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3. 流美と清華のお買い物

「それでね!ゆっくりお風呂に入ってたら、お父さんが...」

「ふふふ。びっくりしたでしょう!」

流美(るみ)清華(さやか)が楽しそうに話をしている。

ただ、ここはいつもの通学路ではない。

駅前の大通り。二人は駅に隣接するオシャレなモールを目指して歩いていた。

というのも、その日の放課後、


「私、ちょっと文房具屋さんに用があって...流美も来る?」

「うん!」

清華が流美を文房具屋に誘っていたのだ。

ただの文房具屋ならもっと近くにあるのだが、可愛い品揃えの店となると駅まで行くしかない。

でも二人にとってそうやって遠出するのも楽しかった。

二人の話は続く。


「そりゃそうだよ!それなのに思春期の女の子のお風呂を覗いておいて、『まだ入ってたのか!長すぎる!』だって...怒りたいのはこっちだよ!!」

「そうよね!流美ももう高校生だものね!親とはいえ見られたら恥ずかしいわよね!」

「そうそう。私の裸を見ていいのは清華ちゃん...あわわ!なんでもない!!なんでもないから!!」

真っ赤になって慌てて横断歩道を渡ろうとする流美。しかし、

「流美!!危ない!!」

「えっ!」

咄嗟に清華は流美の腕を取り強引に引き寄せる。

そのまま、半回転して向かい合わせになった流美を思いっきり抱きしめた。すると、

<パ~~~~~~!!>

激しいクラクションと共に車が通り過ぎていく。流美はギリギリで躱すことが出来た。


「流美!!大丈夫?!怪我はない?!」

清華が心配そうに流美に聞く。しかし流美は、

(えっ!清華ちゃんに抱きしめられた...お胸...柔らかい...このまま...ずっと...)

無言のまま清華にそっと手を回すと、愛おしそうに抱きしめ、顔を胸にうずめる。

「・・・」

じっとその様子を見守っている清華。やがて、

「怪我はないみたいね!良かった!...でも怖かったのね!可哀想に...落ち着くまでこのままでいいのよ!」

そう言って頭を撫でてあげた。すると、流美が自分のしていることに気がつく。

「ゴ、ゴ、ゴメン!私ったらなんてことを!...ワザとじゃないの!嫌いにならないで!」

流美は清華から離れると泣きそうな顔で言う。しかし、清華は気にしていないようで、

「あっ、気がついた?流美に何もなくて良かった!...あら、埃がついてる。払ってあげるわね!」

そう言うと、流美の制服についている埃を優しく払ってあげた。

「...清華ちゃん...怒ってないの?」

流美が恐る恐る聞くと、

「怒ってないと言えばウソになるわ!」

「...そうだよね...」

清華の言葉に流美はシュンとなる。

「ちゃんと信号を見て渡らないと!!もうちょっとで大怪我するところだったのよ!!」

「えっ?!」

思っていたのとは違う言葉に流美はポカンとしてしまう。

「もう!流美は危なっかしいんだから!...あっ、青になったわ!渡りましょう!」

しかし、流美のそんな様子にお構いなくそう言うと、清華は信号を渡り始めた...流美の手を引いて...

「あ、あの!清華ちゃん!こんな街中で!恥ずかしい!」

流美が真っ赤になってそう言うが、

「ダメ!こうしてないと流美が車に轢かれちゃう!私の手を離したらダメよ!」

「で、でも...私...」

手を引かれながら流美は慌てて清華の後をついていくのだった。


☆彡彡彡


駅前を手を繋いで歩いている女子高生が二人。

「あっ!あのビルね!...確か3階だったかしら...」

清華は何事もないかのようにビルを指差すと話しかけた。

「うん...」

しかし流美は上の空で、

(...手を繋いで歩くのっていつ以来かな...小さい頃は当たり前だったけど、男の子にからかわれてから私の方から繋がなくなった...だって、清華ちゃんがバカにされてるみたいで...)

少し顔が赤くなっているようだった。

(心臓がドキドキしてる...気づかれてないよね?...こんなに...胸が高鳴るんだ...やっぱり...意識したから?)

ふと、通りすがりの人の視線に気づいた。

(やだ!見られてる...どう思われてるのかな...仲のいい友達?...それとも...恋人...とか...)

そう考えた途端、流美の顔が更に赤くなる。

(や、やっぱりダメだよ!...このままじゃ...私たち、きっと勘違いされちゃう!)

