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悪魔の落とし子  作者: ふたりぼっち
最強の足元
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2-END

 






「何故、此奴がここにいるのだ…」


 木漏れ日が差す、深緑の大地。

 今日も平穏な筈のその場所には剣呑な空気が漂っていた。


「何だ?お前、師匠と顔見知りだったのか?」

「師匠…だと?貴様、此奴が何者か知らないのか?」

「龍って意味(こと)か?それなら知っているぞ」


 現存する唯一の龍族であり、この世界最強の男アークベルト・ラグ・ドラゴニア。

 そんな蛇男は受け答えする俺へ向けて、まるで不審人物でも見るかのような視線を寄越してきた。


 全くもって失礼な蛇だ。


「ん?君、何処かで見た気がするね……忘れちゃった。どうでもいいけど」

「な、なんだとっ!?」


 剣呑な空気…(片側からだけだが)は更に濃さを増した。

 ここでこの二人が暴れたら、リーリャから怒られてしまう。

 常識の違う師匠を怒ることは多分ないだろうから、俺と蛇男が。


「ちょっと待て。落ち着け。いつもと逆になっているぞ?」


 普段、煽るのはこの男の方。

 コイツが冷静さを取り戻せば、リーリャからの折檻は免れる。


「何があったんだ?二人は知り合いなのか?」


 師匠と話しても埒が明かない。

 師匠の会話は常に一方通行だからな。

 故に、龍族の男に話しかける。


「…以前…数百年前に、一度だけ」

「会ったのか」

「殺されかけた」


 ダメだ。本当にいつもと逆じゃねーか。


「ああ…あの時逃しちゃった餌か」

「なんだとっ!?」

「落ち着け、落ち着け!」


 ダメだ…今はこの男に同情してしまう自分がいる。

 このままだと止められない……


「来るのが遅いと思えば…こんなところで油を売っていたのね」


 不意に聞こえる澄んだ声。

 救いの手…というか、俺の恐れる元凶がやって来た。








「なるほどね。でも仕方ないわ。この魔導具で測った結果が280,000よ?神域の森の私でも勝てるか怪しいもの」


 リーリャの家に入っても未だピリピリとした空気を醸し出すものの、アークベルトは静かに椅子へ腰を下ろした。


 師匠とガルとカレンは外で洗濯物をしている。

 正確にはカレンの初仕事で、二匹は見学という名の邪魔をしていることだろう。


 リビングには所謂誕生日席と呼ばれる上座にリーリャが、その左右に俺とアークベルト、俺の横にアンジェリカが座っている。

 アンジェリカもアークベルトとは面識があるようで、二、三、軽口を交わしていた。


 そんなアークベルトだが、既に魔力測定は終わっている。


「俺が140,000だと?何かの間違いだろう」

「それを言ったら私なんて125,000よ?この魔導具は正しいと思うわ」


 流石最強と次点。

 魔力量だけで見ても俺とはかなりの差がある。

 そして師匠曰く、この差を埋めることは難しいようだ。


 ま。この二人はこの二人で奥の手をいくつも隠し持っているのだろうし、俺も力技ではなく技術的な方面から最強までの道のりをアプローチしようと考えている。


「でも、リーリャお姉ちゃんもアークベルトさんも、魔力値が二人よりも高い黒龍ですら単独で倒せるのですよね?

 奥の手というか、何か秘訣があるのですか?」


 ナイス!アンジェリカ!

 俺が聞けない…もとい、俺が聞いても教えてくれないことを簡単に聞いてくれたなっ!


「私は神域の森であれば楽勝ね」

「馬鹿いうな。そんなものに頼らなくとも、長耳なら勝てるだろうが」

「は?何勝手に他人の秘密をバラそうとしているのかしら?頭の中も鱗で詰まってんじゃないの?」


 成程な……

 やはり魔力だけでは計れない何かがあるんだな。


「えっと…アークベルトさんの方は?」


 凄い。この空気の中、よくズバズバと聞けるものだ……

 俺なんかアークベルト相手だと知りたくても聞けないぞ。無駄にプライドが邪魔をしてな。


「俺は……」


 言い淀むアークベルトに対し、リーリャが厭らしい笑みを浮かべる。


「この陰気な蛇男にはとっておきがあるの。それこそ、私が神域の森から力を借りたとして敵わない程の『黙れ、好色ババア』…今なんつった?あぁんっ!?このカナヘビ野郎がっ!」


 なに…?

