第五章(11) 嫉妬と洋服 By 湊
波ちゃんに友達ができてから、波ちゃんはよく笑うようになった。僕が中宮家を訪ねると、いつも笑顔で出迎えてくれるようになった。僕が外出の話をした時も始めは断るものの、おいしいご飯があると誘うと少し困った顔をして、それから、連れて行ってください、とお願いしてくれるようになった。
デートの日、待ち合わせ場所で待っていると、いつも着ないような色のワンピースを着た波ちゃんが来た。
「似合ってるね。中宮婦人が選んだのかな?」
「いいえ。友達が紹介してくれたお店で、友達が選んでくれたんです」
楽しそうに笑いながら教えてくれた。
僕は、波ちゃんの服はてっきり中宮婦人が選んでいると思っていたから驚いた。
中宮婦人の選ぶワンピースは大体白寄りの色でスカート丈が膝下までで、夏でも薄い長袖。
それに比べて今日のワンピースは、緑色でスカート丈が膝ぴったりで、半袖。流石に中宮婦人が許さなかったのかカーディガンを羽織っていた。
僕だったらこの色のワンピースは贈らないだろう。
そう思うと山田さんの方が 波ちゃんのことを知っているような気がして悔しかった。
「服、買いに行こう!」
そう言って僕は服屋さんに波ちゃんと一緒に行った。
波ちゃんに似合いそうな服を定員さんに見繕ってもらうと、どれも波ちゃんに似合っていた。
「波ちゃんはどれが好き?何個でも言って?」
「わ、私、こんなお金持ってないので・・・・」
そう、僕が連れてきたのは、高級服ブランドのお店だった。
「僕が波ちゃんにお洋服をプレゼントするから大丈夫」 「う、受け取れません。こんな高級な服は贈られても着れません・・・」
その言葉に、少し寂しくなった。
「友達と買った服は来てくれるのに、婚約者と買った服は着てくれないの?」
そう言うと彼女はまた困った顔をした。
僕は、最近波ちゃんに困った顔しかさせていない気がする。山田さんといるとき、波ちゃんは笑っているのに。
僕はまだ、波ちゃんを困った顔にしかできてない・・・。
それから少ししてから、
「こ、婚約者の方の選んだお洋服は、いつ着たらいいのか、わからないので・・・」
と、頬を赤らめながら言った。
その顔が可愛くて、僕は波ちゃんに
「僕がお家に会いに行った日に、僕の服を着てくれたら。だからいくつ買ってもいいよ?」
と言った。
お家だったら、汚してしまうとか気にする必要がないだろうと思ってそう言ってみた。
波ちゃんはわかりました、といいつつも、選んだのは一着だった。
一着でいいの?と聞く僕に、服が入った袋を大切そうに抱えながら、はい、と言う彼女に僕は見とれてしまう。
波ちゃんと過ごすこの日々がずっと続けばいいのに。
ここ最近、毎日そう思う僕だった。