そう思うと流美は清華に話しかけた。

「あの...手...」

しかし清華は、

「離しちゃダメよ!ここは人が多いから離れ離れになっちゃう!」

そう言って離してくれない。

「だ、大丈夫だよ。もう子供じゃないし...それに...こ、恋人だと勘違いされるかも...」

流美が心配そうに清華の方を見やる。すると清華は、

「流美は...イヤ?」

「えっ?!」

小さな声だった。流美が聞き返すが、清華の顔は横を向いており表情が読めない。

「は、恥ずかしい...」

流美がそう言うと、

「...そう...」

寂しそうな声と共に手が離された。

「清華ちゃん...」

「・・・」

しばらく無言でビル内を進んでいく。


そして二人でエスカレーターに乗ると、

「ゴメンね。流美ももう大人だものね。ちょっと配慮が足りなかったわ!」

そう清華が話しかけてきた。

「そんな!清華ちゃんは悪くない!私が...」

しかし、流美の言葉はそこで止まってしまった。

(私...清華ちゃんが助けてくれたのにそれに乗じてやらしいことをして...心配して手を繋いでくれてるのに勝手に一人でドキドキして...最低...)

流美は自分が情けなくなってくる。

(でも...私、清華ちゃんの傍にいたいの!!こんな私だけど...イヤじゃなかったら...傍に置いて!!)

流美は潤んだ目で訴えた。すると、

「もちろんよ!」

清華がにっこりと安心させるように微笑む。

「...ありがと...」

清華のセリフがどういう意味だったのかは分からない。

しかし、流美はなぜか清華が許してくれた気がしてそうつぶやいた。



やがてエスカレーターが3階に到着すると、清華が指差す。

「あっ、あそこね!」

ちょうど目の前にファンシーショップがあった。

ステーショナリーも充実しており、この辺りの女子はここで文房具を買うことが多い。

女子の間で『文房具屋』といえば大抵、ここを指していた。


「何を買いに来たの?」

流美が聞いてくる。

「うん。シャーペンが壊れちゃって...新しいのが欲しいなって!」

清華が答えると、

「じゃあ、こっちだね!」

流美がシャーペン売り場に案内しだした。


「どれにしようかなぁ...」

清華は迷っているようだ。

結構、種類があり、可愛らしいのからスッキリしたデザインの物まで豊富に揃っている。

「あっ!これ可愛い!...これも!」

流美もあれこれ見て回っているようだった。その中で、

(あっ!私の好きなキャラの新作だ!...で、でも子供っぽいよね...さすがに高校生になってこれは...)

流美はお気に入りのキャラクターが印刷された可愛いピンクのシャーペンを見つける。

ただ、デザインが子供向けで自分が使うのは少し恥ずかしかった。

名残惜しそうに通り過ぎようとすると、

「あら、これ、素敵じゃない!これにしようかしら...」

清華が流美が欲しがっているシャーペンを手に取った。

「えっ?でも可愛すぎない?清華ちゃんにはもうちょっと大人っぽいのが...」

流美が言うが、

「シャーペンくらい自分の好きなの使いたいじゃない!それにこのウサギさん、可愛いし!」

清華もそのキャラクターを気に入ったようだ。流美はうれしくなる。

「やっぱりそう?!私もこのキャラ好きなんだ!」

そう言って目を輝かせる。

「じゃあ、お揃いで買わない?二人で使えば恥ずかしくないし...」

清華が名案とばかりに手を叩く。

「えっ!いいの?!清華ちゃんとお揃い...ますます好きになりそう!」

流美ははしゃいでいたが、

「あっ!『好き』ってシャーペンのことだよ!決して清華ちゃんのことでは...」

失言に気づき、慌てて釈明する。しかし清華は、

「私は好きじゃないの?」

と寂しげな顔をした。

「そ、そんなことない!!清華ちゃんはこの世で一番好きだよ!!...って決して変な意味じゃなくて...」

流美は強く訴えたが、告白しているようにも聞こえ、しどろもどろになる。

「ふふふ。『変な意味』ってどういう意味?私も流美が世界で一番好きよ!」

そんな流美を見て清華は笑いながら言った。

「そ、そうだよね!私ったら何考えてたんだろ!...そう!清華ちゃんが一番!」

「ふふふ。良かった!」

二人はそう言って微笑み合うのだった。


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