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悪魔の落とし子  作者: ふたりぼっち
山籠りの老師に拾われた子、人里に現る
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1-8

 





「では、お祖父様が八大列強であるのかは不明…と」


 伯爵家が長女カミラは、豪華な金髪が良く似合う最近まで死にかけていたとは思えないほどに活発な少女だった。

 歳は俺の一個下。まあ、俺の年齢はジジイが拾った時から数えてのものだから正確なことはわからんらしいが。


「そうだ。どうやらこの辺りでは珍しい姓らしいが、それでも同姓同名という可能性は残るからな」


 八大列強は、大陸全てが対象となる。この国は大陸全体から見ると小さなもので、広い大陸には同姓同名がいたとしてもなんら不思議はないのだ。


 ま。ここまでは単なる言い訳に過ぎない。


 俺が認めたくないのだ。

 ジジイが八大列強であることを。

 何故か十五年もの間、その事実を俺に隠していたということを。


 自身の力を誇示するタイプではなかったからと言われればそれまでだが、それ以上に隠す理由が見当たらないからな。

 十五年という月日の中で、いくらでもその機会はあったのだから。


「そうですか。ですが、私はそのお方こそ八大列強の『拳王』様であると信じておりますわ」

「何故、そう思う?」

「それは単に、貴方様が既に英雄の如き強さを持っているからです」


 俺が強い?

