5 一位
「おはよー、飛真理ちゃん」
「あっ、おはようございます。雪奈ちゃんと由雷くんはさすがのランクXですね。お二人ともただ者でないのは分かってましたけど」
「えへへ、ありがとう。でも飛真理ちゃんもランクS7で三位だね」
雪奈は褒めたつもりだったが、飛真理の表情は変わらない。
いや、かすかに悲しげに見える。
「はい、想定通りです。・・・一位を目指して努力し続けましたが、私の限界はここまでのようです」
「えっ、いやそんな限界なんて大げさな・・・」
何と声をかけたらいいか戸惑う雪奈。
そんな雪奈を見て、飛真理が微笑む。
「ああ、すみません気にしないでください。私のことより・・・」
飛真理が由雷を指さす。
「彼の方を気遣ってあげてください。一位になると確信していたショックが大きいようですから」
「え、私と同率のランクXじゃないの?左側に私の名前があるのは五十音順で数えてるだけでしょ」
飛真理は首を横に振り、クラス分け表を指さす。
「他のランクは五十音順じゃないですし、私も能力順に表記されると聞いたことがあります」
「ええ、そうなの?」
雪奈はチラリと由雷の方を見る。
たしかにいつもより覇気がない気がする。
おそるおそる由雷に声をかけてみる。
「あのー、由雷くん、元気?」
「・・・ああ、雪奈ちゃん。元気だけどどうしたの」
「いやー、どうしたというわけじゃないんだけど・・・」
気まずそうな雪奈を見て、何かを察した様子の来夢。
「なるほど、僕が二位でショックを受けてると思って、慰めようとしてるんだね。でも大丈夫。昨日も言ったように、僕は冷静な男だ。事実を受け止めた上で、さらに成長していけばいいのさ」
強がりもあるだろうが、ウソは言っていないようだ。
ただ、雪奈には納得できないことがあった。
――昨日の測定のやり方じゃ、細かい順位とかつけられなくない?よし!
近くに先生がいるのを見つけ、雪奈は由雷の腕をつかむ。
「な、何?」
「いいから、いいから」
雪奈は由雷を引っ張り、先生のところに行く。
「先生、質問があります。このランクづけですけど、左に書かれてる人ほど順位が高いんですか?」
「基本的にはそうですね。ですがランクXの二人に関しては順位ではなく五十音順で並べたと聞いています」
先生の言葉を聞いて、由雷の目に光が戻る。
さらに先生は説明を続ける。
「正直ランクXの能力者はモデルが少なすぎて、細かく順位づけする方法が確立できていないんです。ランクXが二人というのは学校初なので異例ですが、今回は二人が同率一位だったと認識してもらって大丈夫です」
由雷の目がいつもと同じ、いやいつも以上に輝く。
「ふっ、そんなところだろうとは思っていた。この僕が負けるわけないからね」
急に元気になった由雷を見て苦笑しながら、雪奈も反論する。
「いやいや、同率一位なんだよ。私だって負けてないから」
「なるほど、そういう考え方もあるね。でも一位の座はそう簡単に譲らないよ」
「だから私も一位なんだって!」
わちゃわちゃする二人を見て、飛真理はうれしいような悲しいような表情を浮かべる。
「いいですね二人とも。私にもあと少し才能があれば・・・」
飛真理はこぶしをぎゅっと握る。
生徒たちは、自分が振り分けられたクラスに向かっていく。
雪奈たち三人は一組に入り、座席表を確認する。
座席は五十音順で並べられており、 雪奈と飛真理は前側の席、由雷は一番後ろの席だった。
ガラッ!
部屋の扉が開く。
先生が中に入ってきて、教卓につく。
「みなさん、初めまして。私が一組の担任を務めさせていただく、本藤 優(ほんどう
すぐる)と申します」
深々と礼をする先生。
「私は担任として一年間、あなたたちを支えていきます。授業にはそれぞれ担当の先生がいますが、能力の授業は私が行います」
一人の生徒が手を挙げる。
「質問です。能力って個人差が大きいと思うんですけど、どうやって先生一人で教えるんですか?」
「いい質問です。授業では主に能力を使った実技を行います。個人の基礎能力を鍛えることはできませんが、習得済の能力の応用法であれば、私でも指導することができます」
「なるほど、では基礎能力は自分で勉強するしかないんですね?」
うなずく先生。
「はい、残念ながら能力は個人の素質による部分が大きいです。私の能力と同系統の生徒に関しては、少しは力になれるかもしれませんが、基本的には難しいですね」
「分かりました」
生徒が手を下ろす。
「では、他に質問がないようでしたら、さっそくホームルームを始めたいと思います」
先生がボードマーカーを握る。
ついに本格的に中学生活が始まった。
なんやかんや色々とあっての放課後
帰り道が途中まで同じなので、雪奈たち三人は一緒に帰ることになった。
「うーん、疲れた!早く帰ろ」
伸びをする雪奈の横で、由雷がワナワナと手を震わせている。
「なぜ、なぜ僕が委員長じゃないんだ・・・!」
「まぁ、妥当な結果ですね」
少しだけドヤ顔をする飛真理。
飛真理と由雷が委員長に立候補したのだが、厳正な投票の結果、飛真理が委員長、由雷が副委員長となった。
「ふっ、だがすぐに僕は委員長の座にふさわしい男になる。それまでほんの少しの辛抱だ・・・!」
「いや、委員長は一年は変わらないけどね」
雪奈のつっこみは、由雷の耳には届いていないようだ。
「そういえば昨日の男って、まだ目を覚ましてないのかな?」
雪奈の言葉に飛真理がうなずく。
「連絡がないのでそうでしょうね。ただ、警察が身元調査をしているとのことなので、そろそろ連絡があるかもしれません」
「そっか、何か進展があるといいけどね」
雪奈たちが話していると、前方から男の子が歩いてくる。
年齢は小学生・・・いやそれ以下かもしれない。
「うぇーん、ここどこ?ママはどこ?」
泣きながら、母親を呼んでいる。
どうやら迷子になってしまったようだ。
とっさかけよろうとする雪奈の手を、飛真理がつかむ。
「雪奈ちゃん、子供に突然かけよると怖がらせてしまいます。少し離れたところから、声をかけるのがセオリーです」
「へー、初耳。分かったよ」
雪奈は少し距離をとってから、男の子に声をかける。
「どうしたのボク?迷子になっちゃったのかな?」
「うっ、ぐすん・・・ママ?」
男の子が顔を上げて雪奈の方を見る。
「・・・ママじゃない。ママ、ママ、どこにいるの!」
ドドン!
男の子が叫んだ瞬間、すさまじい衝撃音が辺りに響きわたる。