第六章(11) あの日の記憶と目覚め By 湊
僕は今、病院で波ちゃんの手を握っている。
あの日波ちゃんがナイフで刺された日から、中宮家の人と龍也と山田さんと僕で、波ちゃんの病室に代わる代わる様子を見に来ていた。
今でも、あの日のことは頭から離れない。
波ちゃんが帰らないっていう決断をしたことに怒った男が、なみちゃんのお腹をナイフで刺した。
僕たちは一斉に彼を止めようとした。
その瞬間、窓から拳銃を持った人が入ってきて、僕達の動きは止まった。
その人は二人をあっという間に拘束した。
「えー、殺人、他、もろもろの容疑で逮捕します」
気を失っている二人に言っているのかわからなかったけど、聞こえてきた単語は、今の状況を表していないことは確かだった。
「殺人?未遂じゃなくて?」
「すいません。こっちの話です」
この人は、もしかして・・・
「あ、彼女はこちらの人間ですね。応援を呼んで、連れて帰りますか・・・」
やっぱり、波ちゃんのもとの世界の人だ。
それなら、連れて帰られちゃ困る。
「僕の婚約者です!彼女も帰りたくないって言ってました!」
得体のしれない人に、僕の想いは伝わるのだろうか?
「そうですか。まぁ、唯一の生きてる被害者ですしね・・・。確認します」
唯一の、生きてる、被害者・・・?
何を言っているのかわからなかったけれど、少し時間が経っても人は来なかった。
「許可が降りました」
「よ、良かった〜」
「ただし、彼女が起きたら、きちんと伝えてあげてください。『貴方は何も悪くない。五十人もの被害者は貴方のせいで死んだのではない』と」
その言葉の意味を理解した時には、既に部屋から僕達以外の人間がいなくなっていた。
龍也が話を聞くと、被害、という言葉は波ちゃんから聞いたことがあるらしい。
波ちゃんは過去の話なんてしたくないだろうし、話してくれたとしても僕がどうにかできる問題じゃないと思う。
波ちゃんが目覚めない間、僕は色々なことを考えた。
だけど、考えれば考えるだけ、自分に自信がなくなっていった。
その時、手を握り返された。
「な、波ちゃんっ!」
「は、はい」
「良かった。起きてくれて」
僕は目が潤んで、久しぶりの波ちゃんの顔をしっかり見ることができなかった。
「湊様・・・・」
「大丈夫だよ。ここは病院だけど、治療は終わってるからね」
こんなことが言いたいわけじゃないのに、こんな言葉しか出てこない。
「ありがとうございます、私を引き止めてくださって」
まだ話すと傷が痛いのか、少し引きつった顔で僕に感謝を伝える波ちゃん。
僕はその言葉を聞いて、思った。
自分に自信が無くても、それでも、何があっても、
僕は波ちゃんを絶対に守ろう、と。




