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「しつこいぞ。薄黄色のパンツなんてもう忘れた」
何故か仲間に殺されそうになるも、疲れたのか、やがてアンジェリカは地上へと舞い降りてきた。
あの様な攻撃手段があるのなら、活躍の場は更に増えることだろう。
本当に自慢の相棒だ。下着は薄黄色だが。
「やっぱり見てんじゃないのっ!?馬鹿!死ねっ…ううん、殺すしかないわね…」
目が据わっている。コイツ、本気だ。
「それよりも凄いな。空中からあんな攻撃が出来るなら、飛べない敵が相手だと楽勝じゃないか?」
「話をすり替えるの下手なの…?まあ…そうね。でも、難しいわ。
だって魔法や飛び道具を使われたら、避けようがないもの。
一撃でも喰らったらアウトよ。忽ち制御を失って墜落死ね。
貴方みたいに私は頑丈ではないから」
「そう簡単にはいかない、か…」
うーん。どれも必殺の技に思えたが、其々に大きな欠点を抱えると。
ん?
もしかして、言うほど強くなっていないのでは?
まあ、魔力自体が底上げされているから、強くなっているのは間違いのない事実なのだけれども。
「言っていたもう一つの奥の手は…」
「嫌よ。アレは奥の手というよりも、特性というか……兎に角、簡単には使えないし、出来ることなら見せたくもないの。
諦めなさい」
そこまで使うことに慎重になるとは……気になるが、どうせ何を言っても見せてはくれないのだろうな。
見たくもない下着は見せてきたのに。
口が裂けても言えないが……
こうして、楽に勝ったはずなのに後味の悪さを残し、俺達は再度出立した。
「おい。アレは人里じゃないか?」
道無き道を彷徨うこと四日。
南下を続けていた俺達の視線の先には、長閑な風景が広がっていた。
「間違いなく人の手が入った畑ね。食材も心細くなってきた所だし、魔石なんかも重いだけだから換金したいわ」
俺の疑問にガルの上からアンジェリカが答える。
小高い丘の上から見下ろした光景は、森を切り拓いて造ったであろう田園風景だった。
「っと。さ。行きましょう?」
「おう。で?なんで、腕を組む?」
道無き道では汚れるからと歩こうとしなかったアンジェリカだが、切り拓かれた地面ではしっかりと歩くようだ。
それは体力を鍛える意味でも素晴らしいと思うのだが、こうもくっつかれると歩きづらい。
「あ、当たり前じゃない!何でアイラさんは良くて、私はダメなのよ!」
「いや、別にアイラだからどうとかはないが……」
「じゃあ、良いわよね?」
不承不承だが、頷く他ない。
この手のやり取りで勝てる気がしないからだ。
別にアンジェリカの口が上手いとかではなく、誰が相手でも。
それにしても、あの時何を話していたのかと思えば、俺の過去の過ちを聞いていたのか……
アレは全てジジイの所為で、俺は無罪……とも言い切れんな。
アイラなら全てを許してくれる。
当時は知らない間柄だったが、そんな風に心の片隅で安心していた俺が居たのも事実だ。
ま。アイラが拒まなかったのに、俺が拒むのも変か。
「あ。あの人。農作業をしているあのおじ様に話しかけてみましょう?」
「そうだな。近くに町があるか聞いてみようか」
畦道を行く俺達の前にはいくつかの畑がある。
その一つで、中年と思われる一人の男が何らかの作業をしている。
他の畑には誰もいないから、この機を逃すと村まで行くことになってしまいそうだ。
「こんにちはーっ!」
ビックリした。アンジェリカの大声なんて初めて聞いた。
俺は驚いたのに、おっさんは驚くことなくこちらを向いた。
「おったまげた。えらい別嬪さんを連れちょるなあ。アンタらまさか北の森を抜けて来ただか?」
北の森?
