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06: 立食会にて(side ラナ)☆☆♢

その後は一瞬だった。


速度と正確さの両方を備えるアーサーの光魔法は隙が無く、イーの攻撃を(ことごと)く粉砕し、鉄柱の嵐を降らして見せた。


最初は激昂していたイーも次第に体力がそがれ、遂には墜落した。


もう一人の仲間についても既に制圧済みらしく、近くの木に縛り付けているらしい。アーサーは優しくラナを抱き起すと、ボロボロのイーから乱暴に杖を奪った。



「ラナが取った杖と併せてこれで10本目か。まぁ、及第点だろう。」



アーサーが肩をすくめながら言う。10本は十分な数だと思うが、アーサーの中では及第点らしい。



「あの、ありがとうございました。」



ラナは酷く反省した。イーに負けたことよりも、アーサーの実力を見誤ったことがラナはショックだった。


けれど、アーサー本人はあまり気にしてないらしく、「一戦、勝っただけだろう?ラナの勝利の数に比べれば少ないもんだ。」と飄々としていた。



「取りあえず、本部に戻るか?ラナの手当てもあるし。」



そう言って軽々とラナを担ぐと、アーサーは先生達のいる本部に足を進めた。



**************************************



その後、およそ5時間にわたる実技訓練は何事もなく終了を迎えた。

この日最高成績を収めたウィング、ローザペアには学長から食堂のアフタヌーンティーセットが送られた。


参加者は皆、一時間後中庭で開かれる立食会を楽しみに解散した。



立食会には実技訓練に参加した総勢140名の生徒ほとんどが参加していた。


会場は賑わい、笑顔であふれいた。


ラナは友人のシャヤと色々なテーブルを転々としていた。どのテーブルにも豪勢なご馳走が並び、目移りする。


シャヤはクラス内でも大食い女王で有名で、目についた物全てを口に頬りこむ勢いだ。



「よく食べるなぁ。」



とラナが感心する。「食べることは生きることだからね!」など返答にならない回答をシャヤは披露した。


ラナははははと笑うと、それだけで沢山の食料が小さなお腹に入る理由にはならないなぁと心の中で呟いた。勿論口には出していない。


シャヤは口の中を消費しきらないまま、もごもごと喋った。



「そう言えば、ウィング先輩とローザ先輩凄かったね。何が凄いって、3回生と2回生の首席ペアなんて、もう手加減なしだよ。絶対優勝は譲らないって気概を感じるね!」



それはラナも少し思うところではあった。だがやはり優秀が故に同じ目線の人と組みたかったのだろう。ラナは仕方ないよとシャヤに返す。



「そういえば、結局シャヤはどの先輩と組んだの?」



「私?私はね。リーシャさんだよ。ほらあの透視魔術が得意な先輩。透視出来たら誰がどこにいるかとか戦況把握がしやすいでしょう?事を進めやすいかなと思って。私の得意な射撃と相性もいいし。」



確かに良い人選だ。リーシャ先輩の場合透視魔術を他人に譲渡出来るため、シャヤと組めば怖いものなしだろう。勿論、相手が相当な手練れでなければの話だが。



「そういうラナは誰と組んだの?」


「…?私はアーサー先輩だよ。」


「アーサーさん?あの金髪の王子様と同じ名前の?へぇ~、意外だなぁ。特に目立った戦績とかも聞いたこと無いけど…」


ラナの戦略って時々分からないなぁとシャヤは言う。


「そ、そんなことないよ。近接戦闘に関してはトップの成績みたいだし、何より…」



言いかけて、光魔法のことを口にしてもいいものかラナは少し思案した。授業で披露しないということは何か理由があって隠しているのかもしれない。


ついつい口籠ると、「と、とにかく本当に凄い人だよ!」と適当にはぐらかした。シャヤは「へぇ~」と煮え切らないという顔をした。



「お、噂をすれば」



シャヤがくいっと顎を上げる。視線の先を見るとアーサーがこちらに歩いてきているところだった。シャヤの前では光魔法について聞きづらいと判断したラナは「少し行ってくるね」とシャヤに別れを告げた。



少し歩くと、こちらに気づいたらしいアーサーが手を挙げた。つられてラナが軽く会釈する。


「怪我、大丈夫だったか?」


心配そうにこちらをじっと伺うアーサーに手をわたわたさせながら、問題ないですと笑って見せた。


今日初めて会った初対面同然だというのに、アーサーを前にラナは少しだけドキドキした。


異性の年上を相手に少しだけ緊張しているのかもしれない。ラナはそう自分に言い聞かせた。



「先輩はどうしてエスカラントに入学したんですか?」



ラナは気になっていたことを質問した。


あれだけ光魔法を使えるのだから、わざわざエスカラントに入学する必要は無かったのではないか。加えて、あの身体能力だ。魔術方面だけではなく他の分野にもその才能を活かせたはずだ。


その質問にアーサーは少し困ったように頭をかくと、「ありきたりな話だけど」と前置きをし、遠くを眺めた。



「風龍の魔女に会いたかったんだ。どうしても。一目彼女に会ってみたかったんだ。」



遠くを眺め、懐かしむようにアーサーは目を細めた。


風がアーサーの黒髪をさらい紅玉(ルビー)の瞳がキラキラと光る。


ラナはアーサーから目が離せなくなった。トクトクと心臓が大きな音を立ててなる。


アーサーの耳に届いていやしないかと心配で、ぎゅっと胸を強くつかんだ。ここに来る前にウィンター伯から言われた一言を何度も反芻した。



「アーサー先輩。実は、その…」



遠くの景色から視線を戻したアーサーが優しい顔でこちらを向いた。ラナはゴクリと唾を飲み込む。緊張で喉が渇いた。それでも、タイミングはここしかないとアーサーの紅玉(ルビー)の瞳をしかと見据え、ゆっくり口を開いた。



「私と、、、こ、婚約してもらえませんか?」



緊張のあまり、普段よりも少し大きな声が出た。周りで談笑していた人々がギョッとこちらを振り返る。しまったと思うも、もう取り返しはつかない。思い切ってラナはもう一度声を上げた。



「婚約してください!」



アーサーのギョッとした顔が目に映った。


出会って早々、こんなことを言って引かれたかもしれない。ラナは自分の失敗を認め俯いた。


次第に居た堪れない気持ちになってぎゅっと目をつむる。顔に血が上り、ふわふわした。


すぐ後ろに追いかけ来ていたシャクヤは驚きの余り皿を落とした。パリーンという皿の音が静寂になった会場内にこだまする。



――ラナが必死になってアーサーさんを持ち上げていた理由はこれか。


シャクヤが一人、勝手に納得したことをラナは知らない。

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