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悪魔の落とし子  作者: ふたりぼっち
最強の足元
106/114

3-1

 






 アイラには顔を見せたし、残すはニーナ達三人。


 それも昨日終わり、その後俺はスバルの元へと顔を出し、アンジェリカはそのまま三人と遊んでいたと聞いた。


 よって、今日は待ちに待った旅立ちの日・・・となる予定だったのに……


「約束…?」

「そうよ!約束したじゃないっ!」


 はて?

 そんなモノ…記憶にないな……


「すまん。怪我の所為か、全く記憶にない。本当か?」


 隠していても埒が開かない。

 ここは素直に聞くことに決めた。


「はあ……リーリャお姉ちゃんのことを呼び捨てにしていたことを黙っておいてあげた貸しよ。思い出したかしら?」

「…あったな。そんなことも」


 言われるまで忘れていた。

 確かに帝都の目の前(あの時)、そんな約束をしていた。


「わかった。で?どうやって借りを返せばいいんだ?」


 漸く出立出来ると朝から意気込んでいたところにこれだ。

 出鼻を挫かれたわけだが、これは後回しにして忘れていた俺が悪い。


 実際のところ、何でもは無理だが、大抵の願いなら叶えてやれる。


 そんな面持ちでアンジェリカの答えを待つことしばし。


「・・・・・」

「……言えないようなことはやめてくれ」


 この状況で二分も耐えた俺を、俺は褒めたい。

 そして、怖い。

 何を言われるんだか……


「い、言うわ……べ、別に、深い意味はないんだからねっ!?」

「ああ。わかったから、はよ」

「うっ……」


 あのぉ…?日が暮れますよ?


「で、デート!デートするわよ!」

「でえと?」

「そうっ!」


 デートとは、あのデートのことか?

 ん?何故言いづらいのだろう……

 この辺りの機微は本(ジジイ著)にも載っていない。


 というか、あの本は半分以上出鱈目だ。


 結果として遺書みたいなものだから一応全部に目を通したが、為になった話など何一つとしてなかった。


 そしてよくわからないまま、俺達は街へ出ることになった。











「楽しかったわ」


 日没まで後少しという時間に宿へ戻ると、アンジェリカは満足そうにそう呟いていた。


「そうだな。結局よくわからないままだったが、俺も満足した」


 デートとは一体……

 ただ街を散策して、時間が来たら飯を食べただけ。


 まあ、偶にはこんな穏やかな日があってもいいと思う。

 焦って冒険しても、修行しても、良い方へは向かんからな。


「本当っ!?じゃあ、また今度しましょう!」

「あ、ああ」


 何がそんなに楽しかったのか。

 俺は美味い飯が食えて満足だが……


 その飯屋もアンジェリカが決めた店だ。

 何でも、デートにはプランなるものが必要とのこと。


 ん?

 もしかして。


「これもジジイ達がしてきたことなのか?」

「な訳ないでしょ!?馬鹿なの!?」


 相変わらず、他人を煽るのが下手だな。

 俺にアンジェリカを煽るつもりは一切なかったが。


「だよな」


 デートとは、異性と行う何かしら。

 それくらいの知識はちゃんとある。


 だから、腰の短剣から手を離してくれ。













「じゃあ、いくわよ?」


 翌朝。

 宿を出た俺達の姿は王城の中庭にあった。

 街の外でも良かったが、外に出るよりもここの方が近かっただけの話。


「ああ、頼む」

 グルルル……


 ガルから不安そうな声が聞こえる。


 アンジェリカの転移魔法は二回目。

 ここへ来る時に初体験は済ませていた。


 次の目的地は兎に角南。それしか決めていない。


 暫しの静寂の後、俺達の姿は中庭から忽然と消えた。








「お。転移したな。ここはどの辺りだ?」


 見渡す限りの大自然。

 この世界では当たり前の光景だ。

 人の生活圏など、大陸全土から見ればほんの僅かでしかない。


「はあっ…はあっ…はぁ。魔力を七割近く持っていかれたわ……

 王都から大体200キロくらい南下した辺りよ。

 ここからは歩きね」

「わかった。アンジーはガルに乗ってくれ。魔物が出たら俺が対処する」

「そうさせてもらうわ」


 ご覧の通り、転移とは一瞬の出来事。

 それだけに莫大な魔力を消費するようで、リーリャの家からスバルがいる王都まで行くのに、五回もの休息を要した。


 それ程の長距離になると、ガルの背で移動するのと倍も変わらないが、一度の転移で移動可能な距離内であれば別格の速さだ。


 それも一人であればまだ楽らしいが、転移魔法は持ち込む総重量と移動距離に消費魔力が比例すると聞いた。


 つまりアンジェリカの倍程の重さがある俺と、十倍以上のガルを連れてだと、燃費もかなり悪くなる。


 そんな功労者を労い、俺はせっせと自分の足で道なき道を歩く。


 すると・・・


「ん?魔物か」


 視界にはまだ捉えていないものの、魔力探知により存在は丸裸となる。

 反応は極めて小さいが、俺の拙い探知能力ではゴブリンもオークも同じように感じてしまう。


「そうね。山岳地帯周辺の森といえば、フォレストウルフが有名ね。大陸全土に生息しているから過去に探知したモノと相違ないわ」


 注意喚起とも呼べない俺の独り言をアンジェリカが拾い、細かい情報を教えてくれる。


 そうだ。

 コイツは見た目と行動に反して、頼りになる奴だった。

 すっかり変なイメージが付いてしまって、忘れていたな。


 偶に頭を過ぎっていたのだ。

『あれ?どうして昔の俺は、こんな奴を仲間にしたかったのだろう?』と。


 いや、失礼だったな。

 今では寧ろ此方が恐縮してしまう。


 アンジェリカはただ祖父と同じ早乙女流の仲間が欲しかっただけなのに、何故か偉そうにしていたのではないだろうか?


