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悪魔の落とし子  作者: ふたりぼっち
山籠りの老師に拾われた子、人里に現る
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1-6

 





「お買い上げありがとうございました。明日の朝までには仕上がりますので、明日のお昼頃に宿へお持ちいたします」


 希望の服を手に入れた俺は店主の言葉に頷くと店を後にした。

 貴族との食事会。それには俺が思っている以上に相応の装いが必要で、全部で金貨十枚以上の出費となった。


 金貨十枚あれば、どれだけ飯が食えたことか……

 まあ、先行投資というやつだ。

 あの貴族から、また美味しい依頼を貰えるかもしれないしな。


「ご満足頂けましたか?」

「ん?あ、ああ」


 度重なる出費により、気のない返事となってしまう。

 目敏くもそこを感じ取られてしまい、怪訝な表情をしていた。


「…何か不手際でも?」

「いや。こっちの話だ。済まない」

「何か悩みがお有りでしたらお聞きしますよ?私は冒険者の皆様を支える立場にありますから」


 そんな大それた悩みではない。

 無論、俺にとっては一大事なのだが。


 そうだな。

 これも出費ついでか。


「美味い飯屋を知らないか?」

「お食事処ですか?」


 今日も今日とて、宿の飯はある。


 だが、今日は初めて自分で稼いだ日でもある。

 褒美に贅沢をしてもバチは当たらんだろう。


「……知っています」


 ん?何故言い淀む?


「案内を頼めるか?アイラが忙しければ自分で探すが」

「いえ、します。問題ないです」


 なんだ?雰囲気が変わった?

 決意に満ちた表情に見えるが…何かあったのだろうか?


「じゃあ、頼んだ」

「はい。といっても、あそこなのですが」


 そう言ってアイラが指し示した場所は、ここからでも見える大きな建物だった。


 あそこが美味い飯を出す店か。

 案内は必要なかったな。


「じゃ…」


 じゃあな。そう告げて別れようかと思ったが、何故かアイラはその建物へ向かい歩き始めた。

 一瞬出遅れるも、次の目的地は100mほどの距離。既に場所はわかっている為、これまでとは違い後ろではなく横へ並んで歩く。


 こうなると、ジジイ(本)に頼らなくてはならない。


「あの店は少し値段は張りますが、客質も料理の味も間違いありません」


 並び歩く俺の方ではなく、目的地を見つめながらアイラが教えてくれた。

 少し高いのか……まあ、俺も男だ。散財する時は豪快に、な?


「そうか」


 俺はそう呟くように応えると、アイラの肩に手を当て抱き寄せた。


「えっ?」


 戸惑いの声が下から聞こえるが、これで間違いじゃないのだろう?


 ジジイが書いた本によると……

『街で女子(おなご)と二人きりで並び歩く時は、その肩を優しく抱き寄せて歩くべし』

 って、あったし。


 ほら。アイラも声は出したが、その後は抵抗しない。

 なんなら、重心をこちらへ預けてきている。


 やはり間違いではなかったようだな。

 どんな意味があるのかは知らんが。


 歩きづらくないのだろうか?

