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悪魔の落とし子  作者: ふたりぼっち
最強の足元
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6-1

 





「いや、ヤバすぎだろ」


 人は進化する生き物だが、放っておけば退化もする。

 よって、俺の修行は終わることも中断することもなく、今日も今日とて鍛錬をしているのだが……


「私、今からでも間に合うかな?」

「やめておけ。刀で自分の脚を斬るだけだ」

「…そこまで酷くないわよ」


 エルフの隠れ里で一夜を明かし、早朝から少し離れた森で鍛錬していたのだが、ウルティマはエルフが珍しいのか、鍛錬にも連れて来ていた。


 連れてくるだけでは勿論ない。

 エルフの使う精霊魔法に興味があり、それを見せてもらう為に連れて来たようだ。


「ありえぬ…」


 そのエルフも絶句している。


「頑張ったら、出来ちゃった」


 あり得ないことをしでかした張本人はどこ吹く風だ。


「出来ちゃったじゃないわよ。精霊魔法は魔法と違うのよ?なんで斬れるのよっ!?」

「わ、わかんないよっ!『あっ。斬れそう』って思っちゃったんだから!」

「思っても出来ないわよ!?」


 想像したことを現実に起こせるなら、それは最早神の所業。

 それよりも気になることが。


「精霊魔法は精霊に頼むんだよな?」

「え、ええ」


 俺の問いにはエルフが答えてくれた。


「じゃあ、その精霊は無事ではないのか?」

「い、いえ。精霊魔法は精霊が行使した魔法の意です。ですので、精霊は無事かと」

「安心した」


 もしウルティマが精霊を斬っていたら、エルフとの友好はなくなっていただろう。

 それだけならまだいいが……リーリャを敵に回すのは勘弁だ。


 俺の安心の声は本心からの安堵の声だ。


「客人達よ。朝餉の用意が出来た」

「ありがとう。向かうわ。…どうしたのよ?二人とも」

「「ううん…なんでも…」」


 ウルティマと俺の声が被る。


 それもそのはず……エルフの飯が質素だから。

 それが顔に出ていたのだろう。


「後でアンジーに作ってもらおうな」

「うんっ!」


 ウルティマは途端元気になり、森を駆けていった。

 かくいう俺は頭を悩ます。

 道すがら、アンジェリカへどう頼もうか思案するのであった。




 ◇ ◇ ◇




「全く…はい。簡単なモノだけど文句言わないでよね」


 エルフの質素な朝食を食べた後、俺達は三人と一匹で近くの河原へ来ていた。

 あんな飯だと食べた気がせず、黙って連れ出したアンジェリカへと頼み込んでの二回目の朝食となった。


「おおっ!パンを卵と焼いたのか!美味そうだ!」

「しゅごい…いい匂いがしゅる…」


 パンを受け取ると早速ひと齧り。

 美味い。流石アンジェリカだ。

 ウルティマよ。涎垂らして眺めてないで食え。


「それにしても凄いわね」

「ん?ああ。エルフ達のことか」

「ええ。流石リーリャお姉ちゃんのすることね」


 ここにいるエルフが隠れ里の全てではなかった。

 朝餉中にエルフ達から聞いた話によると、里の中で変異の精霊魔法に長けた者達が何人か抜けていると。


 理由は()()()()()()()()()()()為。

 その魔法はリーリャが行使する。


 もうわかっただろう。

 これまで悪魔を探してきた、リーリャの手段。そのタネがこれだったのだ。


 エルフから只人へと姿を変えた者達は各地へ散らばり、そこから自身が起点となるようリーリャの魔法を助けていたのだ。


「私達は私達に出来ることを」

「そうだね!二人のお師匠様みたいにはいかないけど、出来ることから、だね!」


 リーリャの長い年月を掛けた努力と工夫。

 それを目の当たりにして、二人は俄然やる気を出した。


「違うな」


 そこへ水を差す言葉。

 二人のやる気を削ぐかもしれないが、それでも伝えなくてはならない想い。


「出来るか出来ないか、ではない。例え不可能に感じることでも、やらなければならない。やらなければ()られてしまう。