 そもそも。

 これほど弱い女に、強さの何がわかるというのか。


「カミラの言う通り。私もそう思うよ」

「伯爵も?」

「ああ。何せ、カイコは事もなくAランクの魔物を討伐してみせたのだからね」


 Aランクの魔物…

 確かに依頼内容はそうだった。

 だが、あの魔物がそこまで強いとはどうしても思えない。


 俺は未だに、『Aランクの魔物』が弱い魔物のことを指す言葉だと疑っていない。

 アレが強いとなると、龍は化け物で、ジジイも……


 様々な情報は手にしたが、それを上手く消化することができない。

 そんな気持ちを抱えながらも、伯爵家での談笑は続いていった。


















「その認識で概ね間違っていない」


 翌る日の冒険者ギルドにて。今日も今日とてギルドマスター室へと呼び出された俺は、この機会にとハミルトンを質問攻めにした。


 質問内容はジジイのこと。

 そして、魔物のランクや強さについて。


 最後に、ギルドの評価。

 これは俺についてのものだ。


 このギルドのトップであるハミルトンが、ここまで時間を使っているのだ。

 それが普通ではないということくらい、田舎者の俺でも気付いている。


 ここまでギルドが俺に対して手厚いのは、ジジイのお陰か。もしくは、俺への評価が高いのか。

 そのどちらか、あるいは両方だということが、ここへ来る前の俺の推測だった。


 果たしてその推測は、正しかったようだ。


「魔物はFランクのものから順次危険度が増していく。Aランク魔物の脅威度は、このギルドでは対処出来ない程度ということになるな。

 何せこのギルドの最高ランク冒険者はBランクだからな」

「複数人で囲えば、倒せなくもないのだろう?」


 あの程度の魔物といってはなんだが、やはりあの程度。囲んでしまえば、数の利で押し切れると思うのだが。


「倒すだけであればな。

 既存の仲間以外との連携に不慣れなのも、冒険者と騎士との違いではあるな。

 それ故に、想定以上の損害が出ることを覚悟しなくてはならなくなる。

 冒険者は自己責任とはいうが、私は彼らを出来る限り死なせたくはないのだ。

 もちろん、命を張ってもらうことも多々ある。

 だが、前回の指名依頼の件は、ウチのギルドの冒険者ではあまりにも分が悪いと考えたのだ」


 Aランク魔物に見合う冒険者がいたのなら、死地へと送り出せたということか。


 そして、倒すだけという言葉。確かに依頼内容は、魔物の臓器を無傷で手に入れるという条件があった。

 倒すだけではないし、仮に倒すだけでも被る損害があまりにも大きすぎると。


「わかった。ちなみに、俺の評価は?」

「ギルドの評価は、ランク以外を冒険者へ伝えられない規則になっている」

「そうか…」


 それはそうか。

 そんなもの教えたところで良いことなど一つもないだろうからな。

 せいぜいが『期待している』と声を掛ける程度。


「だが、私個人の意見であれば問題は少ないだろう」

「良いのか?」


 少ないということは、少なからず問題があるという話。


「カイコさえ黙っていれば問題はない」

「墓まで持っていくと約束しよう」


 それならば話は早い。


「そこまでの話ではないが……まあ、いいだろう。

 カイコの評価だが、私はSランク以上と見ている。勿論、ランクは総合評価だから、実戦での強さはさらに上かもしれないがな」

「Sランク?」

「そうだ。冒険者も、魔物も、最上位がSSSランクとなっていて、Sランクの下がAランクで、Sランクの上がSSランクとなる」


 つまり、評価値では上から三番目。

 まあ、そこそこ…なのか?わからん。

 強者の集まるギルドでは最弱かもしれないしな。


「つまり、一つの依頼から、そこまで割り出せたと?」


 そう。俺はまだ一つしか依頼を熟していない。

 そのたった一つで、ハミルトンは評価を下せたということ。

 見てもいないのに、だ。


「体力測定の結果もあるが、概ねそのような感じだ。

 ここと魔物がいた場所を往復した速さ。そこはSSS級といえよう。

 そしてAランクの魔物を、内臓を傷付けずという制約内で討伐してきた手腕。そこはSランク以上か相性の良かったAランクといったところ。

 まだまだ冒険者としては知識不足の点を加味しても、Sランク級という判断になった。

 もちろんそれは私個人の意見で、カイコのランクを上げてやることは出来ないがな」

「なるほどな。よくわかった」


 速さがSSSランクというのが気になるくらいで、ここに関しては聞きたいことはないな。


「ジジイが八大列強だということはまだ受け入れられないが、知りたいことは知れた。ありがとう」

「いや、気にするな。急な指名依頼に応えてくれたささやかな礼に過ぎない」


 そうはいっても、当時の俺はアレが普通なのだと思い込んでいたからな。あまり恩にきて欲しくはないのが素直な気持ちだ。

 他に…

 そうだ。もう一つ聞いておこう。


「龍はどれくらいのランクなんだ?」


 ジジイの最終的なランクはSSだったようだ。

 強さを求めていただけで、ギルドのランクには興味がなかったみたいだからな。

 ハミルトン曰く、八大列強という看板があれば冒険者ギルドでの評価は意味をなさないという話だし。


「伝説の存在である龍にランクなど存在しない。我々矮小な人類からすれば、その存在が災害や天変地異と同等だからだ。

 SSSランクとして有名なのは、一部のドラゴンやベヒーモスなど。龍はそれらを遥かに凌駕した存在ということだな」

「………そうなんだ」


 ジジイ…なんちゅーもんを旧友扱いしてたんだよ……


「随分と龍のことを気にしているが……もし戦おうとしているのであれば、私からはやめておけという言葉しか出てこないぞ?」

「やめてくれ…あんなのとは二度と遭遇したくない」

「っ!?遭ったのか…?龍と?」


 しまった…失言だったか?

 まあ、もう遅いが。


「遭った…というか、ジジイが刺し違えて倒した」

「な、なんと……流石ケンシン・サオトメ殿。その勇姿、必ずや語り継がせよう」

「やめてくれ。いや、やめろ。これは家族としての拒否だ」


 なんだよ。語り継ぐって。

 このおっさん。えらくジジイのことを持ち上げるな。

 知り合いではないとか言っていたが、もしかしたら何かあったのかもな。


「…残念だ。わかった。聞きたいことは以上か?」

「そうだな。また何かあれば頼らせてくれ」

「それは構わん。尊敬するサオトメの名を継ぐ者だ。私でよければ力になろう」


 やっぱり、何かあったんだろうな。

 八大列強としての憧れではなく、尊敬ときたからな。


「じゃあな」


 用も済んだし、依頼でも見てみよう。Aランクであの強さであれば、今の俺が受けられる依頼は簡単だろうからな。


「待て。まだ何も話していない」

「え?」

「呼び出されただろう?用があるから呼んだのだ」


 それはそうか……


 ハミルトンの話は簡単だった。

 簡単なのは話だけだったが……

登場人物紹介


カミラ・ギャリック(140/35伯爵令嬢、金髪、14歳)

バロン(172/60伯爵家執事、白髪オールバック、60歳くらい)


〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


時々口の悪さが顔を出します。

田舎者と自己紹介はしても、他人から田舎者だとは思われたくない模様。

そういうお年頃なのです。

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