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悪魔の落とし子  作者: ふたりぼっち
最強の足元
114/149

3-9

 







 勝手知ったる冒険者ギルドギルドマスター室。

 そこに主人の姿はなく、部屋の中には俺達と王子と執事の爺さんがいるだけだ。

 ガルはギルド裏にある厩舎へと預けた。表に出したままだと、人が集まってきて休めないからな。


「さて。早速だが、王族が衆人環視の中頭を下げた理由を教えてくれないか?」

「成程…武芸だけではないようだ。尚の事其方達に頼みたくなった」


 王族は全ての頂点に立つ国の象徴。

 それが一個人に対して礼を取る行いは、国内の支持率低下を孕んでしまう。

『俺達の王族(国)はアイツ一人に劣る』

 そう思われてもおかしくない行動だ。


 民達がそう思わなくても、今の王家をよく思っていない勢力にとっては格好の武器となってしまう。


 帝王学を幼き頃より学んでいるはずの王族、その程度のことなど理解していないはずもない。


 それよりも、そうまでしてこの王子が望むものとは?


「母上…」

「ん?つまり王妃のことか?」


 母といっても正室である王妃とは限らない。

 何に困っているのか定かではないが、側室や妾程度の立場しか持たない者を守る、若しくは助ける為に、国を天秤にかけるとも思えない。


 如何に血が繋がっていようとも、先程の様な行動が王族に許されるはずもないのだ。


 と、これまでに書物で学んだ知識が教えてくれる。


「そうだ。どうか、母上を助けて欲しい」


 後者か。守るのではなく、助ける。

 つまり、お家騒動の類ではないと。


「母上のお身体は毒に蝕まれている。犯人は母上と正室の座を争っていた側室であるもう一人の母。

 その者と侍医が申すには、その毒にはとある特効薬があるとか。

 しかし…王家であってもそれを手に入れる事は容易くなく……」

「何処にあるのかもわからないのか?」

「ある程度の予想はある」


 御家騒動だったか……まあ色々あるよな。

 俺の認識だと、王族よりも貴族家の方が生きやすいと感じてしまう。

 どの世界でもトップが一番辛く、次点やそれに次ぐ者達の方がやり易いのと同じだ。


 トップには様々なモノが求められ、それらは責任として重くのしかかる。

 利権だけ貪るならば、やはりナンバー2以下が望ましい。


 これは俺にも当て嵌まる。

 もし、俺が現時点で最強ならば、こうして呑気に旅などさせてもらえなかっただろう。


 常に悪魔を警戒し、悪魔が現れたと聞けばそこへ急行して事態を解決しなくてはならない責任を持ってしまう。


 それらをアークベルトやリーリャへ丸投げ出来て、且つ八大列強の利権だけは貪れる。


 うん。ありがたい事だ。

 俺の為に頑張って働け、リーリャ、アークベルトよ。


「全部話せ。やるかどうかはそれからだ」

「わかった」


 話の中で王子の年齢が15歳で第二王子であることがわかった。

 出会った当初のスバルと似ていて、少しだけ助けたくなる。

 敢えて違いをあげるのであれば、この王子の性格はハーベストセンティア皇太子妃と同じく勝ち気なもので、体格もそこそこ大きい。


 そんな王子の話を纏めると・・・

 毒を受けた王妃の容体は悪くとも安定している。

 毒の効果は体内の魔力に不具合を齎すものであり、即死とは程遠いが毒を盛られたとは気付きづらいことが特徴といえる。

 それでも気付けたのは侍医の腕が良かったからか、そこは定かではないが重要でもない。


 そんな体内の魔力を蝕む毒には特効薬があり、それは魔力草という草を煎じたものである、と。


「あら?魔力草なら簡単に手に入るのでは?」


 流石有識者である白髪の魔導師。

 頼れる相棒とはコイツのことだ。


「そう。普通の魔力草であれば、な」

「普通じゃないのか?」


 アンジェリカの説明によると、魔力草は薬によく使われている薬草の一種で、魔力ポーションには必ず使われている大陸全土に自生している草ということだ。


「ああ。魔力草の中でも、特異な場所に生る魔力草のみが、母上には必要なのだ。

 その名も『龍草』という。

 見た目は普通の魔力草と何ら変わらないが、その魔力草には通常の魔力草の数十倍の魔力が込められていると聞く。

 その植生地はここから100キロほど東へ行ったところにある山の中腹だということが、古い書物に記されていた」


 それって…もしかしなくとも……


「蚕…」

「恐らく」


 アンジェリカの何とも言えない表情が、全てを物語っていた。


「頼む!確かなことは言えないが、何もしない訳にはいかないのだ!