 もし、そうなら少し恥ずかしい。

 過去の俺も、現在の俺も。


「倒しておくか?」

「そうね。こんな所に人が来ることは考えづらいけど、山菜取りにでも来た人が襲われたら嫌だわ」

「わかった」


 やはり、アンジェリカはあの頃のままだ。

 酷く甘い、甘すぎるその性質。


 かなりの頻度で俺とは違う判断を下すが、その判断を聞いて嬉しく思ってしまうのは、俺も甘くなったということだろうか?


 何にしても、今は一人ではない。

 仲間の判断を尊重する為、俺は狼が潜んでいるだろう薮の中へと突っ込んでいった。















 パチパチパチチ……


 乾いた音を立てながら、焚き火に焚べられた枝が燃えていく。

 満天の星空の下、俺達は野営をしているのだ。


「お待たせ」

「ご、豪勢だな…」


 今日の当番は、俺が設営担当でアンジェリカが料理番。

 お気付きだろうか?

 ()()アンジェリカが飯を作ったのだ!


「こ、これくらい…普通よ!普通!」

「そうか…」


 相変わらず煩いが、飯は美味そうだ。

 メインに鶏肉のソテー、主菜にこの辺で採れた山菜の温野菜、やけに時間が掛かったと思えばスープではなくシチューまで付いてきた。


 これが野営の飯なのか?

 感激のあまり、口から涎がこぼれ落ちそうになる。


「美味い…うまいぞ!アンジー!」

「そ、そう?大袈裟ね。でも、良かったわ」


 見た目だけの飯なんてザラにある。

 そう思い、恐る恐る口へ運ぶが、想定以上の味に武者震いが止まらない。


「なんだ。飯作れるんじゃないか。最初から作ってくれたら良かったんだぞ?」


 以前は作れないなんて言っていたが、アレは俺が作るような野性味溢れる料理は、という意味だったのか。


「作れなかったのは本当よ。リーリャお姉ちゃんの所で覚えたの。貴方なら言わなくてもわかるでしょう?」

「ああ…そうだったな…」


 リーリャは確かに俺達の師でもあるが、アレの本質は生粋のお姫様だ。

 魔法を教えてくれたのも半分以上気まぐれなのだろう。


 そんなリーリャは放っておくと家事をしなくなる。

 なんなら食べる事すらも。


 俺やアンジェリカが居なかった時は、恐らく定期的にエルフ達が世話をする為に訪ねていたのだろう。


 それくらい、リーリャは物臭なのだ。


 結果、あそこにいる限り、必然的にリーリャの世話をしなくてはならなくなる。

 俺は元々自分のことは自分でしてきたから問題なく熟せた。


 そんなリーリャが唯一文句を言ってきた(煩かった)のは飲食に関して。


 やれ、『今日の茶は蒸しが足りなくて美味しくないわ』とか、『貴方の味付けは塩味が強すぎるのよ』だとか。


 お陰で絶妙な味付けが出来るようにはなったが。


 俺でこれなのだ。

 自活出来ないアンジェリカはさぞ苦労したことだろう。


「大変だったな…」


 そんなアンジェリカへ、唯一の理解者として労いの言葉を掛ける。


「そう?私は花嫁修行になるからって、お姉ちゃんから家事の得意なエルフさんを紹介してもらって、半年くらい学ばせて貰っただけよ?」


 やはり、俺の扱いとは大違いのようだ。


「そうか。というか、花嫁修行ってなんだ?アンジーの故郷では、婚姻を結ぶのに修行が必要なのか?

 そも、アンジーにはそんな相手がいたんだな」

「え?ちょっ!?ち、違うのっ!!」

「いやいや、照れるなよ。そうか、婚約者がいるんだな。おめでとう?で、あっているか?」


 どんな世界にも修行があるとは聞いていたが、まさか嫁になる為の修行まであるとはな。

 世界にはまだまだ知らないことが沢山あるな。


「だからー!違うんだってぇ!」

「いいから、いいから。俺たちの仲だろう?素直になって、祝わせてくれよ」


 仲間の慶事。

 これを祝わずして、何が仲間と呼べるものか。



 時刻は深夜。早々に休みたい時間ではあるが、ここから更に夜更かしすることになるとは、この時の俺には予想外の出来事であった。


 違うなら、紛らわしいこと言うなよ……

前置きが長くなりましたが、漸く冒険が始まります。

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