2 氷浪の能力
「・・・結構です。では次の測定に移ります」
――こんな感じか。まぁゲームじゃないんだし、能力測定に面白味を求める方が変だよね。
小さくため息をつく雪奈。
「書類によると、水なしで氷を生成できるとのことなので、お願いします。氷の強度に応じてポイントが加算されます」
「はい」
雪奈は右手を突き出す。
その瞬間、直径一メートルほどの氷の球体が生成される。
ウィィィン!
開いた壁からロボットアームが伸びてきて、とがった金属を氷に突き刺す。
しばらくして
「結構です。それでは最後の測定に移ります」
ウィィィン!
ロボットアームが氷から金属を引き抜き、壁の中に戻っていく。
「最後は反射能力の測定です。これから特殊なガスがあなたに噴射されます。害は全くありませんが、反射能力を誘発できるガスなので、目を閉じて自然体でいてください」
「特殊なガス?」
「能力測定用に開発されたものです。霧吹きにかけられたような感じはありますが、安全ですので動かないようお願いします」
「はぁ、分かりました」
そう言って雪奈は目を閉じる。
プシューッ!
ガスが噴射される音が聞こえてくる。
左頬にかすかに空気の揺らぎを感じた瞬間
カキン!
雪奈の左側に氷の盾が生成される。
――なるほどね。今はこんな技術もあるんだ、ちょっと面白い。
ニヤリと笑う雪奈。
プシューッ!
再びガスが噴射される音。
カキキキン!
雪奈の体全体を囲うように、氷のバリアが生成される。
そのおかげでガスが雪奈に触れることはなかった。
「・・・結構です。これで能力測定は終了です、お疲れさまでした。部屋を出て先生の指示に従ってください」
天井から測定終了の音声が聞こえた。
「分かりました」
雪奈はうなずく。
シュン!
その瞬間、雪奈を覆っていた氷が消える。
――これで終わりかぁ。こんなんでちゃんと測定できてるのかな?まぁいいや、これで帰ったらゲームできる!
意気揚々と部屋を出て、家に帰ろうとする雪奈。
「ちょ、ちょっと、氷浪さん!まだ全員が終わってないので帰らないでください」
部屋の外で待っていた先生に呼び止められる。
顔をしかめる雪奈。
「え、全員ってことはまだ一時間以上かかりません?」
「そうですよ。測定が問題なく完了したか確認する時間も必要なので、終わるまで帰らないでください」
「ええ、そんなぁ~」
がっくり肩を落とす雪奈。
先生に誘導され、初めにいた部屋に戻る。
――もう、終わったら帰れるって聞いてたのに。でもまぁ午前中で帰れるだけマシか。
ガヤガヤ!
部屋に戻ると、生徒たちが盛り上がっていた。
「君はどんな感じだった?俺は水を何度加熱できるか測ったんだけど」
「僕は何グラムまで物を浮かせられるかの測定だったよ」
「私は握力を通常時の何キロ増やせるか・・・」
生徒たちがそれぞれの測定内容について話している。
「あなたはどうだった?」
一人の少女が雪奈に尋ねる。
「えっ、ああ・・・水を冷やしたりとか、ちょっぴり氷を作ったりとか・・・」
「へぇ、氷作れるの?すごいじゃん!」
「い、いやー、それほどでも」
頬をかく雪奈。
――つい控えめに答えちゃった。けどまぁ嘘は言ってないか。
しばらくして部屋の扉が開く。
「では最後、雷門由雷さん」
「ふふ、ついに僕の力を見せるときがきたね」
由雷が部屋を出ていく。
「彼ってすごい人なの?」
「さぁ、最近引っ越してきたらしいし」
「そういえば雷門家って聞いたことがあるような・・・」
ザワザワ
生徒たちがざわつく。
そんな中、雪奈は相変わらずゲームのことばかり考えている。
――早く帰って続きがしたい。はぁ、あの子死んでないよね、実は生きてましたってトリックがあるんだよね。
雪奈は昨日のゲームのヒロインのことを思い出し、うなっている。
「あなた体調でも悪いんですか?」
飛真理が心配した様子で雪奈に声をかけてきた。
「えっ、いや全然。ゲームのこと考えてただけだけど」
「ゲーム?」
「そう、ゲーム。ゲームは私の生きがいだからね」
飛真理が怪訝そうな顔をする。
「趣味は人それぞれですけど・・・さすがに今日は能力測定の方を気にするのが普通ではないですか?」
首をひねる雪奈。
「そう?能力なんて普段使わないし、私にとってはゲームの方が大事かな」
「そんなに面白いんですか?私はゲームをしたことないので分からないです」
飛真理の言葉を聞き、雪奈はカッと目を見開く。
彼女の肩をつかみ激しく揺さぶる。
「ゲームしたことないって本当⁉それは人生の8割は損してるよ!おすすめの教えてあげるから、ちょっとやってみようよ」
「え?えっと私にはそんな暇ないんですけど」
「大丈夫、一日数分で終わるソシャゲもたくさんあるから!そうだね、プロシキとかシュタレインとか心元とか・・・いや、あれはちょっと日課が重いか」
一人でブツブツとつぶやく雪奈。
そんな雪奈を、異物を見るような目で見る飛真理。
「そうだね、初心者にもやさしく、時間を取らず、面白いゲーム。これら全ての条件を満たすものとなると・・・やっぱりクロノワかな!」
小さくため息をつく飛真理。
「はぁ、まぁ気が向いたらやってみます。それより、そんなので能力測定は大丈夫だったんですか?」
「えっ、能力測定?ああ、全然大丈夫たよ」
「・・・そうですか」
雪奈は諦めたような声で言う。
しばらくして
ガラッ!
由雷と先生が部屋に戻ってくる。
「ふっ、つい本気を出してしまったな」
髪をかき上げる由雷。
生徒たちは彼から目をそらす。
コホン!
先生が教卓につき、咳払いする。
「みなさんお疲れさまでした、これで測定は終了です。クラス分けは明日の朝、教室に張り出されるので、今日はもう帰って大丈夫です」
ガッツポーズする雪奈。
――よっし!早く帰ってゲームやるぞ。
他の生徒たちも帰り支度を始める。
一緒に帰る生徒たちもいたが、雪奈は早くゲームをするため一人で帰ることにした。
タタタタ!
早く帰りたい一心で、自然と小走りになる。
――今日は近道しよっと。
雪奈はT字路を左に曲がり、人通りの少ない道に入る。
――まずソシャゲの日課を終わらせて、その後昨日のゲームの続きをしよう。
考え事をしていると、前方からこちらに向かって走ってくる男性の姿が見える。