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悪魔の落とし子  作者: ふたりぼっち
最強の足元
107/116

3-2

 






「ふあぁ…」


 ガルの背の上に跨る俺。その背後から大きな欠伸が聞こえてきた。


「自分の所為だからな?」


 かく言う俺も、欠伸が移ってしまう。


「何よっ!アンタが勘違いしたのが悪いんじゃないっ!」

「いや、勘違いしたままでも別によかっただろ?今日でも訂正できるんだ」


 何で夜通しの説得をしたんだよ……


「そ、それは……馬鹿っ!!」

「相変わらず、悪口が下手だな……」


 本当に毒舌性悪女(リーリャ)の弟子か?

 俺の知っているリーリャとは違うリーリャと生活していたんじゃないか?


 ぶるっ……


 いや、あんなのがこの世に二人もいるなんて、考えただけで目眩と寒気が……


「アンタが馬鹿だから、馬鹿って言うしかないのよっ!っ!?」


 ガルの背は大きいが、大人二人が乗ると狭い程度。

 カレンは前方から後ろを向いて抱きつく形で乗っていたが、アンジェリカは後ろから俺に抱きつく形で乗っている。


 耳元で煩いが、眠気覚ましにはちょうど良かった。

 そんな風に考えていると、アンジェリカの気配が変わったことに気付く。


「ん?…これは」

「強い魔物みたいね」


 確かに反応は大きい。まだまだ離れてはいるが。


「進行方向から若干ズレているが……」

「決まっているわ。私たちは冒険者よ?」

「だな」


 反応がある場所へと向かうことに決まった。

 アンジェリカはどんな魔物か分かっているようだが、俺にはまだわからない。


 恐らくだがBランク以上の反応だと思う。


「ガル、わかるな?」


 グルルルッ


『任せろ』

 頼もしいもう一匹の相棒の返事の後、流れゆく景色はその速度を増していった。












「地竜か」


 目的の場所にいたのは、初めてお目に掛かる魔物だ。

 辺りは岩石地帯になっており、視界は悪く足場も悪い。

 それでも魔物の大きさから見失うことはないが。


「成体になりたてのようね」

「確かに、以前二人で倒した翼竜よりも一回り程小さいな」


 アンジェリカとの初顔合わせ。

 それはまさに竜との一戦だった。

 これが龍であれば、運命というものを俺も信じてみたくなるが、名前は似ていても強さは天地ほど異なる。


 ま。一般人にとって、竜も龍も然程変わらないと思うが。


「あの時は…貴方が一人で倒したようなものよ」

「そうか?アンジーの魔法のお陰で大分弱っていたように思うが……まぁ、そういうことにしておこう」


 この手の話題はどちらかが引かないと収拾がつかなくなる。

 俺も学んでいるのだ。

 この白髪の魔法使いの性格を。


「じゃあ、私の獲物ね?」

「それはずるい気もするが…良いだろう。見せてくれ。白髪の魔導師がどれ程強くなったのかを」

「きっとお目に適う筈よ」


 以前のアンジェリカであっても相棒として不満はなかったが、今のアンジェリカはさらに強くなっている…筈。

 それがなくても転移魔法が使えるし、何よりも美味い飯を作れる。


 そんな相棒の評価について俺は既に満足しているが、修行の成果が気になるのも事実。


 岩陰から見える地竜の姿はずんぐりむっくりと言った感じ。

 以前倒した翼竜は首が長かったが、地竜の首は短く、尻尾も同様に短め。

 その代わり、横に大きく、質量だけで言えば変わらないどころか翼竜よりも重そうではある。


 何よりも特徴的なのは、師匠の様に大きな背鰭と硬そうな鱗。

 見た目の防御力だけで言えば、翼竜より上だと感じる。


 そんな地竜を岩陰から見据えるアンジェリカは何を考えているのか。


「素材はどうせ運べないし、気にしなくても良いわよね?」

「ん?…まあ、任せる」


 急に聞かれても答えに詰まるのだが?


