第一章(6) ご飯のいただき方と美味しいもの
夕ご飯だよ、と学さんに呼ばれた私は部屋を出ました。学さんに手を引かれて連れてこられたのは、大きな机とたくさんの椅子がある部屋でした。
「なみさん、いらっしゃい」
「あの・・・」
「なあに?」
「ここは?」
「ここはダイニングよ」
聞いたことのない言葉に困りました。
「なみさんの住んでいたところでは、聞いたことない?」
「はい・・・」
「そう、なら、少しでも覚えているといいわ。帰れたときに役に立つかもしれないから」
「はい・・・」
「とりあえず、ご飯、いただきましょう」
いただく、ということばがわかりませんでした。
「安在さん、ご飯持って来てくれる?」
学さんの声が部屋の中で大きく聞こえてから直ぐに安在さんがお皿を持ってきました。安在さんは学さんと陽子さんのところにお皿を置いて、その後私のところにも来てくれました。
私のところにもお皿が来たのを見た学さんと陽子さんは、右手と左手を合わせました。そして、
「「いただきます」」
と言うと、食べ始めました。
・・・私はどうしたらいいのだろう?
学さんたちと同じようにしたらいいのだろうか?
けれど、指示もなく行動してはならないと、あの人はよく、私に言いました。
私はいつか戻れる日の為に、あの人の言うことは守らなければなりません。
「なみさん、ごめんなさいね。食べ方が分からなかったかしら?」
私は頷く
「まず、右手と左手を合わせてみて」
私は言われた通り、さっき二人がしていたように、手を合わせた。
「そう。そのまま『いただきます』って言うの」
陽子さんが私に指示をくれました。いただきます、の意味は分かりませんでしたが、とりあえず言ってみることにしました。
「い、た、だ、き、ます」
「そう。普段、どんな食事の時も言うの。アフターヌーンティーの時は言わないけれど・・・まあ、大体の時は言うわ」
「はい」
「・・・・食べ方はわかるかい?」
学さんは私が陽子さんにそう言った後そのまま動かなかったことからか、私に聞いてくれました。
「いえ」
「右手側にあるナイフを右手で、左手側にあるフォークを左手で持って」
ナイフやフォークというものがどれなのか、わかりませんでしたが、何とか持ってみました。
「そう。左手はこう、刺して」
学さんが自分のお皿の上に乗っているものに左手のものを刺したのを見て、私も同じようにやってみました。
「そう。右手は、こう、上にのせて、手を前後に動かして」
学さんはまた自分で動いて指示をくれたので、同じようにやってみました。
「そう。そのまま口に手を運んで、食べる」
また、学さんを見て、同じようにしました。
食べたことのないものでした。
噛むと肉汁が出てきて、ソースと一緒になっている感じがとても美味しいです。
「これは、ハンバーグというんだよ。美味しいかい?」
「はい」
「これからは、さっきのように大きいものはなんでも切って食べるといい。詳しいことはまたゆっくり覚えていけばいい」
「はい」
学さんと陽子さんという優しい二人に教えてもらったこと。あの人に会えるまでの間で、どれだけ理解でできるでしょうか・・・・
そんな不安を感じながら、床で寝るのだった。