 つまり、アークベルトにも魔力を高められる奥の手があるのか?


 ・・・それよりも。現在(いま)を生きる俺たちにとっては現在(いま)が何よりも大切。


「アンジェリカ。俺達には用事があった筈だよな?」

「・・?……!!アレねっ!アレっ!」


 普段空気の読めないアンジェリカであっても、この時ばかりはすぐに気付いてくれたのであった。
















「じゃあ、行ってくる」


 この旅に明確な目的はない。

 これまでもそうだったから、何も変わらないと言えばそれまでだが。


 そんな目的のない旅の中でも、願わくば程度の目的はあった。

 その一つは、俺が倒し損ねた悪魔ナギッシュ。いつか見つけた時にはこの手で倒したいと願うのは、アイツに共感出来る部分があるからか。

 他の悪魔達同様に、アークベルトが瞬殺する未来を出来ることなら避けたいと願うのは俺のエゴなのだろうか。


 わからないが、なるようにしかならないのが現実。

 少なくとも、倒さなければならない敵であることがわかっていればいいだろう。


「ご主人様……」


 リーリャの家の前で出立の時を迎え、カレンが今にも泣き出しそうだ。


「今からはリーリャ姉が主人だ。だが、カレンは奴隷ではない。これはあくまでも主従関係の一つ。

 ここの暮らしが嫌になれば、師匠に頼んでいつでも好きなところへ行けばいいからな」


 旅立ちの前、何度も伝えた言葉をまたも紡ぐ。

 ここまで念を押さないと、カレンにこの言葉の本気度が伝わらないという心配があるからだ。


「ご心配下さり、ありがとうございます…ですが、私はここでいつまでもお帰りをお待ちしております……ご主人様は…私の救世主様でもあるのですから…」


 うっ、うぅ…


 遂には泣き出してしまった。

 後ろ髪を引かれるとはこのことか。

 まるで子を残し旅に出る父親の気分だ。


 俺に親はいないから知らんが。


「カイコ。タイミングはわかっているよね?」

「ああ」

「そ。僕からはそれだけ」


 師匠からは意味深な言葉を貰う。

 決して見送りの言葉ではないが……

 まあ、この旅が仮に十年以上続いたとて、師匠からすればあっという間の出来事なのだから仕方ないが。


「出来たら来年中には顔を見せなさい。その時までに、魔力測定の魔導具を再現しておくわ」

「ありがとう。行ってくる」

「ええ。アンジェリカを傷物にしない様にね?」


 アンジェリカは魔法使い。立ち位置としては後方支援となるだろう。

 そのアンジェリカが傷付くということは、俺も無事ではない。

 そうならないことを願うばかりだ。


 ん?


「り、り、り、リーリャお姉ちゃんっ!?な、何言ってるのっ!?」

「抜け駆けですかっ!?約束と違いますっ!!」

「驚くということは、満更でもないってことね。頑張りなさい、カイコ」


 なんの話だ……

 というか、また話が盛り上がって(俺を除く)出立が遅れてしまう……


「アンジェリカ」

「な、なにっ!?」

「何故挙動不審になるんだよ…」


 名前を呼んだだけだぞ?

 これだと、出会った頃と大差ないぞ。


「転移してくれ」

「あ!…うん」


 アンジェリカの集中と魔力の揺らめき。

 そして、言の葉の後。


「じゃあな」


 ガルを含む俺達の姿は、忽然と森から消えるのであった。

初期の頃は常識のない蚕でしたが、周り(主にアイラやニーナ、王宮の書物など)のお陰でいつの間にか立派な常識人となっています。


基本、出る杭は打たれるのが世の常ですが、幸いにも蚕の周りはいつも本人よりも強い人達でいっぱいでした。

杭が出る間もないというわけです。


その点…最強の二人は出っ放しですが……

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