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悪魔の落とし子  作者: ふたりぼっち
最強の足元
108/149

3-3

 







「しつこいぞ。薄黄色のパンツなんてもう忘れた」


 何故か仲間に殺されそうになるも、疲れたのか、やがてアンジェリカは地上へと舞い降りてきた。


 あの様な攻撃手段があるのなら、活躍の場は更に増えることだろう。

 本当に自慢の相棒だ。下着は薄黄色だが。


「やっぱり見てんじゃないのっ!?馬鹿!死ねっ…ううん、殺すしかないわね…」


 目が据わっている。コイツ、本気だ。


「それよりも凄いな。空中からあんな攻撃が出来るなら、飛べない敵が相手だと楽勝じゃないか?」

「話をすり替えるの下手なの…?まあ…そうね。でも、難しいわ。

 だって魔法や飛び道具を使われたら、避けようがないもの。

 一撃でも喰らったらアウトよ。忽ち制御を失って墜落死ね。

 貴方みたいに私は頑丈ではないから」

「そう簡単にはいかない、か…」


 うーん。どれも必殺の技に思えたが、其々に大きな欠点を抱えると。

 ん?

 もしかして、言うほど強くなっていないのでは?


 まあ、魔力自体が底上げされているから、強くなっているのは間違いのない事実なのだけれども。


「言っていたもう一つの奥の手は…」

「嫌よ。アレは奥の手というよりも、特性というか……兎に角、簡単には使えないし、出来ることなら見せたくもないの。

 諦めなさい」


 そこまで使うことに慎重になるとは……気になるが、どうせ何を言っても見せてはくれないのだろうな。


 見たくもない下着は見せてきたのに。


 口が裂けても言えないが……


 こうして、楽に勝ったはずなのに後味の悪さを残し、俺達は再度出立した。
















「おい。アレは人里じゃないか?」


 道無き道を彷徨うこと四日。

 南下を続けていた俺達の視線の先には、長閑な風景が広がっていた。


「間違いなく人の手が入った畑ね。食材も心細くなってきた所だし、魔石なんかも重いだけだから換金したいわ」


 俺の疑問にガルの上からアンジェリカが答える。

 小高い丘の上から見下ろした光景は、森を切り拓いて造ったであろう田園風景だった。


「っと。さ。行きましょう?」

「おう。で?なんで、腕を組む?」


 道無き道では汚れるからと歩こうとしなかったアンジェリカだが、切り拓かれた地面ではしっかりと歩くようだ。

 それは体力を鍛える意味でも素晴らしいと思うのだが、こうもくっつかれると歩きづらい。


「あ、当たり前じゃない!何でアイラさんは良くて、私はダメなのよ!」

「いや、別にアイラだからどうとかはないが……」

「じゃあ、良いわよね?」


 不承不承だが、頷く他ない。

 この手のやり取りで勝てる気がしないからだ。

 別にアンジェリカの口が上手いとかではなく、誰が相手でも。


 それにしても、あの時何を話していたのかと思えば、俺の過去の過ちを聞いていたのか……

 アレは全てジジイの所為で、俺は無罪……とも言い切れんな。


 アイラなら全てを許してくれる。

 当時は知らない間柄だったが、そんな風に心の片隅で安心していた俺が居たのも事実だ。


 ま。アイラが拒まなかったのに、俺が拒むのも変か。


「あ。あの人。農作業をしているあのおじ様に話しかけてみましょう?」

「そうだな。近くに町があるか聞いてみようか」


 畦道を行く俺達の前にはいくつかの畑がある。

 その一つで、中年と思われる一人の男が何らかの作業をしている。

 他の畑には誰もいないから、この機を逃すと村まで行くことになってしまいそうだ。


「こんにちはーっ!」


 ビックリした。アンジェリカの大声なんて初めて聞いた。

 俺は驚いたのに、おっさんは驚くことなくこちらを向いた。


「おったまげた。えらい別嬪さんを連れちょるなあ。アンタらまさか北の森を抜けて来ただか?」


 北の森?


