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第六章(9) 私の過去

「お前なんか、今すぐ実家に帰したっていいんだぞ!」


その言葉で、私は過去の、あちらの世界での生活を思い出した。



私は物心ついた時から、壁が灰色で真っ暗な部屋にいた。食べ物は三日に一回。筋が多くて薄い物何枚かか、口の中でも動く物何個かだった。飲む物は毎日もらえたけれど、飲むと喉がザラザラするものだった。


そんな生活を送っていたある日、急にドアが開いて外に出ろと言われた。私はその日、初めて部屋から外に出た。外の廊下は綺麗で、灰色じゃなかった。


私が連れて来られた場所には、綺麗な男の人がいた。

私はその綺麗な男の人について行くように言われた。

「が(あ)、の・・・・」

初めて発した自分の声は、汚かった。

それでも、私はこの状況のことを聞いた。

「婚約者がお待ちよ?早く行きなさい」

と言われた。

私は言われた通りに、婚約者の、綺麗な男の人のもとに行った。


乗っていた物が停まると、目の前に綺麗な建物があって、中には綺麗なお姉さんがいた。

綺麗な男の人は綺麗な女の人に、私を部屋に案内するように、と言ってすぐにいなくなってしまった。

私は静かにその女の人について行った。

けれど、急に手を強く引っ張られて、部屋に押し込められた。

「あんたはここで静かに黙ってろ」

それだけ言われて、扉の鍵を閉められた。


その部屋の壁は相変わらず灰色だった。けれど、布団があって小窓があった。食べ物は一日に一回で、女の人が投げ入れるから少し形は崩れてしまっていたけれど、美味しかった。毎日喉がスッキリする飲み物も貰えた。

それらのことが嬉しかった。

綺麗な男の人は、たまに私の部屋を訪れて、私の役目だと言って、私に指示をくれた。私がその指示に従うと、男の人は褒めてくれた。

「良い子だ。愛してる」

「愛してるから、ちゃんと言う事きくんだよ?」

何度も何度も言われた。

指示に従えなかった日は、その分怒られた。

「こんなに愛してるのに、言う事をきかないって、どういうことだ?!」

そんなときはひたすら謝った。


指示に従うことで、私は初めて認められた。

褒められた。愛された。


あの人は私を救ってくれた。私に役目をくれた。

だからやっぱり、この人の元に、あの部屋に帰りたい。


そう思った。

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