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08: 王都(side アーサー)

強い日差しが降り注ぎ、アーサー達一行を照らしていた。


ウィンター領の馬車らしい荘厳な馬車の中で、これから向かう王都について他3名が楽しそうに話していた。アーサー唯一人(ただひとり)が憂鬱な気分だ。


数週間前の立食会でラナを引きずって行った、大食らいの少女がうきうきした様子で語る。



「実は私王都観光って初めてで、凄く楽しみにしてるんですよね!特に昼食!」



彼女の専らの好奇心の的はやはり食べ物にあるらしい。シャヤと名乗った少女は平民らしからぬ気品のある態度で席に腰掛けていた。身なりも整えられており、貴族と言われれば疑うものはいないだろう。



「それにしてはシャヤ譲は貴族らしい振る舞いを存じているようですね。」



ウィングが指摘すると、えへへっと嬉しそうに笑ったシャヤはラナを一度みてから言った。



「私、実はウィンター卿とは長い付き合いで、立場上色々と公式の場に同行させてもらう機会を頂いてるんです。」



立場上とは何だろうと気にもなったが、深くは追及しないことにした。



「それで、今日はどちらに向かう予定なんですか?」



とニコニコとウィングが尋ねると、うきうきとした気持ちが顔前面に張り付けられたラナが少し考えるそぶりをしながら答えた。



「今日は3カ所向かう予定です。一カ所目がウィンター家御用達の呉服店。少し先の年始祭用に服をあしらえようと思ってます。」



数か月先を少し先というとはかなり気が早い。



「時期に遅れると、流行りの衣服が無くなってしまうので。」



アーサーの表情を読んだのか、こちらに向かってニコリと微笑みながらラナが言った。「年始祭ですか?」とウィングが少し不思議そうに尋ねた。



「ウィンター家からは今年は伯爵様しかいらっしゃらないと父が言っていましたが、ウィンター卿もいらっしゃるのですか?」



あ、いえとラナが慌てて弁明する。



「公式の場には出席しない予定なんですけど、王都まではついていく予定です。もしかしたら城内で知り合いが出来るかもしれないという父上の計らいで。少しは顔を覚えてもらう方が良いだろうとおっしゃっていました。」



なるほど、とウィングが相槌を打つ。



「それで、2つ目の目的地が雑貨店です。流行の装飾なんかも扱っていて、この後の帰省に備えて父上への手土産と、年始祭の装飾品なんかをここで買おうと思ってます。」


「アーサーさんとウィングさんは年始祭は出られるご予定は無いんですか?」



とシャヤが尋ねるとアーサーに代わりウィングが答える。



「我々の家紋は王家から年始祭に王家から直々に招待されるほど大きな家紋では無いんです。なので、出ると言っても王都で年始祭を迎える程度です。」



そうなんですねぇと相槌を打つシャヤとは別に、その返答を待ってたかと言わんばかりにラナが反応した。



「それなら、一緒に服を選びましょう!城内でないとはいえど、時期貴族位の者が多く集まる時期ですから、正装は必要です。特に今年は流行の衰退が著しいですから、誂えて損はありません!」



実際には王族であるアーサーには由緒正しき正装があり、年始祭用に服を誂える必要などないのだが、城内を抜けだすことを視野に入れていたアーサーは、今見繕っておくのも悪くないなと考えた。



そうこうする内に馬車は山道を抜け、野原を抜け、徐々に人気のある街道に入った。


王都の入り口である大きな門戸が目前に迫り、ラナが身分証を取り出した。


重たい甲冑の衛兵が馬車の前に立ち止まり、「身分証を拝見します。」と手を延ばす。ラナが慣れた所作で自分の身分証を衛兵に渡す。



「ラナ・レ・ウィンター卿御一行様ですね。拝見致しました。どうぞお通り下さい。」



――ウィンター家にミドルネームなどあっただろうか?




この国ではミドルネームは特別な功績を認める称号の様なものである。


普通は個人に対し、王家からミドルネームが授けられるのだが、稀に家紋そのものを讃えミドルネームが子孫にも受け継がれることがある。

だが、王子であるアーサーの記憶にウィンター家にミドルネームが与えられたという話は知らない。




衛兵の言葉に王都の門戸が開かれる。色とりどりの賑やかな街の光景が一行を迎えた。


シャヤとウィングがキラキラと目を輝かせ、街の風景に見入る。


王子であるアーサーには見知った光景だが、初めて見る人の目には街を歩く華やかな人々が新鮮に映るのだろう。


窮屈な街中を馬車がゆっくりと歩を進める。珍しい辺境伯の家紋の馬車に人々がちらちらとこちらを見ていた。ラナは人々の視線に動じることなく凛としたたたずまいで座っていた。




華やかな街中でも一際目立つ、金の装飾があしらわれた大きな建物の前で馬車が足を止めた。


見覚えのある制服の男性がこちらに近づき馬車の扉をノックした。ラナが扉の鍵を開け、2度ノックで返すと、渋い音を立てながら職員の男性が馬車の扉を開き一礼した。


顔を上げ、こちらをぐるりと見渡す。見知った顔がアーサーの目をじっと見た。くいと顎を挙げて合図すると、男性はニコリと微笑んだ。



「ウィンター様御一行ですね。ようこそおいでくださいました。ご予約承っておりますので、どうぞ中へお入りください。」



男性がすっと身を引くと、アーサーとウィングが軽やかな身のこなしで馬車を降りる。


続いてラナが立ち上がるのを確認し、アーサーがいつもの調子ですっと手を差し伸べると、ラナは驚いたようにこちらを見た。


ラナは少し困ったように笑うと、ぎこちない手つきでアーサーの手を取り馬車を降りた。

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