最終章(7) 湊様の過去と婚約のお話
「君だから、婚約者になってもらったんだよ?」
その言葉は、思ってもみない言葉でした。
「湊、昔から女性人気が高過ぎてね、一時期私とも話をしないくらい女性を警戒していたときがあったの」
「あの頃は大変だったな。結婚は義務ではないが、家を継続させるには必ず誰かと結婚する必要がある。その事を何度説明しても、絶対結婚しない!って言い張っていてな。説明しても理解されなかったのはこの話だけだったなぁ」
「それで最終的に、自分で選べるうちに選びなさいと伝えたの。それで私とは話をすることが出来るようになったけれど、それでもずっと大宮様以外男友達すら出来なかった」
「お母さん」
「だがな、中宮家が養子をもらったと話が来ると同時に、湊が自ら彼女に会いに行ったと聞いてな。天地がひっくり返ったかと思ったんだ」
「お父さん」
このお二人、湊様に名前を呼ばれても話続けているけれど、私はこの話を聞いていてもいいのでしょうか?
「湊が毎日連絡をくれるようになったのも、君と出会ってからだ。楽しそうな声で女性の君の話をする息子の状況を理解するのに時間を要してしまったよ」
「もう!皆話が長い!」
「なら、湊。波さんの発言に、僕達のお返事をお伝えしなさい」
私の発言の、お返事・・・・。
「僕は、波ちゃんとしか、中宮波さんとしか、結婚しない!」
「っ!」
「本気だよ。こんな事言ったら逃げられなくするみたいで嫌だけど、波ちゃんと結婚しないなら、僕、家も継がないし、死んでもいい」
そ、そんなこと・・・・。
「湊、止まりなさい。ホント調子にのるとこれだから・・・」
さっきの言葉は、本当でしょうか?
「こんな息子だから、波さんが結婚してくれるというのなら、こちらからお断りする理由は一切無いんだよ?」
「断るのなら今のうちよ〜。こんな面倒な息子と結婚しなくたって、波さんはもっといいところに嫁げそうだし」
「お母さん!?僕を殺す気?」
「え〜」
「あ、あの!」
伝えてなければ。
私も、湊様との婚約をお断りする理由など、無いことを。
「何かな?」
「わ、私は、湊様がいいです」
沈黙の時が流れます。沈黙の怖さを身をもって実感しました。
「神に感謝せねばな」
「そうね〜。私に可愛い娘が出来るわ〜。湊より可愛い〜」
「波さん」
「は、はい!」
「こんな息子ですが、何卒よろしくお願いします」
「そ、そんな・・・。こちらこそ、ふつつか者ですが、何卒よろしくお願いします」
「波ちゃん、今度いつなら予定空いてる?一緒にアフタヌーンティーしましょう?」
「え、えっと、今月はいつでも空いてます。毎月この日は約束が・・・」
カレンダーを思い出しながら返事をしていると、湊様が私を椅子から立たせて、ご両親と距離をとらせました。
「ねえ!これだから僕は会わせたくなかったの!僕の波ちゃんに勝手に約束取り付けないで!」
「束縛が強いと嫌われるわよ〜」
その言葉の後、湊様の顔が真っ青になっていたことに気がついてしまった私なのでした。




