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「陸は今大学生やってんの?」と萌は地面に目を向けながら聞く。

陸「あぁ、萌はそのスーツ姿だと社会人か?」

スーツをちらっと見て陸もまた視線を地面に戻す。

萌「まぁね…」


陸「家帰ってないの?

  あ…いや…萌のこと見かけないから」

萌「そうなの…高校2年の途中から

  別のとこで暮らしてて…」

陸「そうだったんだ…じゃ、もしかして知らない?」

萌「知らないって何が?」

陸は言おうか迷ったが「お前のお父さんが捕まったこと…」

萌「!?…」

陸「酒飲んで酔っ払ってトラブル起こしたらしい…」


黙って聞いていた萌だが、しばらくして口を開いた。

萌「そうだったんだ…全然家帰ってなかったから

  知らなかった………でもあたしにはもう

  関係のないことだから…」

いつかそうなる気がしたよ…と萌は心の中で思った。


拓真「そっか…そうだよな…

   余計なこと言っちゃったな」

萌は「ううん…全然。

   教えてくれてありがとう」

「じゃ、ここで!」そう言って2人は別れる。

陸「じゃぁな!久々に会えて嬉しかったよ」

萌「あたしも!陸も元気そうでよかった」

2人は別々の方向に歩き出す。


じゃ、家には今誰もいないんだ…

物心ついた頃から母親のいない萌は

父親と2人だけで暮らしてきた。

その父親はかなりの酒豪だ。

ただのお酒好きならいいのだが

そうじゃない。たちが悪いのだ。


後ろから走ってくる足音が聞こえてくる。

陸が萌を追いかけてきていた。

萌「陸!?どうしたの?何か忘れ物?」

はぁッ、はぁッ、陸は呼吸を整えながら

「いや…そうじゃなくて…」陸は何かを言いたそうだ。

「あ…あのさ…ごめん!」陸は意を決して口を開く。

萌「?」

頭を下げる陸を見て萌の頭の中はハテナマークが

浮かぶ。?…あたし陸とけんかでもしたっけ?


陸「守ってやれなくて…」

萌「え?」

陸「お前の家の事情、知ってるのに

  何もできなくて…何の力にもなってやれなくて…」

萌「顔あげてよ!ね?」

萌にそう言われ顔をあげた拓真に

「別に陸が謝ることじゃないでしょ?

 陸は何も悪いことしてない。

 中学と高校は別々だったし、家が近所ってだけで…」

陸「だからこそ…ずっと近くで見てきたからこそ

  できたことがあるかもしれないって…」

萌「だからもういいって!

  あたし今幸せだから」

陸「分かるよ!お前のその顔を見れば分かる」

萌「顔に出ちゃってた?」

陸「あぁ!」お互いに笑い合う。


萌「じゃ、あたし行くね!」 

振り返って前を向いて歩くその背中が

見えなくなるまで陸はその場にいた。

元気そうでよかったよ…誰がお前を変えてくれたんだ?

そいつを知りたいとこだけど、

近くにいて何もできなかった俺に知る資格はないか…

陸もまたスーパーの袋を掲げながら

萌とは反対方向に向かって歩を進める。




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