「それが何処か知りませんが、後ろの山を越えて来ました」
頭に巻いた手拭いを取り手に持つと、おっさんが近づいて来る。
どうやら話は出来そうだ。
「そりゃすげぇ。何でも、近頃おっかねえ魔物が出るってお上から通達があってよ。
村では山菜採りも禁止したばっかなんだよ。
それで?お主らは何処へ?道が聞きたいんよな?」
話が早くて助かる。
「私達は旅の冒険者です。そろそろ町へ向かいたいと考え始めたところでここへ出たので……近くの町はどの辺りにありますか?」
「こったらおっさんに話しかけるならやっぱり道案内じゃよな?
かっかっかっ。ほれ、向こうに山が見えるよなぁ・・・・」
よく聞かれるのだろうか?
それはわからないが、説明は簡潔で分かり易いものだった。
「ありがとうございました」「助かった」
別れ際、礼の言葉を伝える。
ん?俺が喋ったの、これだけなのではないだろうか?ま、いいか。
「んだらこと、気にせんでええけ。それよりも、街道以外じゃと魔物が出るけぇの。気をつけんちゃい」
「はい、それでは」
種族ごとに言語の違いはあるが、今話している共通語に関しては誰でも話せるとリーリャから聞いたことがある。
このおっさんは明らかに人だ。
それなのに、所々訛りが酷くて理解しづらかったな。
これも経験。
そう思い、先ヘ向かおうとすると、肩を叩かれ背後から声が掛かる。
「兄ちゃん。こんだけの別嬪さんだ。魔物以外にも気を付けないかんぞ?
にしても、兄ちゃんでけぇのう。
余計な世話じゃったかっ!かっかっかっ!」
「いや、心遣い感謝する」
耳元で伝えられた言葉からは、温もりを感じられた。
こういう人達の為に悪魔と戦っていると思うと、何故だか不思議な感覚に陥る。
言葉に表せない感情に戸惑っていると、ニヤニヤした顔で先を行く相棒が振り返って来た。
「なに?何の話だったの?」
「なんでも。行くぞ」
「ええっ!?教えなさいよ!?」
再び腕が組まれ、しつこく聞いてくる。
その腕はか細く、農夫が心配するのも確かに頷けた。
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「まだ泳がせるつもりなのか?」
頬の鱗が陽光を微かに反射させる。
そんなアークベルトは家主へと問いかける。そこに隠しきれぬ怒りを混ぜながら。
「言ったはずよ?状況が変わらない限り、言うつもりはないの」
「…しかし」
「しかしもへちまもないわ。貴方があの子を気にかけているのは分かっているけど、もし敵であれば……私達が…いえ、この世界に危機が訪れてしまう」
家主であるリーリャは、カレンが淹れたお茶に口をつけると、カップを置き言葉を続ける。
「嘘をつかれる可能性がなくなるまで、この事は秘密にする。
最初に約束した通りよ」
リーリャの凍てつくような視線を受けても、アークベルトに変化は見られない。
未だ怒気を孕んだ態度だ。
「アイツは強くなった。それも、俺達に届き得るところまで来ている。
それら全てを含め、俺は伝えるべきだと確信している」
アークベルトの怒りが闘気となり、部屋の中を包み込む。
それでもリーリャは顔色一つ変えない。
「が、それでもお前と仲違いするわけにはいかぬ。
俺が黙っているのは、世界の為だ。
決してお前の為ではない。
ましてや……帰る」
そう言って立ち上がるアークベルト。
空いた席を見つめたまま見送るリーリャ。
そこには闘気の残光が渦巻いていた。
「…ふう。本気…だったようね」
アークベルトが退室した後、リーリャの額には玉のような汗がいくつも浮かんでくる。
「ごめんなさい。でも…もしも、を考えると…」
リーリャの声が震える。
「まだ伝えられないの……信じられるまで……あの子が…カイコが悪魔だということは…」
悪魔を感知することが可能な術を持つリーリャ。
そのリーリャが気づいていない筈もなく。
「間違いだったらいいのに…」
その日、百年以上ぶりの泣き言が口をついて出た。
蚕の姿を見ることは叶いませんが、リーリャは蚕の居場所を常に把握しています。
ええ。
ストーカーです。




