第五章(7) あの人のお話をします
大宮様が家を訪ねられた。私に話があると言って、いらっしゃった。そこで大宮様は、私に私の大切な人の話をして欲しいとおっしゃった。私の大切な人の話を聞いて、学さんたちとは違う形で私の元の世界を探してくれるというのです。
正直、あの人の話を話すかどうか迷いました。
あの人の話をしても誰も良い顔はしなかったからです。
だけど、大宮様は振り向いて欲しい人に振り向いてもらえない状況を分かってくれました。
なので私は話すことにしました。
「あの人は私に、役割をくれた人なんです」
「役割?」
「はい。私の役割は、あの人のそばにいることです。あの人の感情を受け止める役割です」
「感情を受け止める?どういうこと?」
「あの人のお仕事はとても大変で、家にはあまり帰って来られませんでした。ですので、お家に帰ってきていただいた時は、あの人のお話を聞いて、あの人がまたお元気で仕事に出られるようにしていました」
「そ。あの人のお仕事って?」
「知りません。ただ私にはもったいない人です」
「もったいない?」
「はい。あの人はたくさん選べることができたはずなんです。それなのに私を選んでくださったんです。だから、私は最後まで、あの人の隣であの人の感情を受け止めなければならないのです」
「なるほどな」
私は今の願いを伝えることにしました。
「ですが、もう数ヶ月あの人の元へ帰れていません。あの人の感情を受け止める人がいないです。ですから、もしかしたら、被害が出ているかもしれません。私はいち早く戻らないといけないんです」
「被害?」
「はい。あの人の性格上、あの人の機嫌がいいと仕事もすぐ済むんですが、機嫌が悪いと効率が悪くなってしまい、被害者が出ると言われておりましたので」
「なら、早く帰らないとだな」
「はい」
大宮様は出されたお茶をすべて飲まれてからお帰りになることにされました。
「大宮様、お話を聞いてくださりありがとうございました」
「また今度連絡する」
「はい」
大宮様は笑顔でお屋敷を出られました。私はあの人のことを話すことができるということがとても幸せに思いました。少しはこちらの世界に来た意味もあったのかもしれない。と、そう思いました。




