第六章(7) 衝撃 By 龍也
女に案内されたホテルの部屋に行くと、あいつは床に転がっていた。僕たちを部屋に案内した女は、あいつの横にいる男に抱きついて、何か言っていた。その男もその女の頭を撫でて、抱きしめ返していた。その会話の中で男は、その女を婚約者だと言った。僕は何が何だか分からなかった。
「あははは!!!!久しぶりね」
女はあいつに声をかける。波は何も返事はしなかったが、僕たちの方向から目線が女の方に移った。
「こっちの世界は楽しかった?」
そう聞かれてもあいつは返事をしない。
その事に僕は驚いた。あいつはいつも僕たちに、すぐに返事をしていたからだ。あいつがすぐに返事をしない、なんて予想が出来なかった。
この人達は誰なんだ?
その疑問が頭を占める。
返事をしないあいつに苛立ったのか、女が男に何かを話しかけた。
「よくいらっしゃいました」
急に男が話し出した。僕は話すべきか迷った。
「波ちゃん、聞こえてる?」
湊が話し出した。
「はい。聞こえてます」
あいつは今度はすぐに返事をした。
「僕、波ちゃんが笑顔でそっちの世界に帰るって言ったら、悲しくても、いってらっしゃい!って言おうと思ってたよ?」
そう言う湊の目は優しかった。
「だけど、今の状況見て、僕は簡単にいってらっしゃい!って言えなくなった」
湊はさっきと変わって怒った顔をしていた。
あいつは驚いた顔をしていた。
僕の他にも帰してくれようとしてた人がいたことに驚いているのだろう。
あいつはこの世界にいる間に、こんな顔が出来るようになったんだな。
そんな呑気な事を思った時だった。
「はははは!!!」
男が急に笑い出した。
そのことに驚いていると、女があいつの正面に立った。
そしてあいつの顔を部屋に大きな音が響くほど強く叩いた。
僕は今になって間違いに気づいた。
帰してあげる?簡単に?
そうじゃない。
あいつを絶対にこの人たちのところに帰してはいけない。
そう感じた。




