最終章(5) 岸家運転手の悩み By 岸家運転手
「湊様、到着いたしました」
「知ってる」
「・・・・・」
はぁ。
岸家に代々仕え、湊様がお産まれになったその時からお世話をする私ですが、最近悩みが多いです。
色々あって外出することがあまりなかった湊様。
大宮様とお友達になられて、大宮家に行かれることが増え、私が車を運転することになりました。
大宮家以外、自ら外出なさることは一切なかった湊様が中宮家に行かれると聞いたときは驚きました。
しかし、中宮家は大宮家と同じ宮家です。大宮様との付き合いなどでそちらのご予定でも入ったのではないかとその時は軽く思っていました。
その後、湊様は中宮家へ通うようになられて、更には中宮家の御令嬢と婚約されました。
その事を知ったときは驚きました。
縁談のお手紙をたくさん処分するのは私の仕事でしたから、なおのこと。
しかし、今まで中宮家の御令嬢は岸家に来たことがなく、車の中でもあまりお話になられなかったので、どんな方なのかはわかりかねました。
湊様が大切になさっている、ということしか情報がありませんでした。
そしてついに本日ご挨拶にいらっしゃるということでお迎えにあがりましたのに、湊様は御令嬢に伝えることなく岸家へ連れてきていらっしゃいますし、家へ着いたというのに、握った手を離したくないからなのか降りて頂けません。
「み、湊様。岸家の皆様をおまたせしては、私・・・・」
「っ、ごめん!そうだった、降りよう!」
御令嬢に言われて慌てて車から降りる湊様に、私はなんて声をかけていいのかわかりません。
最近の湊様は、始めてお目にかかる姿が多いです。
今日の車の中で、お二人がとても良い婚約者同士であることが知れました。
たった、それだけで、悩みが晴れていくことを実感する私なのでした。




