4 生命エネルギー
病院の待合室には、雪奈と由雷、そして飛真理が呼んだ警察官の人たちがいる。
しばらくして、飛真理が病室から出てくる。
雪奈は彼女にかけよる。
「飛真理ちゃん、大丈夫⁉」
「心配ないです。ちゃんと落下直前に速度を落としましたし、普段から鍛えてるので」
飛真理は空手のポーズをとる。
由雷も少し心配している様子。
「本当に大丈夫かい?無理はしないでくれよ」
「ちゃんと精密検査を受けて異常なかったので、大丈夫ですよ」
その言葉を聞いてほっとした様子の由雷。
雪奈も胸をなでおろす。
「本当に良かった。ごめん、私がもっと上手くやってたら・・・」
「いえ、明らかに私のミスですから。それより。あの男はどうなりました?」
「ああ、あの人はね」
検査室を指さす雪奈。
「暴れないよう厳重に拘束して、今検査してるところ。由雷くんがキレイに気絶させてくれたから、命に別状はないみたい」
「ふっ、僕にかかれば、あれくらい動作もないさ」
由雷が髪をかき上げる。
雪奈は頭を下げる。
「本当にごめん。私、みねうちが苦手で・・・」
「君の能力だとみねうちは難しいよ。電撃で傷つけないよう気絶させるのは割と簡単だからね」
意外と謙虚なことを言う由雷。
雪奈は顔を上げる。
「由雷くんってナルシストかと思ってたけど、意外と冷静なところもあるんだね・・・あ」
うっかり本音を言ってしまってから、雪奈は口を手で覆う。
だが由雷は、まったく気にしていない様子。
「気にしなくていい、事実だからね。僕はたしかにナルシストだが、物事を冷静に考えることもできる。いやむしろ、それができるからこそ自惚れてしまうんだろうね」
自分で言って、うんうんとうなずく由雷。
雪奈は苦笑する。
「由雷くんって面白いね」
飛真理は彼のナルシストさに少し引いている様子だが、それでも頭を下げる。
「由雷くんのおかげで助かりました。あなたがいなかったら私は無事ではなかったかもしれませんから」
「いいんだよ。僕の力が世界平和のために少しでも役立ったなら、それでいい」
いちいち言うことが大げさな由雷。
ガラッ!
検査室の扉が開き、ドクターが出てくる。
「ああ、君たちがこの人を捕まえた子たちだね。検査は終わったんだが、聞きたいことがいくつか・・・ちょっといいかい?」
ドクターが雪奈たちに声をかける。
警察官の一人がこちらにやってくる。
「私も一緒にお話しを聞かせていただいても?捜査のために情報が必要なので」
「ああ、もちろん。ではこちらに」
ドクターの指示に従い、雪奈たちは別室に移動する。
部屋の中央には広めのテーブルがあり、そのイスに座る雪奈たち。
ドクターが口を開く。
「まず彼を検査した結果だが、命に別状はなさそうだ。少なくとも電撃によるダメージなどは大したことない」
「では異常なしということですか?」
警察官が確認する。
「抵抗力が少し落ちているくらいで、数値に大きな異常は見られない・・・と最初は思った。だが何度か検査すると、生命エネルギーの数値に異変があることが分かったんだ」
「生命エネルギーは能力の源ですよね。あれは個人差はあっても、大きく変化することはないはず。一体どんな異変があったんですか?」
飛真理が尋ねる。
「検査のたびに数値が大きく変わるんだ。たしかに数値には個人差があるから、異常値ということもできないが、こんなに不安定な患者は見たことがない」
やれやれと首を振るドクター。
警察官が口を開く。
「彼は高ランクの能力者だろうと聞いたのですが、そのことが関係している可能性は?」
ドクターは首を横に振る。
「能力についてはまだ未解明の部分もあるから無関係とまでは言えない。ただ基本的に、弱っているとき生命エネルギーが低下することはあっても、このように数値が乱高下することはないとされているな」
「そうですか、分かりました」
ドクターの話を、警察官は手帳に書き留める。
「だが、とりあえず様態は安定しているようだ。極度の疲労で今は眠っているが、目覚めたら話も聞けるだろう。そのときは警察に連絡するよ」
そう言ってドクターは自分の肩をトントンとたたく。
「君たちも疲れただろう。帰ってゆっくり休むといい」
「ありがとうございます」
雪奈たちは頭を下げる。
部屋を出て少しだけ警察官と話した後、病院を出る。
雪奈はうーんと伸びをする。
「ああ疲れた。結局よく分からない事件だったけど、今できることもないし、今日は帰ろっか」
「まぁ・・・そうですね」
飛真理は何か考えている様子。
「頭と体を休めることは、パフォーマンスに直結するからね。僕も帰って休息をとるとしよう。では二人とも、サラバ!」
由雷は手を振り、嵐のように走り去っていく。
「はは、あの子は元気だね。おっと、私もやりたいゲームがあるんだった。じゃね、またね!」
「はい、ではまた明日」
雪奈は飛真理に手を振り、家に向かって走る。
事件に遭ったと警察から聞いた家族が心配していたが、ケガなどの被害を受けていないことを確認したら、安心したようだ。
タッタッタッ!
自分の部屋に向かい、雪奈は勢いよく階段をかけ上がる。
――やっと、やっと、ゲームの続きができる!
雪奈は意気揚々とゲームの電源を入れる。
起動音と共に、モニターにゲーム画面が映る。
そして次の日の朝
教室の前にクラス分けが張り出されている。
一組のクラス分けにて
ランクX 氷浪雪奈 雷門由雷
ランクS7 空野飛真理
ランクS1 相川凛音
ランクA9 本田速斗 片桐霧香
ランクA8 草壁花子 熱井穂野雄 輝本光
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以下略
「私と由雷くんがランクXで、飛真理ちゃんがランクS7か・・・」
雪奈の右手側に由雷の姿が見える。
「あ、由雷くん、おはよう!私たち、やっぱり同じクラスだね」
「おはよう・・・そうだね」
少し元気がない様子の由雷。
ザワザワ!
自分のランクを見て喜ぶ生徒もいれば、悲しんでいる生徒もいる。
そんな中、一人冷静な表情を浮かべている生徒・・・飛真理がいた。