?大丈夫です。ずっと寝ていたのですぐには動けないだけでしょう。
さっ。飲んでください」
「す、まない」
なんだ!?身体が重い…いや、硬い。
ここは何処で、俺はどうしてしまったのだろうか?
次に目が覚めると、思考はクリアになっていた。
「起きましたか?わかりますか?」
ローブを着た金髪の女がベッドへ横になる俺を覗き込んできた。
この服は確か書物で見たな…そうだ。修道服だ。
「わかる。ありがとう。俺はアンタに助けられたんだな?」
「良かったです。はい。お互いに色々と話はあると思いますが、先ずは食事にしましょう」
「何から何まで済まない」
修道服を着ているということは、ここは教会か?
確か俺は龍族にやられて瀕死だったはず。
身体に無事なところはなく、内臓も損傷していた。
それなのにここにこうしているということは助かったのだ。
怪我人ということで味気ない食事を頂いた後、遂に全貌が明らかとなった。
「そうか。あんた達も冒険者だったのか。ありがとう。この恩には必ず報いる」
ベッドへ横たわる俺を囲むように、女、女、女がいた。
一人は剣士の装いで、一人は魔法使い、そして先程の修道服の女だ。
「本当だよ…ニーナが動けなかった所為で金欠なんだから…絶対に恩返ししてよねっ!」
剣士の女は『ユミフィ』と名乗った。
赤髪を後ろで纏めており、身長は165cmほど。
「起きて良かったわ。ユミフィの言う通りだけど、焦らずにしっかりと治しなさい」
魔法使いの女は『アマンダ』と名乗った。
黒に近い紫色のウェーブ掛かった長い髪をそのまま降ろしており、茶色のローブと尖り帽子を被っている。身長はユミフィより少しだけ低い。
「お二人はこう言っていますが、助けたのはこちらの勝手ですのでお気になさらないよう、治すことだけに専念してください」
この三人は中々に面白い。
天使の様に優しいニーナに、見た目とは真反対に鬼の様に厳しいユミフィ。そして、その二人の間をとったかの様な性格のアマンダ。
ある意味ではバランスが取れているけれど、こうも性格が違うと上手くやれなそうに思う。
しかし、絶妙にバランスが取れているからこうして三人で冒険者活動が出来ているのだろう。
「済まない。金なら少ないがあの背嚢の中にある。自由に使ってくれ」
あの時、あの場所で、俺は生死を彷徨っていた。
そんな俺を、偶々依頼で通りかかった三人が救助してくれたそうな。
街道付近であれば他の誰かが先に気付いただろうが、戦いの最中に街道から離れてしまったようだ。
そこに荷物はあれど人の姿が見えないことを不審に思った三人が協力して探し出してくれた、と。
「ホント!?実は中身知ってるんだよねー。助かるぅっ!」
「済みませんっ!カイコさんを探す前に背嚢を見つけたので…悪いと思いながらも中身を確認させてもらいました」
「それは仕方のないこと。気にしないでくれ。これまでに掛かった費用もその中で足りれば取っておいてくれ。
勿論、それはあくまでも精算に過ぎない。礼は動けるようになればその時にさせてくれ」
あのままでは確実に死んでいた。
いや。
この三人に見つけられたとて、助かるような傷ではなかった筈。
ニーナは魔法の中でも特殊な回復魔法を使えるようだが、俺が伝えた程の怪我は治せないと言われた。
そもそも、三人が俺を見つけた時に外傷は見当たらなかったらしい。
不思議な話だ。
現在傷もなく問題なさそうではあるが、身体は思うように動かない。もう暫くはベッドから動くことが出来そうにないな。
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「あれは何でしょうか?」
この三人でパーティを組んだのは二年前。
堅実に依頼を熟し、現在は中堅と言われるランクBの冒険者となっていた。
そんなパーティの良心であるニーナが見つけたのは、木の下に投げ捨てられている背嚢だった。
「落とし物…にしては、わかりやすいよね」
「忘れたとも思えないわ」
「何よりも、この穴は…一体…」
三人はこの辺りに生る珍しい薬草を採取する依頼を受けてここまでやって来ていた。
街道から少し森に入ればそこは魔物の棲家。戦いを生業としている者くらいしか、この辺りまで足を踏み入れることはない。
落ちていた背嚢のそばには直径二メートル程の窪みがある。
「戦闘痕じゃないかしら?」
アマンダが悩ましげに呟き
「この背嚢の持ち主は死んだのかな?」
ユミフィは言葉を選ばず口に出した。
「…あのっ!」
ニーナは意を決して口を開く。
「わかってるって」「わかっているわ」
「二人とも…済みません。一時間、時間を下さい」
「ニーナのお人好しにも慣れるものなんだね」
困っている人がいるかもしれない。
ニーナはそう考えると居ても立っても居られない性格のようだ。
かくして、三人による背嚢の持ち主探しは始まった。
「とりあえず、背嚢の中身を確認しない?」
「そうね。何か手掛かりが見つかるかもしれないわね」
「い、良いのでしょうか?」
三者三様の意見が出るも、内二人は開ける気だ。
「良いんじゃない?」「そうよ」
「…わかりました」
後ろめたくなるのは、この場面を第三者か持ち主に見られること。
ここには三人しかいないので黙っていれば分からないと、ニーナは他二人の意見に流された。
「マジ…?」
「こんな薄汚い背嚢に、まさか金貨が入っているなんて…」
「さ、探しましょう!きっと困っています!」
こうなると困っている理由が二つになる。
一つは、戦闘により負傷しているパターン。
もう一つは、大金を落として路頭に迷っているパターンだ。
そのどちらかは当て嵌まるだろうと、三人は持ち主を探すことに決めた。
〜時は戻り〜
「嘘でしょ…?」
「何処か聞いたことのある響きだとは思っていたけれど…」
持ち主は見つかり、怪我も癒えてきた。
後は完全回復を待つだけだと思っていたが、自己紹介の後にやって来た冒険者ギルドで、ユミフィとアマンダの二人はその名前を見つけてしまった。
「ニーナは…」
「知らないでしょうね」
介抱相手の素性。彼女にそんなことは関係がない。
相手が一国の王であれ、孤児であれ、等しく助けたことだろう。
二人はそんなニーナを信頼していた。
「同姓同名…」
「も、ないわね。珍しい名前だもの」
二人の視線の先には『八大列強 第五位 カイコ・サオトメ』の文字があった。
「そうですか」
パーティで借りている一軒家へと二人は戻り、すぐにそのことをニーナへと報告した。
「驚かないの?」
「色々と納得がいったので。あの穴が開くほどの戦闘で生き残ったことと、大金を雑に扱っていたこと。
それに、助けた人が誰でも……助かれば、私はそれだけで満足です」
「流石ニーナね」
二人の予想は的中していた。
こういう時、ニーナだけは取り乱さないと。
普段はニーナだけ驚くことが多いものの、一定のラインを超えると普通は驚くことで驚かなくなる。
そういう想定外の出来事ではこれまでもニーナを頼りにしてきた。勿論、これからも。
登場人物紹介
ニーナ(160/48ヒーラー、金髪、ランクB冒険者、20歳)
ユミフィ(165/55剣士、赤髪ポニーテール、ランクB冒険者、18歳)
アマンダ(163/54魔法使い、紫ロング、ランクB冒険者、19歳)
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俺つえぇぇー。の独り歩き……
次話、主人公復活します。




