第六章(12) 始めての感情 By 龍也
あいつの目が覚めた、とおじさんから連絡が入ったのはあの日から数日が経った日の事だった。その報告には母も喜んでいたが、今は家族で過ごしたほうがいいのでは?との配慮で後日家族3人でお見舞いに行くことにした。
しかし、その次の日、おじさんから『岸様が波ちゃんから離れない。どうにかして欲しい』との連絡を受けた。
あいつが目覚めた日は湊のお見舞いの日だったはずだから、今日の見舞いは確か山田のはず。僕が行く必要は全く無いのだが、一応湊に意見できる人間は僕くらいしかいなさそうなので、仕方なく病院に行くことにした。
いつも通り病室に行くと、ドアの前に椅子が置いてあって、そこに山田が座っていた。
「お、大宮様・・・」
「今、中には?」
「岸様がいらっしゃいます」
「すまない。すぐ連れ出す」
「あ、いえ。大丈夫です」
湊が中にいるなら、決められたルールであったとしても、なかなか言い出せないだろう。湊を引っ張り出すのも僕にしか出来ないだろうからと今日来たし、連れ出そうと言ったのだが山田はそれを止めた。
「なぜだ?」
「せっかく再会できたんです。少し邪魔者はいなくなろうかと思いまして」
「邪魔者?」
「友達の私が割って入らず、婚約者同士、水入らずの方がいいかと思いまして」
山田は、あいつがなぜ入院しているのか知らない。そもそも異世界の人間であることすら、教えてもらえていない。
それでもあいつと友達になり、こうしてお見舞いにも来ている。
「大宮様こそ、今日はどうしてこちらへいらっしゃったのですか?お見舞いでしたら私は・・・」
「あ、いや・・・・」
僕は仕方なく山田に理由を話した。
すると彼女はくすくすと笑い出した。
「な、何が面白い」
「だって、大宮様の中宮家当主様への想いが可愛らしくて」
「か、可愛い?!」
可愛いだなんて、他人に言われたのはいつぶりだ?
「私も、寂しい想いだけはさせたくないんです」
急になんの話が始まったのかわからなかった。
「私達は、縁談をして跡継ぎを後世にのこすのが大きな役割でしょう?それでも、仕事だってありますから大変忙しいことが想像に容易いです。けれど、子供に寂しい想いだけは絶対にさせたくないと思っています。今後重荷を背負わせてしまう子供達だからこそ、子供のうちは甘えていいんだと教えてあげたいと」
山田の言葉に、僕は胸を撃たれた。
大宮家の家族事情なんて社会には筒抜けだ。僕のおじさんの話から山田は僕が寂しい想いをしていた事に気がついたのだろう。
たげど、彼女はどうしてこんなに強いんだろう?
甘えたかった、構って欲しかった、見てほしかった。
そんな過去形でも、今いる人にだけでもなく、未来の人まで想っている。
「って、申し訳ございません!私、一人で勝手にお話してしまって・・・」
「い、いや、別に構わない」
そういうので精一杯だった。
僕自身が女性にここまで惹かれるなんて、思ってもみなかったのだから。




