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悪魔の落とし子  作者: ふたりぼっち
山籠りの老師に拾われた子、人里に現る
20/149

2-1

 






「街道には何もないのだな」


 ギャリックの街を出た俺は、街道をひたすら南下している。

 このずっと先に次なる目的地があるらしいのだが、歩いて行くと十日程掛かるようで既に飽きていた。


 鍛錬にもなるからと伯爵が用意してくれた馬車を断ったが、どうやら早まった選択をしてしまったようだ。

 何せ、街道には何もなかったのだから。


「何もないとは聞いていたが、本当に言葉通り何もないとはな…」


 無いとは言っていたが、少しくらいの何か…例えば街道で商いをしていたり、見たこともない景色が拝めたりなど、何かしらはあるかと期待していた。


 勿論、そんなもの無かったから今があるのだが。


「どこを見ても木…常に森の中だ」


 この国は大森林の中にあり、街道は切り拓かれている。つまり、俺は森の中にいるのだ。常に。


 故に皆が口を揃えて言うのだ。『この国で景色を楽しむことは出来ない』と。


 街も先人達が切り拓いた森の中で、周囲に水源が多いことが特徴。

 故に街を一歩出るとそこは森。魔物達が身を隠す危険地帯なのだ。

 一般人にとっては。


 俺にとってはただの森だ。洞窟の周辺の方が危険だったからな。その洞窟も俺にとっては実家だし、危険だったのは物心つく前の話で今は何ともなく、外で野宿することも平気だ。


「さて。今日はどの辺りで寝るかな?」


 直に日が暮れる。

 ここは森の中だが、俺にとっては家の中も同然。

 自給自足の生活をしてきたので、何もなくとも生きていけるからだ。


「…しかし。飯は街の物に限る」


 俺の唯一の誤算は、食事に関してのものだ。

 旅は問題ない。森の中=家の中なのだから。

 しかし、食事だけは如何ともし難かった。

 既に慣れがきていたのだ。あの濃い味付けに。












 あれから数日後。遂にこの旅最後となるだろう野宿を迎えていた。


「漸く…漸く、美味い飯が食べられる…」


 ギャリックの街から次の目的地までは最低十日の道のりのはずだが、今日は出立からまだ五日目の夕刻。

 そう。我慢の限界…禁断症状が現れた為、四日目にして走ってしまったのだ。


「まだ日暮前だが、流石に今日一日は我慢しよう」


 走った割に距離感が掴めている理由。

 それは本日商隊とすれ違った時に話しかけ、目的地までの距離を確認した成果。


 そこから目的地方面に街道をある程度進んだところで野営をすることに決めた。

 なので、明日は歩いても昼前には目的地に到着するとわかっているのである。


 そんなわけで本日はすることもなくなり、かといって何かを狩ってまで腹を満腹にする気にもなれず、先日作った干し肉を頬張り腹を満たすことに決めた。


「…塩味。まあ、明日の楽しみも増えるというもの…」


 味気ないが、禁断症状の所為で何もする気が起きない。

 その後もポリポリと眠くなるまで肉を齧っていたその時。


「…っ!?がっ!?」


 ドンッ


 無防備な俺を、鈍い音と鋭い痛みが同時に襲ってきた。


 け、蹴られた!?馬鹿なっ!?何の気配もしなかったぞっ!?


 俺は痛みと驚きを同時に味わいながら宙を舞う。


 痛む脇腹を使い何とか身体を捻り、足から地面へと着地することに成功した。


 辺りは少し薄暗くなってきている森の中。

 周りには人っ子一人いなかったはずだ。

 先程までは。


「成程。アレを耐えるか。やはり貴様は・・・」

「誰だっ!?いきなり人のことを蹴りやがって!」


 先程まで俺がいた場所。そこには確かに俺の背嚢が置いてあった。

 つまり、そこにいるアイツが俺を蹴り飛ばした張本人というわけだ。


 こちらからは夕陽が逆光となりよく見えないが、体格は俺と同じか少し大きいくらいに見える。


「ん?なんだ?人間…なのか?」

「当たり前だろうがっ!お前には俺が魔物にでも見えんのかよっ!?」

「そうか。じゃあ、用はない」


 何だ…コイツ。

 いきなり攻撃しておいて、間違いだったから用済みだと…?


