最終章(6) 聞いておかなければならないこと
「お初にお目にかかります。中宮波と申します」
こちらの世界に来て始めて覚えた思い入れのあるセリフを今、岸家の皆様の前で言いました。
「はじめまして、波さん。といってもはじめましての感じがしないな」
「それはどういう・・・」
「湊ったら、毎日のように貴方のことを連絡してくるのよ?」
「み、湊様・・・・?」
ご家族に毎日私のことを連絡・・・。
私は何か悪いことでもしてしまったのでしょうか?
それとも、中宮家の養子である私では、婚約者にはなれないと言うことでしょうか?
「そんな顔をしなくても大丈夫よ〜。今度二人でゆっくりお話しましょう?沢山話してあげたいことが・・・」
「お母さん」
「湊、いいでしょ?お母さんずっと波さんに会いたいって言ってたのに今の今まで会わせてくれなかったんだから」
「あ、いえ、それは・・・」
「大宮家の当主様もなかなか弟さんの説得に時間を要していてな、今日まで会うことが叶わなくてもどかしかったよ」
私が挨拶に伺えなかったから、そう言おうと思ったのですが、岸家当主様に遮られてしまいました。
あれ、この話・・・
大宮家の皆様とお食事を頂いた時にも感じたものをまた感じました。
つまり、学さんたちも会わせたくなかったということ。
「大変ご迷惑をおかけして・・・」
「迷惑はこちらの方だよ、波さん。勝手に婚約を取り付けてしまってすまないね」
「私、何も伝えられて無くて、聞いて驚いたのよ〜!男って、心の準備とか気にしないのよね」
「お母さん。遠回しに僕もその枠に入れないでくれる?」
「あら、貴方から話を持ちかけたのでしょう?でしたら遠回しではなくしっかり枠の中です」
この会話は、とても平和な音がしました。私には程遠いところにあるような、そんな音が。
「波ちゃん?どうかした?」
私の様子に気がついたのか、湊様が声をかけてくださいました。
「わ、私は、中宮家の養子、ですし、岸家の皆様とは本来、縁も所縁もございません。そんな、私が、岸家の、た、大切な、跡取りである、湊様の、婚約者、で、あっても、よろしいのでしょうか」
今でも時々思うのです。
身分不相応だと。
学校で沢山の人に言われた言葉が今になって響くのです。
湊様が私を婚約者にしてくれていたとしても。
私は異世界の人間で、もとの世界では奴隷と呼ばれる身分でした。この世界でも養子として引き取られた身です。
それに、この世界をほとんど知りません。
こんな私では、大切な岸家の跡取り様の婚約者なんて務まらない。
そう言われてしまえば、私にはどうにも出来ない。
だから、これは聞いておかなければならない、最大の事なのでした。