「それが何処か知りませんが、後ろの山を越えて来ました」


 頭に巻いた手拭いを取り手に持つと、おっさんが近づいて来る。

 どうやら話は出来そうだ。


「そりゃすげぇ。何でも、近頃おっかねえ魔物が出るってお上から通達があってよ。

 村では山菜採りも禁止したばっかなんだよ。

 それで?お(んし)らは何処へ?道が聞きたいんよな?」


 話が早くて助かる。


「私達は旅の冒険者です。そろそろ町へ向かいたいと考え始めたところでここへ出たので……近くの町はどの辺りにありますか?」

「こったらおっさんに話しかけるならやっぱり道案内じゃよな?

 かっかっかっ。ほれ、向こうに山が見えるよなぁ・・・・」


 よく聞かれるのだろうか?

 それはわからないが、説明は簡潔で分かり易いものだった。


「ありがとうございました」「助かった」


 別れ際、礼の言葉を伝える。

 ん?俺が喋ったの、これだけなのではないだろうか?ま、いいか。


「んだらこと、気にせんでええけ。それよりも、街道以外じゃと魔物が出るけぇの。気をつけんちゃい」

「はい、それでは」


 種族ごとに言語の違いはあるが、今話している共通語に関しては誰でも話せるとリーリャから聞いたことがある。

 このおっさんは明らかに人だ。

 それなのに、所々訛りが酷くて理解しづらかったな。

 これも経験。

 そう思い、先ヘ向かおうとすると、肩を叩かれ背後から声が掛かる。


(あん)ちゃん。こんだけの別嬪さんだ。魔物以外にも気を付けないかんぞ?

 にしても、兄ちゃんでけぇのう。

 余計な世話じゃったかっ!かっかっかっ!」

「いや、心遣い感謝する」


 耳元で伝えられた言葉からは、温もりを感じられた。

 こういう人達の為に悪魔と戦っていると思うと、何故だか不思議な感覚に陥る。

 言葉に表せない感情に戸惑っていると、ニヤニヤした顔で先を行く相棒が振り返って来た。


「なに?何の話だったの?」

「なんでも。行くぞ」

「ええっ!?教えなさいよ!?」


 再び腕が組まれ、しつこく聞いてくる。


 その腕はか細く、農夫が心配するのも確かに頷けた。



















 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


「まだ泳がせるつもりなのか?」


 頬の鱗が陽光を微かに反射させる。


 そんなアークベルトは家主へと問いかける。そこに隠しきれぬ怒りを混ぜながら。


「言ったはずよ?状況が変わらない限り、言うつもりはないの」

「…しかし」

「しかしもへちまもないわ。貴方があの子を気にかけているのは分かっているけど、もし敵であれば……私達が…いえ、この世界に危機が訪れてしまう」


 家主であるリーリャは、カレンが淹れたお茶に口をつけると、カップを置き言葉を続ける。


「嘘をつかれる可能性がなくなるまで、この事は秘密にする。

 最初に約束した通りよ」


 リーリャの凍てつくような視線を受けても、アークベルトに変化は見られない。

 未だ怒気を孕んだ態度だ。


「アイツは強くなった。それも、俺達に届き得るところまで来ている。

 それら全てを含め、俺は伝えるべきだと確信している」


 アークベルトの怒りが闘気となり、部屋の中を包み込む。

 それでもリーリャは顔色一つ変えない。


「が、それでもお前と仲違いするわけにはいかぬ。

 俺が黙っているのは、世界の為だ。

 決してお前の為ではない。

 ましてや……帰る」


 そう言って立ち上がるアークベルト。

 空いた席を見つめたまま見送るリーリャ。

 そこには闘気の残光が渦巻いていた。


「…ふう。本気…だったようね」


 アークベルトが退室した後、リーリャの額には玉のような汗がいくつも浮かんでくる。


「ごめんなさい。でも…もしも、を考えると…」


 リーリャの声が震える。


「まだ伝えられないの……信じられるまで……あの子が…カイコが悪魔だということは…」


 悪魔を感知することが可能な術を持つリーリャ。

 そのリーリャが気づいていない筈もなく。


「間違いだったらいいのに…」


 その日、百年以上ぶりの泣き言が口をついて出た。

蚕の姿を見ることは叶いませんが、リーリャは蚕の居場所を常に把握しています。


ええ。

ストーカーです。

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