「そうかよ」

「ああ。とっとと消えろ。紛らわしい奴め」


 誰だか知らんが、御機嫌斜めのようだ。

 でも、忘れていないか?


 俺はそいつに近づき、背嚢に手を伸ばすフリをして、拳を力一杯に振るった。


 ブンッ


「なっ!?」


 馬鹿な!?

 確実に捉えたはずだ。そもそも奴はこちらを見てすらいなかった。


「何処だ!?」


 見ていなかった相手には避けられ、見ていたはずの俺が居場所を見失っていた。


「ここだ」


 声が聞こえたのは俺の頭上。

 逆さまに急速落下してくる奴と視線が交錯した。


 ドォォンッ


 横に飛び退き何とか攻撃を回避した俺は、すぐに立ち上がり戦闘体制をとる。


「ほう?これをあの距離で避ける、か。面白い」


 攻撃の余波で舞い上がった砂埃が落ち着くと、漸く奴の顔を拝むことが出来た。


「鱗…?」

「何だ?貴様、龍族を知らんのか?」

「龍族?」


 奴の顔には薄らと鱗のようなモノが窺えた。

 見ようによっては頬がひび割れているようにも見える。

 あれが…龍族……


















 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


「はちだいれっきょじゃダメ!いちばんがいい!」


 幼き頃の蚕は、最強を夢見ていた。

 今日も今日とて、老師から与えられた鍛錬を終えると、声高らかにそう告げていた。


「八大列強じゃ。一番か…蚕ならなれるやもしれぬのう」

「なるの!ぼくがいちばんになる!」


 幼き蚕の夢は世界最強。

 これは老師が植え付けた思想か、蚕の元々持つものなのか。


「蚕よ。今の世界最強は龍族の末裔じゃ」

「りゅうぞく?」

「そうじゃ。古の種族であり、今やエルフよりも希少な存在よ。

 その者たちは龍の名残りを特徴とし、龍の如く強い。蚕はそれを越えられるかのう?」


 龍族はエルフと同じく長命種である。

 長命な種族はその特性として、繁殖能力が低く、龍族も例に漏れなかった。

 そんな龍族は現在絶滅寸前である。


 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
















「人族にしてはやるな。それに免じて今回は見逃してやる。消えろ」


 コイツが…ジジイの言っていた龍族……

 確かその存在は、現在一人しか確認出来ていなかった筈。

 それは……


「八大列強…序列一位…」

「それは知っていたようだな。しかし、貴様と問答する気はない。

 俺の気が変わらぬ内に消えろ」

「………っぇ…」

「ん?」


 やられたまま、黙って消える?

 こんな奴に従って…?


「ふざけんなっ!」


 俺は体内の魔力を活性化させ、バトルオーラを身に纏い、全身全霊の拳を持って答えとした。


「…馬鹿が」


 早乙女流の基礎である体内の魔力の活性化。

 それを行うと視界と脳内処理さえも強化され、時の流れすら遅く感じる。


 龍族に向かい一直線で進む。

 舞い落ちる木の葉は空中で止まって見え、奴の次の動作さえも……


「なにっ!?」


 見えなかった。
















「がふっ…」


 自身の血で溺れかけ、口から血を吐くことで気道を確保した。それも考えて行ったことではなく、ただの反射だった。


「虫の息だな。何故死に急ぐ?短命な人族のくせに」

「かひゅ…かひゅ…」

「言葉すら話せぬか。哀れ、ここで散るとは」


 死ぬ…?俺が?


「貴様の拳は見たことがある。あれも確か俺に挑み、命辛々助かったと聞いた。

 確か…ケンシン…ケンシン・サオトメだったか」


 ジ、ジイ…も…


「しかし、貴様はここで散る。その傷では助かるまい。情けでトドメを刺してやることも出来るが…貴様のような馬鹿には後悔の時間も必要だろう。

 死ぬまで、己の選択を嘆くといい。

 さらばだ」

「ま…」


 て……


 元々見えづらくなっていた視界は、完全なる闇に染まった。

登場人物紹介


アークベルト・ラグ・ドラゴニア(190/105龍族の末裔、灰色の髪、悠久の時を生きる、250年間一位、400歳といわれているが本人にも正確な歳はわからない)


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気は早いですが、人類最強の登場です。

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