 報酬は、私に出来ることであれば何でも叶えよう!もし、私の命を望むのであれば、それも良し。

 少ないが、財産を望むのであれば全てを差し出そう」


 王子の力説は続く。


「王太子である兄上は国を背負って立つ身。

 本心では私と同じ行動を取りたいに違いない。されど立場がそれを許さず……

 ならば、失うものの無い第二王子である私がその身を賭して動かねばならぬのだ。

 この国には、まだ王妃も王太子も必要なのだ。

 頼むっ!力を…神々が認める八大列強、その力を貸してくれっ!」


 ここで王子は再び頭を下げた。

 今回は王子だけじゃない。その横に並び立つ執事までも。


「アンジェリカ。任せる」

「わかったわ」


 十中八九、龍絡みの依頼となる。

 それでも、仲間が行くと言うのであれば、俺に否はない。


 一人であれば絶対行かないが、俺にはアンジェリカもガルグムントもいる。

 それに、俺は昔の俺ではない。

 一度は龍に敗れかけるも、そこからリーリャや師匠に鍛えてもらったのだ。

 最早、勝てない相手ではない。


「二つ返事で『了承』と言いたいのだけど…」

「…ダメ、か」


 アンジェリカはお人好しだが、馬鹿ではない。


「早合点しないで。話はまだ続いているわ。私達が依頼を達成できるかどうか、それはそこにいるであろう龍の色によるわね」

「龍…だと?」

「ええ。その珍しい魔力草の特徴から推察すると、その魔力草が自生している場所は龍脈と呼ばれる秘境よ。

 龍脈には高確率で龍が棲みついているのよ」


 龍とは一般的にお伽話に近い存在。


 理由は単純で、大昔に龍脈から人々が追い出されたから。

 正確には、そこに近づけば誰も帰ってこないと噂が広まり、やがてそれは確信へと変わる。

 だから人の生活圏はそこから離れ、龍と相対することもなく、今日(こんにち)に至っては存在そのものがお伽話となったのだ。


 それでも文献は残っているのだからその存在は否定されず、また数百年に一度程度の間隔で腹を空かせた龍が人里へ現れることにより、その存在は人々が忘れた頃に証明されるのだ。


 アンジェリカの祖父が死んだ要因である龍もまた、数百年に一度の出来事として文献に遺されるのだろう。


「そうなのか…それで古書には『近寄るべからず』などと書かれてあったのだな…」

「そうよ。そして、龍の強さはその鱗の色によって変わるの」


 ここからはおさらいだな。


「龍の鱗の色は白から始まり、それが黒に近づくほど強くなるの。

 だから黒龍を確認した時点で私達はこの依頼から降りる。

 それを飲むのであれば、依頼を受けるわ」

「良いのかっ!?」

「ちゃんと話を聞いていたのかしら…?」


 依頼を途中放棄する可能性がある。

 そう伝えるも、王子の表情は喜色満面となり、身体は小刻みに震えてさえいる。


「報酬は達成してから決めるわ。

 何でも良いならそれでも良いわよね?」


 人は大体、喉元過ぎると熱さを忘れてしまう生き物。

 依頼が達成され母親が助かってしまえば、次に可愛いのは自分。

 その時に命を奪うと言われても頷けるかどうか。


 勿論、この王子の命なんて、俺達に興味があるわけない。

 だが、それに次ぐ秘宝や財貨であればどうだろう?


 ま、八大列強と知っているのだ。どう転んでも反故にはしまい。


 王子は震える身体を力づくで抑え、片手をアンジェリカへと差し出し、執事は綺麗なお辞儀をする。


「無論、約束を違えることはない。アルゴニア・ゼニッシュ・ギムレットの名にかけて」

「決まりね」


 そうと決まれば、後は一つだけ。


「アンジー。冒険者証を出せ」

「何よ、藪から棒に」

「俺達がここへ来た目的を忘れたのか?」


 そう。俺達は王妃を助ける為にここへ来たわけではない。

 明確な目的があったのに、それを忘れるとは…さてはコイツ、賢ぶっているだけで本当は馬鹿なのでは。


「Aランクに昇格した。後は手続きだけだ」

「えっ!?そうなの?」

「何の感慨も思い入れも持てないが、そうだ」


 苦労して手に入れたモノほど、人は大切にしたがる。

 それは思い入れなのか、苦労がそう思わせているだけなのか。


 どちらにせよ……


「拍子抜けね…」

「言わないでくれ」


 そこに物語は存在しないのであった。

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