第六章(8) 波ちゃんの名前の由来 By 湊
僕は状況が全くわからなかった。
波ちゃんが頬を打たれている。
それだけで今まで感じたことがないくらい苛立った。
「僕の婚約者に手をあげるなんて許さない!」
この男が例え波ちゃんの大切な人で、迎えに来た人でも。波ちゃんがこの男を許して欲しい、と言ってきても、僕は決して許せそうに無かった。
「婚約者、ねぇ・・・・」
「君がこいつの婚約者?」
女は呆れたように、男は質問してくるように反応した。
「そうだよ!」
そう返事をすると、男は波ちゃんに近づいて、
「名乗れ」
と命令した。
「ナミ・バスタ・アンサム・ユ・ロック、です」
僕は初めて波ちゃんの本名を知った。
由来はなんだろう?
外国人の名前についての知識を、僕はあまり持ち合わせていなかった。
「貴方、バカね。この名前聞いても驚かないなんて」
「はぁ?!失礼な」
「ナミは名前。バスタってのはバスタードの略語だ」
バスタード。その単語の意味は『妾の子』だったはず。
「アンサムってのはこいつの実家の名字で、ユってのは俺の家の名字」
「何で婚約者がいるのに波ちゃんにまでお前の名字つけてんだ!」
隣にいる女がこの男の婚約者なのなら、波ちゃんに家の名前なんてつける理由はない。
「そもそも波ちゃんはなんでお前の所に・・・」
「こいつ、やっぱりバカね・・・・。さっさと帰ろうよ、私、早く遊びたい!」
女がまたよくわからないことを言い出したが、それに男も賛同したようで、女の頭を撫でた。
「こいつは俺の奴隷なんだよ!」
奴隷・・・・?
「勝手に婚約者なんか作られちゃ、困るんだよ、ね!」
男は波ちゃんの背中に立った状態で乗った。
僕は情報が多すぎて、何が起こったのか分からなかった。
声にならない悲鳴が波ちゃんから聞こえた。
「いいか?お前なんか、今すぐ実家に帰してもいいんだぞ!」
その言葉で波ちゃんの目が開かれた。
その言葉のもつ意味が僕には分からなかった。




