第五章(6) あいつの笑顔 By 龍也
僕は次の日の放課後、おじさんの家を訪ねた。おじさんにあいつと話をさせてほしい、と声をかけると客間に通された。父が昨日、おじさんに話をしてくれていたようで、すぐにあいつが現れた。安在さんは僕らにお茶を出して席を外した。
「ごめん。急に来て驚いたよな?」
「い、いえ。そんなことはありません」
「湊と婚約したんだってな?おめでとう」
「は、はい。ありがとうございます」
「急だっただろ」
「は、はい」
「驚いたよな」
彼女は返事をしなかった。
そこで僕は彼女の願いを聞く方向に話を進めることにした。
「僕、あなたがずっと帰りたいと思ってる気がするんだよ。あなたがもともといた世界に、大切な人がいるだろ?」
そう言うと彼女の顔つきが変わった。
「僕も同じだからな。僕もこの間まであなたと同じ目をしてたんだ」
「同じ目・・・?」
「そう、振り向いて欲しい人に振り向いてもらえなくて、それでも見てほしい」
彼女の目が大きくひらかれた。
「そういう、同じ目だ。周りの人がみんな、こっちの世界でお前が生きていけるように、向こうの世界で苦労しないよう動いている。けど僕は、僕だけは、あなたが向こうの世界で、向こうの世界の大切な人に見てもらえたらいいなと思ってる」
彼女は俯いた。
「僕は僕であなたの大切な人を探してみようと思ってる。だから、少しずつでいいから、僕にその人のことを教えてくれないか?」
そう言うと、あいつは最初の頃より笑顔になった。
あの遊園地の後ほどとはいかなかったけど見れた笑顔に、やっぱり僕はあいつの願いを叶えたい、とそう思った。