「▼■▽▽▼:▽■■・・・・」


 聞いたことのない……いや、似たような音はあるな。


空間転移(トランジション)


 次に聞こえたのは転移魔法のキーワード。

 真横にいたアンジェリカは消え、次に現れたのはなんと竜の頭上だった。


 とっ


 まるでお伽話の天女のように空から舞い降り、静かに竜の頭部へと着地すると、そのまましゃがみ込み竜の首筋へとこれまた優しく触れる。


空間断裂(スペースラプチャー)


 ギリギリ聞き取れたのは、竜がまだアンジェリカの存在に気付いていないので大人しいお陰か。


「なに…?」


 次の瞬間、アンジェリカの姿は消え、竜の頭部も消失していた。


 頭部を失くした竜の体は当たり前のように力無く倒れ、周囲の岩や砂と共に血飛沫を空中へと巻き上げた。


「凄い…な」

「ありがとう。それが聞けただけで、辛い修行(この三年間)が報われたわ」


 ビクッ


 無意識に呟いてしまった賞賛の言葉。

 まさか返事が返ってくるなんて思いもよらず、ましてや真後ろからとは……

 年甲斐もなく驚いてしまったな。


「ビックリしたぞ」


 色んな意味で。


「でしょう?」


 得意満面だ。自信を持っている人は性別問わず、強く綺麗だな。

 コイツは喧しいが、見た目だけは元々綺麗だ。


「この技は卑怯じゃないか?初見だと必殺だろう?無敵だな」


 俺は現実味のないアンジェリカの所業に、興奮を抑えられないまま矢継ぎ早に言葉を紡いだ。


「そんなことはないわ。さっきの魔法で一番苦労したのは、呪文の保持よ。

 理由はわかるわね?」

「ん…ああ、詠唱を保留することで、隙を減らしたわけか」


 最初にぶつぶつと呟いていた呪文が、あの必殺の一撃の魔法か。

 それを保留し、転移して相手に触れてから発動させたと。


 その技術も凄いな。

 しかし、聞けば聞くほどに必殺感は拭えなくなる。


「そうよ。最大限隙を減らしてあれよ。相手が貴方だと、私が首に触れる前に私の首が飛ぶわ。

 そして、もう一つ。

 この魔法の切れ味は魔力差が関係しているの。

 貴方が相手なら、皮膚も傷つけられないような鈍らに成り下がってしまうわね」

「成程な…」


 確かに、それが事実なら、俺には通用しない。

 が、教えたということはリーリャも使えるんだよな……

 益々勝てる気がしなくなってしまった。


「安心して。確かにこの魔法が修行の一番の成果ではあるけれど、これ以外にもまだあるから。

 そっちは…あまり多用したくないから、来る強敵が相手の時に披露することになると思うわ」


 そう言いながら、アンジェリカは空に浮かんでいく。


「え?」


 空に浮かんでいる……


「ちょっ!?おまっ!?え!?飛んでるぞ!?」

「ふふっ。驚いた?これも修行の成果よ。歩くよりもゆっくりとしか飛べないし、集中力も馬鹿にならないから戦いにはあまり役立たないけど、冒険にはきっと役に立つと思うわ」

「そ、そうだな…」


 凄いな……本当に何でも出来る奴だ。

 そんな大魔法使いが仲間で頼もしいが……


「アンジェリカ。非常に言い難いのだが…」


 俺はそっぽを向いて呟く。


「何よ?感動のあまり、私を好きになったとか?」


 何故、感動したら好きになるんだ?

 それはよく分からないが、仲間なので真摯に伝えようと思う。


「下着が丸見えだぞ?」


 アンジェリカはロングスカートを履いている。

 それは俺が履いているズボンと同様に動きやすくて良いと思うが、空を飛べば中が丸見えだった。

 普段スカートで隠れているロングブーツに膝上まである靴下の様なもの、そこまでは恥ずかしくないと思うが、流石に下着はな。



 その日、その岩場は業火に包まれるのであった。


 俺は悪くない。きっと。

 …髪先は焦げたが、許そうと思う。

 俺は悪くないのに。

ロングスカートの上にロングコート(ローブ)も着用しています。


それでも…それでもっ!

下からは丸見えなのです!

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