 必ずやり遂げ、俺達が勝つぞ」


 勝てば官軍どころの騒ぎではない。

 迎え撃たねば、命より重い尊厳さえも踏み躙られる。

 何より、負けて終えば…諦めてしまうと、俺は最強を追うことが出来なくなる。


「アンジーは弱い人を救い、叡智の魔導師となるんだろ?」

「…ええ」

「ウルティマは義心一刀流を後世へ受け渡し、世界中の美味いものを食べるんだろ?」

「…うん」


 だから、出来ないでは諦めがつかない。


「自分達が想い描く理想の強さより、さらに上にならなければならない。

 簡単だよな?」


 思えば遠くまで来たものだ。

 とうにジジイの強さを超え、早乙女流以外にも多くの戦い方を学んできた。


 数年前の俺へ今の強さを見せたら、心が折れるかもしれん。


 そんな遠い世界まで足を運んできた。


 それに比べ、想像を超えるなどなんと簡単なことか。

 それは俺だけじゃないはずだ。


 苦楽を共にしてきたアンジェリカは勿論のこと、俺達と出会って一月足らずで既に様々なモノを吸収してきたウルティマも同じ。


「朝飯前だね!」

「お祖父様を…いいえ。必要とあればリーリャお姉ちゃんでさえ超えてみせるわ」


 流石、八大列強だ。

 その名に恥じぬ向上心。

 誰しもが、八大で満足などしないのだ。

 だから八大列強でいられる。


「あ。今は昼飯前だけどね」


 ウルティマ…その注釈はいらんぞ?





 ◇ ◇ ◇





「あの街のようね」


 エルフの隠れ里を出立した俺達が次に目指した場所は、とある商業都市だ。

 同じ大陸南部とはいえ、西海岸と東海岸では気候も国風も全く違い、見慣れぬ街に否が応でも期待が溢れ出る。


 勿論、食い物だ。


 目的?悪魔?

 そんなもん、見つけられたら儲けもの程度に考えていないと気が持たないぞ。


「あの街の中の壁みたいなのがそうか?」

「ええ。この街の名物、闘技場でしょうね」

「僕の砦の壁よりも高いね!」


 俺達は現在街道を進んでいる。

 その視線の先にはウルティマが住んでいた砦と同様の壁が聳え立っており、普通であれば内の様子など窺い知ることは出来ない。


 しかし、ここには特別な建物がある。それが闘技場だ。


 何でも、二万人の観衆がすっぽり入ることの出来る立派な造りだとか。

 見れば納得だ。

 ここから壁を越えた先に見えるさらに高い壁が、その噂の闘技場なのだろう。


 一体どれほどの高さがある建造物なのか。

 よく見る城ほどの高さでは無いにしろ、普通だとお目にかからない大きさだ。


「早速探すわよ」

「そうだな。用事は早く済ますに越したことはない」

闘技場(あの中)に入れるのかなぁ?」


 ウルティマ。遊びじゃないんだぞ?




 ◇ ◇ ◇




「あの建物ね」


 街へ入ることは簡単だった。

 理由としては、この国では冒険者ギルドの地位がそこそこ高いから。

 ウルティマも冒険者登録をしているし、何の問題もなく入街出来た。


 その街の外れ。

 周囲は建物と呼ぶには烏滸がましい、ただ木が組んであるだけのテントのようなものが乱雑に並んでいた。


 恐らくスラム街というやつなのだろう。すえた臭いが漂っている。


「ウラジミールさんはいますか?」


 この街に知り合いなどいない。

 それなのにアンジェリカが名前を呼ぶのはどうしたことか。


「…誰だ?」


 見た目だけはか弱そうなアンジェリカに対して警戒心を隠そうともせず、一人の青年が顔を出した。

 見た目は至って普通の人。


「これを預かってきたの」


 アンジェリカが差し出したのは、一通の手紙。


「これはっ!?貴様ら…我が同胞をどうしたっ!?」


 手紙を見るや否や、その男はアンジェリカへ掴み掛かる。


 死んだな……


「その汚い手を離し、手紙の中を読むことを勧めるわ。死にたくなければ、ね?」

「死など瑣末な事!…くそっ。野蛮人めっ!」


 男は掴んだ手を乱暴に離すと、手紙に視線を落とす。


 するとどうしたことか、男の顔色は赤から白、そして青へ変わっていくのであった。

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