 まあ、これが街のスタンダードであるのなら、郷に入っては郷に従わなければならない。

 女も大変だな。


 アイラの身長は恐らく162cm程度。肩の位置に丁度頭が来るので、まだ歩きづらさは少なそうではある。


 そんな風に寄り添って歩きながら、遂に目的地へと辿り着くことが出来た。

 何気、街に来て一番ワクワクしている。















「ふう…美味かった」


 人生初の外食は、とても素晴らしいものとなった。


 メニュー表に値段は書いてあったが、途中からそれは気にしないことに決めた。

 それもこれも、どれを頼んでも美味いのが悪いのだ。


 全て複雑な味付けがなされていたが、どれもこれも調和が取れており素晴らしい品々だった。


 唯一気になるのは、一人ではないということくらい。

 本来は一人で食べる予定だったがついて来てしまったものは仕方なく、これからも世話になる予定だから気前よくご馳走しておいた。


「ご馳走様でした」

「ああ。こちらこそ、良い店を教えてもらった」


 俺は9品を平らげたが、アイラは遠慮してなのか元々少食なのか一品だけをゆっくりと食べていた。

 だから奢ったと言っても端数といった感じで、特に恩を着せるつもりもないが。


 むしろ良い店を紹介してもらえてこちらの方が恩を感じているまである。


 肩を組んで歩くのは面倒だが、アイラに任せれば次も失敗をしないだろう。そこは悩ましいところ。


「で、では。行きましょうか」


 そんな事を店前で考えていると、何だか気を張っていそうな雰囲気でアイラが伝えてきた。


「ん?行くって、どこに?」

「え?」

「俺の用は済んだが、何かあるのか?」


 何だろう。嫌な予感しかしない。





















「恥ずかしい…です」


 そう言われてもな……


「悪いな…勘違いさせて」

「い、いえ…」


 空気が重い…

 腹もパンパンで重いが、それとこれとは精神的に真逆だ。


 アイラの勘違いとは、俺がアイラに好意を抱いているというもの。

 これはアイラが悪いわけではなく、ハミルトンとジジイ、それとほんの少しだけ俺が悪かったのだ。


 先ずは、ハミルトン。

 ハミルトンは俺に気を使いすぎていて、俺が女に困っているのであればアイラで良ければといった感じで、アイラに『カイコから誘われたら、なるべく断らないでくれ』と頼んでいたようだ。

 勿論これは無理強いではないものの、アイラからすれば上司の上司であるハミルトンの頼み。それは指示と何ら変わらないものだ。


 そして、ジジイ。

 何が『街で女子と二人きりで歩く時は肩を組め』だ!

 この大嘘つきがっ!!


 最後に俺だが……

 そんなアホな話を全て信じ、アイラの立場を考えず行動へ移したこと。


「と、兎に角。帰ろう…か?」

「そ、そうですね…」

「日も暮れたし、送ろう」


 街の中の治安は悪くない。

 街自体が壁に囲まれている為、犯罪が起こりにくいのだ。

 だが、起こりにくいだけで起きないわけではない。

 犯罪者はあの手この手を使いバレないように、犯罪は時代と共により複雑になっているのだから。

 ジジイ(本)曰く……


 だから、女性の一人歩きは推奨されない。

 日暮以降であれば尚更。


「良いのですか?」

「ギルド職員に何かあれば困るのは俺達冒険者もだ。だから気にするな」


 まだ冒険者になったばかりで様にならないが、俺が頼れる数少ない相手であるのは事実だしな。


「お願いします」

「任された」

「ふふっ」


 何故か笑われてしまった。

 流石に新人だと頼りないか。

 まあ事実、俺は低ランクだしな。


 このやりとりの間に、今日一日ずっと強張っていたアイラの表情はいつも通りとなっていた。

 笑われたが、意味があったのなら許そう。


 そんな風に和気藹々と家路を進んでいると、今度は別のトラブルの気配が漂ってきた。


「お姉ちゃん!良かった…無事で」

「レイラ。ごめんね?急用で遅くなることを連絡できなかったの」


 どうやら普段より帰りの遅いアイラを心配して、家族が出迎えに来たらしい。

 これで漸く帰れるな、と思っていたら事態はそう上手く進まなかった。


「そうだったんだ…お連れ様?」

「うん。暗いから送っていただいたの。カイコさん。この子が先程話していた妹のレイラです」

「蚕だ。…ん?」


 何だ?既視感があるぞ?

 俺が挨拶すると、妹のレイラは固まったままこちらを凝視してきた。


「あ、あ、あ、あーっ!あの時の変な人っ!?」

「へ、変?」

「レイラっ!?なんて事をっ!」


 あ。思い出したぞ。

 この女は、街へ着いたばかりの俺に声を掛けてきた女だ!


 そうだ…この女にもジジイのせいで誤解を生んでいたのだったな。


「姉妹揃ってかよ…」


 ジジイが死んでから、初めての泣き言。

 まさか、それがこんなつまらない理由から訪れるとは……

 ま。ジジイも許してくれるだろう。全てはジジイの所為なのだから。

登場人物紹介


レイラ(160/49学生、アイラの妹、金髪、15歳)


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閑話を挟みます。

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