第六章(5) 言わないといけない言葉 By 龍也
「あ、あなたにだけ、伝えておこうと思いました」
あいつが僕にだけ話すこと。
それは、こいつの大切な人関連の話であることはすぐに分かった。
「僕にだけ・・・・」
「はい。明日、あの人に会えることになりました」
「それって・・・・」
「明日、元の世界に帰れるかもしれません」
「そうか・・・・」
こいつはずっと大切な人のところに帰りたがっていた。僕はそれを止めるつもりはない。だけど、確認しておきたい事があった。
「他の人にその事は言わないのか?」
「はい」
やっぱりな、と思った。
「大宮様は私の話を、想いを、きちんと聞いてくれました。ですので、貴方だけに伝えておこうと思いました」
まあ、湊とかは元の世界の話なんか一言も聞いてないだろうだし。
急に帰るって言われても、虐待の疑いがあるくらいしか情報がないと・・・・。
「絶対に他の人に言わないでください」
「どうしてだ?」
理由はなんとなくわかる気がしたが一応聞いてみた。
「皆さん、私が元の世界に帰るのを好ましく思わなさそうですので」
まあ、そうだろうな。
「わかった。約束する」
この約束、僕は守れるだろうか?
「はい、ありがとうございます」
それだけ言うと、あいつは部屋を出ていった。
僕はおじさんから手土産をもらって、そのまま家に帰り、考えた。
あいつが明日、元の世界に帰るかもしれない。
帰れる可能性が見つかったことは素直に良かったな、と思った。
だけど、おじさんたちに何も言わずに帰るということは、少し許しがたいと思い直した。
あいつには、皆に言わないといけない言葉があると思った。
次の日の朝僕は学校を遅刻した。
湊には、湊がまだ家にいる時間に電話をして伝えた。
学校の始業時間を過ぎてからおじさんたちにも電話で伝えた。
僕はあいつに、皆に感謝などを伝えてから元の世界に戻ってほしい、と思った。




